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晩餐会

 今日の晩餐会はフォレスタンド王国で行われる。昨日の夜、恥をかかないようにと資料を読み返した。久しぶりにフォレスタンド王家の皆さんと会えるのが嬉しくて、ドレスや髪飾りもメイド達と選んだ。昼食を済ませて準備にとりかかる。夕刻の晩餐会に間に合うよう、まだ日が高いうちに王国を出なければならない。

「では出発しよう。オリバー、留守を頼む」

「承知いたしました。道中、お気をつけて」

 そう言って馬車に乗り込む父母に続く。乗り込む時に、見送りに来てくれていたウィンと目があった。少し微笑み馬車に乗る。父親である騎士長が同行するから見送りに来たのであって、私のためじゃないと思うけど、姿が見られて嬉しかった。

 関係が良好なフォレスタンドとの外交ということで、フォードキア騎士長と数名の護衛しか同行しない。お兄様やメイド達に見送られてお城を出た。


 フォレスタンド王国は馬車で三時間ほどの距離にあった。フォレスタンド王国とアートボーデン王国は古くから親交が深い。何より母はフォレスタンド出身で、現国王のいとこにあたる。フォレスタンドは林業と水産業が盛んでアートボーデン王国と貿易も行っている。フォレスタンド王家もアートボーデン家ほどではないが男性陣は風の魔法を使える。女性は魔力を持たない者もいるが、母は魔力を受け継いでいた。

 

 もう一つ、この大陸には国がある。それがスカラシュタイン王国だ。スカラシュタイン王国は魔法は使うことができない。鉱石の採掘が元は主産業だったが、機械化により事業を広げ、近年は工業の発展が目覚ましい。だがそれらを軍事にも転用させて力を強めているので、フォレスタンドとアートボーデンが協力し、均衡を保っているような状態だった。魔法を使える、使えないという事以上にスカラシュタインとは溝が深まっているように感じる。今回の晩餐会は国王同士の会談に付随するものだ。会談ではスカラシュタイン王国に対する軍事政策も語られるのであろう。そのことを考えると戦争の片棒を担ぐみたいで、あまり晩餐会には乗り気になれなかった。

 

 ここ二十年ほどは戦争がなく、私は戦争を知らない。国境付近では小さな軍事衝突はあるものの数日で収集することが多かった。だが、近年の三か国の情勢をみていると、大きな戦争が起きるのではないかと不安になる。戦争が起きたら真っ先に前線に立たなければならないのは騎士だ。ウィンのことが心配だった。街の人々の暮らしはどうなってしまうだろう。みんなの笑顔が浮かぶ。他人の心配ばかりではない。オリバー兄様も騎士団を率いて戦うだろう。私自身もどうなるかだってわからない。他国に嫁いだり、人質といったこともあるのだろうか。私はこの国が大好きなので他国に行くなんて考えたくない。そんなことを思っているとお母様が私に言った。

 

「そんな暗いお顔をしてどうしたの。何かあった?」

「いえ、なんでも……お父様、私ももう二十二です。どこかにお嫁にいったりしなければならない?」

「大事な娘を簡単にはやれん。だが話があれば、いってもらうこともあるかもしれんな。どうした急に。フォレスタンドは王子がいないからな。今回はそういう話にはならんぞ」

「ちょっと考えていただけ」

 

 そう、フォレスタンドには四人の王女はいるが王子はいないのだ。オリバー兄様はフォレスタンドの第三王女、ソフィア様という許婚がいる。だが、私に許婚はいなかった。外交のことを考えれば、嫁ぎ先はスカラシュタイン王国が第一選択だ。そう考えるとゾッとした。スカラシュタイン王は、冷酷で残虐的な人だと噂されている。子どもは王子が二人。そんな王の下で育った子ども達が、それを受け継いでない訳がない。すごく偏見かもしれないけれど。

 父は私のことを大切にしてくれているし、今はスカラシュタインとの仲は良くないので簡単に嫁がせたりはしないと思うが。もし私が他国の王子と結婚しなくてもよければ……私が想っている人の側にいることはできるだろうか。結婚できなくてもいい。今のまま、毎日のように顔を合わせ、たまに笑って話ができれば。幼なじみとして生きていけるならどんなに良いだろう。でも、それは叶わない願いだと心の中にしまい込む。頭ではよく理解している。そんな都合の良いことが起きるわけがない。

 

 小さな頃、身分の違いを教わって、好きな人と結婚ができないなんてと大泣きしメイド達を困らせたことがある。見かねたお母様が来て「私は父上のことを愛していますよ。あなたみたいなかわいいプリンセスもいて、とっても幸せです」と話してくれ、メイド達も「素敵な王子様が迎えに来てくれるのですから。楽しみではないですか」と諭されて、その頃の私はそうなのかしらと落ち着いた。けれど、年を重ねるだけそれは綺麗事なのではないかと思ってしまう。

 

 王女なのだから、仕方がない。そろそろ私も覚悟しておかなければならない年頃なのだろう。まだ、現実味がなくて覚悟と言っても何をすれば良いかわからないけど。ウィンのこと……心の中で思っているだけなら許されるかな。

 考えても仕方のないことだ、先のことなんて誰にもわからないのだからと気持ちを切り替え外を見るとフォレスタンドのお城が目に入った。とても懐かしい。遠くに雷鳴が聞こえ、雨が降ってきそうだった。

 

「ようこそ、お越しくださいました」

 到着すると雨が降ってきた。フォレスタンド国王陛下と王女様達が出迎えてくれた。私はフォレスタンドに来るのは久しぶりだった。王女様達と会えて嬉しい。特にソフィア様は兄の許嫁というだけでなく、年齢が近いので友人のような、様々なことを話せる間柄だった。小さな頃に見たフォレスタンドの景色とは少し変わっていたような気がするが、何がと言われれば答えられないくらいだった。

 

「妻と末娘のミラが体調を崩していて。出迎えられず申し訳ない」

「そうだったのですか。延期してもよろしかったのに」

「いえ、急だったものですから。さあさあ、長旅でお疲れでしょう。どうぞ中へ」

 ソフィア様の顔色が悪いように見えたのだが、そそくさと中に入ってしまったので話しかけるタイミングを逃してしまった。具合が悪くないのだと良いのだけれど。

 

 晩餐会が始まり、フォレスタンド王国自慢の海産物に舌鼓を打った。どのお料理もとても美味しい。ソフィア様のお姉様方の嫁ぎ先である公爵家の人々もいらしていて、賑やかだった。お父様は国王陛下とお話になりながら、いつもよりお酒が進んでいるように見えた。私もソフィア様とお話がしたくて、様子を伺っていたのだがお食事がほとんど進んでいない。やっぱりミラ様の風邪をもらったりして、体調がわるいのだろうか。

 

 晩餐会も終盤にさしかかったところで、ソフィア様が席を立たれたので、私はソフィア様を追いかけた。

「ソフィア様。久しぶりなのでお会いできて嬉しいです。お話したいと思っていました」

「アリア様……」

 ソフィア様はやっぱり元気がない。というより、何かに怯えているような……

「もしかしてソフィア様もお加減が悪いのですか。人を呼んできましょうか」

「違うの。来て」

 ソフィア様が周りを気にしながら、私を人気のないところへ連れ出した。

「ごめんなさい。逃げて」

 ソフィア様が私の両手を握りしめながら、小声で言う。

「え、なんて?」

「もうすぐ、スカラシュタインの者達が来るわ。今日の晩餐会は罠なの」

「どういうこと?」

「説明している時間はないわ。あなただけでも。裏手に出られる通路に案内するから」

「そんな、父と母を置いて行けません。すぐに戻って……」

「そんなことしていたら――」

 続き言葉が聞こえないほどの大きな爆発音。晩餐会のホールの方からだ。

「お父様、お母様っ」

「行ってはダメ!」

 

 ソフィア様の声に構うことなくホールの方へと走る。そこにはスカラシュタインの軍隊が押し寄せているところだった。人々が逃げ惑い、騒然としている。お父様は魔法で軍隊相手に応戦し、お母様はその後ろで補助魔法を発動しているようだった。隙を見てお母様の元へ走る。

 

「アリアっ、逃げなさい!」

 お父様が大きな炎で相手を怯ませながら叫ぶ。

「私だけ逃げるなんてできません。私にも何か――」

「王妃が怪我をしている。連れて逃げてくれ」

 お母様を見ると左腕からかなり血が出ている。大きな怪我をしているようだった。補助魔法はおまじないを持続しなければならないため、気力と体力を大きく奪われる。大きな怪我をした状態では難しい。

「お母様、行きましょう」

「陛下……」お母様は何か言いたそうだったが、お父様に従った。

「必ずお帰りになってください」そう言いながらご加護と集中のおまじないをかけて私とその場を離れた。

 

 とりあえずソフィア様と別れた場所に行こう、裏手に続く通路があると言っていた。お父様は私達が逃げる猶予を稼ごうと数人のお付きの騎士と共に隙を作ってくれた。

「お父様……」

 振り返りながら改めて状況を見るが、スカラシュタインの軍隊は窓と入口の二方向から入ってきているようだった。フォレスタンド王の姿は見えない。倒れているのでなければ、逃げたのかもしれない。お父様の魔法の力は軍隊を圧倒してるけれど、人海戦術と言わんばかりに人が次から次へと来ている。どのくらい持ち堪えられるだろうか。

 

「アリア、振り返ってはなりません。今は王国まで帰り、援軍を呼ばなければ」

 そうだけれど、馬車で三時間の道だ。普通の馬でも一時間はかかるだろう。私には間に合うだろうかと思ってしまった。それでもお母様はお父様を信じているようだった。

 

 ソフィア様と別れたあたりまで来ると「こっち!」と声が聞こえた。廊下を曲がってすぐの壁からだ。私たちはそちらに急いだ。

 壁が外れて、その先に通路が続いている。そこにお母様を先に通して後から続く。

「ソフィア様、ありがとう」

「いいえ。王妃様、申し訳ありません」

 目いっぱいに涙を浮かべたソフィア様が早足で歩きながら、話し始めた。私はお母様の傷の手当てを簡単にしてから後に続いた。

 

「昨日、突然スカラシュタイン王国の軍隊がやってきたんです。城の外に出ていた母とミラを人質にとられてしまって。知らせたかったのだけれど、気づいた時には身動きがとれなくなっていました。晩餐会を予定通り行うようにと。父は仕方なく受け入れたのです。私も何もできなかった。ご存知かわかりませんが、我が王国の魔力は年々弱くなっています。父の魔力も。そこで、スカラシュタイン王国の工業の力を借りようかと父は悩んでいたところだったのです。本来なら、この後の会談でその事を国王陛下に相談するつもりだったのでしょう。しかし、魔力が弱まっていることを先にスカラシュタインに気がつかれてしまったのだと思います。父は人質も取られてしまい抵抗できませんでした」

 

 久しぶりのフォレスタンドの景色に違和感を感じたのはそれだったのか。来る途中、ほとんど人影を見かけなかった。夕刻だからだろうと思っていたが、スカラシュタインの軍隊のせいだったのだ。そして風の魔力も感じなかった。魔力の名残も。もう少し早く違和感に気づいていれば。

 

「そうだったのですね。話してくれてありがとう。ソフィア。私も元はフォレスタンドの人間です。もう少し早く気がついていれば……」

「王妃様は何も悪くありません。抵抗できなかった私達が悪いのです」

 ソフィア様が「ここです」と出口を指した。

「馬が数頭いるはずです。使ってください」

「ソフィア様も一緒に――」

 ソフィア様は静かに首を振った。

「私は残ります。逃げれば母と妹に何があるかわかりませんから」

「でも、残っていても!」

「その時はそれが私の運命だったのでしょう」

「そんな……」

「オリバー様にお伝えください。私が言う資格はないかもしれませんが、オリバー様のことは本当に大切に思っていたと。嫁ぐ日を楽しみにしていたのです。あなたが義妹になることも」

 ソフィア様が力なく微笑んだ。大好きなソフィア様とこんな悲しい別れ方をしたくない。

「ソフィア様、必ずまた会いましょうね」

 私は泣いていたけれど、できるだけ笑顔でご加護のおまじないをかけた。

「アリア様、ありがとう」

ソフィア様が出口の扉を閉め、姿が見えなくなった。

「急ぎましょう」

 

 お母様が馬に乗って道を急ぐ。私も続いた。フォレスタンド王国は林業が盛んなだけあって、林や森が多い。天気が良くないことも相まって、敵が潜んでいてもわからないような暗さと静けさだ。怖い。夜の雨に降られて寒さもあり、私は震えていた。

 

 王国を出るまでいつもと変わらない日常だったのに。ウィンと話したのが遠い昔のことのようだ。ウィンに会いたい。でも、今あった出来事を話せば彼はフォレスタンド王国に行かなければならない。それは嫌だった。

 

 お母様が急に馬を止めた。あんまり急だったので私は通り過ぎてしまうところだった。

「あれはなに……?」

 お母様が呆然としながら指差した方を見る。アートボーデン王国の方だ。

 そこは炎で明るくなり、煙も上がっていた。

「どうして……」

「行きましょう」

 再び馬を最大限の速度で走らせる。

 

 アートボーデンも攻撃されている…フォレスタンド王国での晩餐会で国王が不在の間を狙ったスカラシュタインの攻撃だろうか。フォレスタンドにいた時には考えもしなかった。晩餐会で国王を誘き出して戦力を削ぎ、本来の目的はアートボーデンを攻めることだったのだろうか。そう考えると不安と恐怖で心臓が止まりそうだった。お兄様は、ウィンは、大丈夫だろうか。国民は避難しているだろうか。色んなことがありすぎて、もういや。感情がぐちゃぐちゃになって泣き出しそうになった時、お城の門が見えてきた。泣いている場合じゃない。

 お母様と様子を見るためにお城の裏へ回った。魔力の名残を肌からでも痛いほど感じ取れた。お兄様がかなりの魔法を使ったのだろう。

「裏口から入ってみましょう」

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