アートボーデン軍の抵抗
オリバーは父上達の馬車を見送り、執務室で国境付近の警備からの報告書を読む。スカラシュタイン王国との国境付近では、兵士の増員の報告が上がっている。ただ、国境付近への人が増えているものの、戦争準備の動きとまでは言えなかった。父上にも報告して、こちらも警備の数を増やす程度しか動くことができない。昼間、アリアに聞かれた時には言えなかったが、一歩間違えば、戦争の引き金を引きかねない。そんな緊張関係が続いていた。
報告書を一通り読み終わり、息をついた。父上達がフォレスタンドに着くのは日が暮れる頃だろうか。アリアが外交についていくのは、どれくらいぶりだろう。アリアはもう心配するような年ではないことは分かっているが、それでも昔の様々な失敗が思い出されて苦笑いしてしまった。
執務室のドアがノックされ、騎士が報告に来る。
「オリバー様、報告書です」
「そこに置いておいてくれ。何か変わったことはあったか?」
「それが、国境付近の兵がやや減ったようなのです」
「減った?」
「はい。どこに動いているかまでは掴めませんでした」
「そうか、ご苦労だった」
「失礼します」と騎士が出ていく。外交の情報が漏れていれば、これを機にとスカラシュタインが攻めてくる可能性もあるが、減ったというのはどういうことだろう。今後も注視しなければ。
そう考えていた矢先、遠くからドーンという衝撃音が聞こえた。急いで振り返り窓を確認すると、遠くの国境付近から煙が上がっている。
騎士たちに緊急招集をかけ、城の者にも避難を命じ、城から出て馬を走らせる。スカラシュタインの軍隊が国境を越え、街の方まで迫っていた。
「国民の避難を。急げ! 避難ができたら城で迎え打つ準備を!」
自分の騎士団に呼びかける。
「私たちで時間を稼ぐぞ」
スカラシュタイン軍は手榴弾のような爆弾や、鉄砲のようなもので攻撃してきた。距離を取られて戦いにくい。剣ではなく魔力で押したほうがいい。炎を使い人を薙ぎ払うが、圧倒的な人数に苦戦していた。
「オリバー様、国民の避難が完了しました!」
「よし! では少し引こう。体制を立て直す!」
炎で距離を保ちながら騎士達をひかせ、城まで戻る。スカラシュタイン軍は勢いをつけ、攻め込んできた。
城の大砲や魔法を使い攻撃をするが、人数が多く、ついには城門を破られしまった。城の外へ押し返そうと戦っていると、そこに敵の大砲が撃ち込まれた。
轟音とともに辺りの人が吹き飛ばされる。スカラシュタインの兵も例外ではなかった。
味方が犠牲になることを分かって撃っているのか。信じられない。人をなんだと思っている。
怒りが体を震わせ、それとともに魔力が湧き上がってくる。炎が大きくなり、軍隊を後退させていった。
スカラシュタインの兵達も、大砲が撃ち込まれたことを見た者は呆然とし、戦意を失っているように見えた。そもそも、兵士の質は良くない。人数として集められたような者が多いことは、騎士達も感じとっているだろう。
風と炎の魔法を両手で操り威力を強めることで、軍隊を徐々に押し返す。スカラシュタイン軍は、撤退する頃には歩兵隊はほぼ壊滅し、騎馬隊だけになっていた。主に騎馬隊の者が、訓練を積んでいるものなのだろう。歩兵隊は捨て駒というわけか。なんて残酷なんだ。
また怒りが込み上げてきていたが、戦場を見て我に返った。そこには自国、敵国ともに多くの負傷者がいた。
騎馬隊にも怪我人は出ていたようだ。もっと粘られるかと思っていたが、国境より手前で撤退して行った。
こちらも兵士達の怪我人の多さや魔力の消費が著しい。深追いせず、城へ戻ることにする。
「皆でけが人を連れて城へ戻ろう。城の方にもけが人がいるだろう」
城へ戻りながら、変わり果てた王国の姿に胸が痛んだ。国民が大切にしてきた田畑や草原が、見る影もなくなっていた。自分の力不足によるものだ。唇を噛んだ。