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【第一部完結】あと7日で断罪とかマジですか? ーヤンデレ幼馴染と走る断罪回避RTAー  作者:
あと7日で断罪とかマジですか!?ー断罪回避RTAー
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〈第7話〉断罪イベント4日前ー事件発生ー

やばいやばいやばい昨日遅くまで考え事しすぎた……!


現在時刻は11時53分。約束の時間まで、あと7分。

それを認識した瞬間、表情が引き攣るのが自分でもわかった。


まさか本当に寝坊するなんて思わないじゃん……!


今どこにいるのか、間に合うのか。正直全く見当がつかない。


代り映えのない街の景色を祈るように眺める。


教会にはまだつかないの……!?


居ても立っても居られなくなって、身を乗り出すようにして馬車の進行方向を確認する。


その先に見えたのは、他に伏せた人間の姿だった。


「とまって!!」


私の叫びとほぼ同時に馬車が大きく揺れる。


椅子にしがみつき衝撃を耐えてから、急いで後方の扉から外へ出た。


開けた視界の先に見える、小柄な老婦人。彼女はうめきながら、ゆっくりと体を起こそうとしていた。


「大丈夫ですか?」


急いで駆け寄り、起き上がろうとする彼女を支える。


「痛むところはございませんか? 無理をなさらないで、少しずつ起き上がってください」


「いてて……大丈夫さ。すまないねぇ、助かるよ」


手をついて体勢を立て直す御婦人。

その手元で、きらりと何かが光った。


「落としましたよ」


ひょいとそれを拾い上げてご婦人へと差し出す。光の正体は、白い宝石のついたシンプルなピアスだった。


御婦人はそれをじっと見た後、僅かに首を傾げる。


「見たことない飾りねぇ……」


「えっ、御婦人のじゃないんですか?」


どう見ても安物じゃないよねこれ……。


いや、今はそれどころじゃない。とりあえず後で交番に届けよう。


ため息をつき、ポケットの中にピアスを入れる。


「おいおい、騒がしいから何事かと思えばホワイト婆さんじゃねえか。大丈夫か?」


背後の野次馬の中から野太い大きな声が聞こえてくる。咄嗟に振り向くと、知らない壮年の男性が立っていた。


「私は問題ないよ、ありがとうねぇ。ただ、鞄を取られてしまって。孫娘からの手紙が入ってるのに……」


御婦人は肩を落とし、声を震わせる。酷く哀れを誘うその様子が、激しく私の心をざわつかせた。


「失礼」


短く告げ、御婦人を支える手をゆっくりと離す。


「その鞄、私が見つけてみせましょう。探し物は得意ですから」


御婦人は微かに白んだ青い瞳を大きく見開き、じっとこちらを見つめる。


「本当に、いいのかい?」


「もちろんです。か弱い御婦人を狙うような輩を、放っておくわけにはいきませんから!」


勢いよくそう宣言し、御婦人の手を取る。


「絶対、鞄を取り戻して見せます!」


御婦人は呆気に取られた顔をした後、瞳を潤ませ優しく微笑む。


「ありがとう、お願いしてもいいかい?」


私は力強く頷いて、踵を返した。そのまま野次馬をかき分け外に出ようとしてーーーぼふりと、何かにぶつかった。


目の前に見える、服の上からでもわかる無駄のない鍛え上げられた体。視線を上げた先にある、キラキラと輝くエメラルドの双眸。


「よお、寝坊助」


そこにはにやりと口の端をあげたミカエルがいた。その左手には婦人物の清楚な白い鞄が握られている。


「探し物はこれか?」


「ミカ! なんでそれ……!」


その瞬間、ある可能性がよぎりハッとする


「……まさか、グル?」


「んなわけねぇだろ!」


先程までの余裕はどこへやら、ミカエルは叫びながら全力で否定する。


「ごめんごめん、いくら何でも話が早すぎたからさ。にしても、どうしたのこれ?」


苦笑する私を見て、ミカはため息を吐く。


「お前がなかなか来ないから教会の前で待ってたんだよ。そしたら女物のバッグもって走ってる不審者がいてな。とっ捕まえて不審者が来た方角へ向かってみたらこの騒ぎ、ってわけだ」


ミカは顔色ひとつ変えずにさらりと答える。


「はぁ~~……ミカ、有能だねぇ」


即座に違和感拾って相手を制圧とか能力値カンストしてない? さすが作中屈指のフィジカルお化けである。


「……まあ、一応これでも近衛騎士だからな」


ミカは視線をわずかにそらし、右手で髪を撫でつけた。ミカが照れた時によく出てくる癖だ。


ゲームと同じ仕草が見れてオタク的には大分美味しい。


ミカはそのままこちらへ歩み寄り、ホワイト夫人に跪く。その表情は軽口をたたく時とは違い、公務を行う騎士らしい凛としたものだった。


初めて見るその表情に、私は無意識に息をのんだ。


「ご婦人、貴女の鞄はこちらでお間違いありませんか?」


ホワイト夫人はそれを見て目を丸くしてから、ふっと笑って鞄に手を伸ばす。


「ありがとうねぇ。これであの子に返事がかけるわ。なんとお礼を言えばいいか……」


「市民の生活を守るのも、仕事のうちですから」


目を潤ませ鞄を強く抱きしめる夫人。それを見て、ミカは口元を緩ませる。


ミカ、こんな顔もするんだ……


見たことのない優しい微笑みに、どきりと鼓動が跳ねる。


「ほら、行くぞ」


ミカはいつの間にか、私の隣に移動していた。


「え……あ、うん」


私は御婦人に軽く礼をしてから、うながされるまま馬車に向かって歩き出す。


なに、あの表情。なんで私、こんなにドキドキしてるの……?


よくわからない感情が、胸の中でぐるぐると渦巻く。


「どうした、急におとなしくなって。昨日は話してないと死ぬのかってレベルでうるさかったのに」


そんな私の気持ちなど知らずに、ミカは訝しむように眉を顰めた。


「私だって静かになるときぐらいあるよ。そもそも、ミカがあんなかっこいい顔するからじゃん……」


「……は?」


ポロリと出た本音にはっとして、私は口に手をやった。


ちらりとミカのほうを見ると、鳩が豆鉄砲食らったような顔で呆けていた。


「ミ、ミカ……?」


急に動かなくなったけど、大丈夫かなこれ……?


言葉を紡げずわなわなと動く唇、私を見ているはずなのにどこか挙動不審な瞳。そして、じわじわと赤みが増していく顔全体。


「じゃ、じゃあまた教会で!」


なんか凄い恥ずかしいこと言った気がする……!


私は急いで馬車に乗り込んで、衝撃で軽く馬車がきしむくらいバタリと強く扉を閉めた。


「馬車、出してください!」


従者に指示をだすと、静かに馬車が動き出した。


な、なにあの反応……。


力が抜けたように、へなへなとその場にへたりこむ。


心臓が早く強く脈打つたびに体が揺れる。それが急いで動いたからか、羞恥からかはわからない。ただ、なぜか全身が熱くて仕方がなかった。


ちらりと外を見る。そこにいたのは赤い顔で唇をかみ、髪をかき上げているミカ。


好感度大幅上昇時のスチルでみた、あの仕草そのものだった。

お読みいただきありがとうございます!

皆様の反応が励みになりますので、よろしければブクマ&リアクション&コメントお願いします!

ブクマ5ごとに番外編を追加予定です✨

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