人を呪わば穴二つ
「…アナタ、本当に煩悩だけで逃げ腰ね…」
「だって怖いですし…そもそも怨霊にやられたらどうなるの?」
呆れ顔のユマリナに質問する俺。ユマリナは脚を組みかえて話しを続ける。スラリとした艶めかし脚を凝視する。ユマリナは少し困った表情で言う。
「…魂ごと消えて、存在自体がこの世からもあの世からも消滅するわ」
困り顔のユマリナに、俺は頬を掻きながら胸の内を話す。
「元から俺の存在なんて消えてしまえばいいと思ってましたけど。煩悩以外に夢も希望もなかったですし…今更怖い思いしたくない」
「私も怨みばかりの人生で、呪えない人生なんていっそ消えてしまっても後悔ないです…」
俺の意見に夏菜も同調してきた。ユマリナはもっと困った表情になりながら話を続ける。
「まぁまぁそんな暗いこと言わない。もし108の怨霊倒せたら、アナタ達の想う理想の転生をさせてあげる。例えば誠は金持ちの家のイケメンボンボンに産まれて、女とヤリたい放題に金使い放題なんてどう?夏菜も人を怨まないで生きていける環境で転生して、人生やり直すとか」
「そんなこと出来るの!?」
「人を怨まずに生きる…」
俺と夏菜は少し考え込む。確かに違う人生に興味はある。
「人を怨まない人生…そんな人生歩んで生きたいです」
「え、マジ?怨霊退治するの!?」
夏菜っていったいどんな人生歩んできたんだ?俺も悲惨な人生だったけど。
夏菜のやる気発言に、ここぞとばかりにユマリナが畳み掛けるように話してくる。
「その意気よ夏菜!戦いの中で転生の理想とか見つかるかも知れないわよ。誠もやりなさいよ」
夏菜とユマリナの視線が俺に突き刺さる。どうでもいいが、二人共いい乳してる。
「じゃ、じゃあ俺もやります」
夏菜とユマリナの巨乳を揉みしだく妄想に負け、邪なノリで決めてしまった。
「ユマリナ殿…で宜しいか?位の高い存在とお見受けした。ところでその怨霊とやらは、人に悪さをするのですかな?なら、ワシ達も何かお手伝い出来ることはありませぬか?」
神主がイチモツを揺らしながら聞いてきた。ほぼ全裸の姉妹も興味ありそうだ。何だこの猥褻物陳列罪な家族は。
「怨霊は人に取り憑いてこの世の秩序を乱す邪な存在よ。それじゃあアナタ達も一緒に怨霊退治に参加してちょうだい。後で連絡先交換しましょう」
「合点、承知した」
そんなに簡単に決めるの?神主はやる気マンマンみたいだ。何故か股間もギンギンになってる。姉妹も見つめ合いながらウンウン頷いている。
「じゃあ明日の深夜一時半から、この神社でみんな修行するわよ」
え~修行…、めんどい。俺は安請け合いしたことを後悔した。だが、他のみんなは目をキラキラさせてやる気に満ちている。
「ところでユマリナさんは戦わないの?」
「魔物を召喚とかできるけど、基本私はこの世で戦っちゃダメなの。けどみんなのサポートはするわ」
え、ユマリナ戦わないの?そんなのセコい。
「じゃあ話はまとまったわね。明日から修行よ。それと誠、夏菜、魂と肉体は固定されたから、もう幽世繋ノ輪は外しても大丈夫よ。戦闘時だけ付けて。戦闘力のアップと、力の使い過ぎで魂が消えるのを防いでくれるわ」
俺と夏菜は幽世繋ノ輪、耳飾りを外す。二人とも元の呪いの白装束姿に戻った。
「ユマリナさん、俺と夏菜死んだんでしょ?これからどうすればいいんですか?帰る家とか」
「私はまだマンションに地縛霊みたいに住んでますけど、そのうち解約されて他の入居者が住んじゃいますよね…」
「アナタ達は確かに死んだけど、もう幽霊じゃなく肉体を持ってるから地縛霊作戦は無理よ。死んだから会社にも行けない。こちらで住む場所と働き口用意するわ」
俺と夏菜とユマリナの会話に、神主が割り込んできた。
「誠君と夏菜さんだったかな?住む場所も働く場所もないのなら、うちの神社に住み込みで働けばいい。その代わりもう丑の刻参りは止めてもらうぞ」
「あら、丁度いいじゃない。修行場所でもあるし」
さっきまで戦ってた仲なのに、神主だけあって心が広い。それより俺は夏菜と女子高生姉妹とひとつ屋根の下に住むのも悪くないなと考えてた。それと会社には未練ないってかクビ寸前だったし。
「それじゃ、お言葉に甘えてご厄介になります。夏菜も厄介になろうよ」
「なら私も住み込みで頑張って働きます。呪うのは我慢します…」
「そうと決まれば、深夜の今のうちにマンションに帰って荷物をまとめてきなされ。深夜に呪いの白装束姿なんぞ、警察見つかったら職質もんじゃ、車で送迎してやろう」
お前こそ全裸で職質受けるぞ。けど、ちょっと変な奴だけど神主優しい。お言葉に甘えよう。
「ではワシは着替えて神社の前に車を回しておく。誠君と夏菜さんは神社の前まで来ておくれ」
神主はそう言うと境内の奥の屋敷に消えていった。姉妹も後を追うように、同じく屋敷に消えていった。
「ではまた明日の夜に会いましょう」
ユマリナはそう言うと、その場から消えた。ちょっと全裸の約束は…?
俺と夏菜は言われたとおりに神社から出ようとした。夏菜と二人きり…胸が高鳴る。
「その…色々ありましたが、誠さんに逢えてよかったです」
夏菜はそう言うと、俺の手を握ってきた。内心ドキドキの俺。
「お、俺も夏菜と逢えて嬉しいよ」
鳥居を超えて神社を出ようとした時、二人してぶっ転んだ。そうだ…俺、落とし穴掘ってたんだ。俺も夏菜も思い切り顔面から転んだ。せっかくのムードが一気に消えた。
人を呪わば穴二つ…ともかく新しい生活が始まろうとしていた。