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蓮華 ~外伝~  作者: 釜瑪秋摩
長田鴇汰 ~成長~
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第8話 やっぱりうまくいかない

 なんだかんだとバタバタした日々を過ごし、気づけばあっという間に一カ月が過ぎていた。

 巧が休んでいるだけで、意外とみんなも落ち着きがない。


 麻乃は結局、庸儀の野郎の見張りを続けているようで、医療所へ通っているらしい、と、誰かが話しているのを聞くたびに、気が気じゃあなくなる。

 足の骨折も、治ったのなら全快を待たなくても、さっさと大陸へ帰してしまえばいいのに。


 会議のあと、軍部の会議室で麻乃は神田や徳丸たちと雑談をしている。

 本当は一緒に話をしたいところだけれど、西浜への持ち回りの準備があって、先に出なければならない。

 宿舎に戻って荷物をまとめ、穂高と一緒に車に積み込みをした。


「なあ鴇汰。昼ご飯、どうする?」


 時計をみると、昼を過ぎている。

 西区に着いてからだと、昼飯には遅い気がした。


「花丘で食っていくか? 向こうに着いてからじゃあ、遅いもんな」


「そうしよう、俺、もう腹ペコで……あ、あれ、麻乃じゃあないか?」


 穂高が宿舎のほうをみながら、急に大声を出した。


「麻乃!」


 宿舎に帰るところだったのか、麻乃が振り返り、穂高はそのそばへ駆け寄っていってしまい、仕方なく鴇汰もあとを追った。


「なに? あんたたち、今週は西浜でしょ? 今から出るの?」


「うん。麻乃は? 休みなら、これから一緒に昼ご飯でもどう?」


 まさか穂高が麻乃を誘うとは思わなかった。

 鴇汰に気を遣ってくれているんだろうけれど、突然すぎて焦ってしまい、手に汗を握った。


「ごめん、あたし今週は東で隊員たちの訓練があるから、すぐに出なきゃあいけなくて……」


「そっか……じゃあ、仕方ないな。鴇汰、二人で行こう」


 なんだ……。

 ちょっと期待したけれど、そううまくはいかないようだ。

 ふと見ると、麻乃は手に庸儀の野郎についての報告書のファイルを持っている。 


「ホント、ごめん。また誘ってよ」


 宿舎のドアを開こうとした麻乃の手を、思わず掴んだ。


「おまえ、まだあの庸儀の野郎の見張り、やらされてんのか?」


「あー……うん、まあね。足も治って動けるようになったから、これからちょっと面倒かも」


「……医療所、行くときは隊員を誰か連れていけよ?」


 やっぱり、まだ見張りは続いているのか。

 相手が動けるようになったというのなら、なおさら心配だ。


 まさか、一人で行ってはいないと思うけれど、隊員を連れていくように念を押した。

 途端に麻乃の表情に不機嫌な色が浮かぶ。


「それ、小坂と葛西にうるさく言われているんだよ。いつも二人を連れていってるから、大丈夫だよ」


「だったらいいけどよ、おまえ、本当に気をつけろよな」


 もういい加減、鴇汰がなにを心配しているのか、伝わるだろうか?

 念を押すように言ったセリフに、麻乃はむきになって言い返してきた。


「このあいだから、みんなそういう。なんなの? あたしがあんなヤツに後れを取ると思っているわけ?」


「だから、そういうんじゃあねーんだって」


 あ、やっぱり伝わってない、と思った。

 というか……『みんなそういう』ということは、きっと小坂たちも鴇汰と同じことを心配しているんだと思う。

 恐らく、その中には修治もいるに違いない。


「だったらなんだってのよ? みんな、あたしを見くびってるんじゃ……」


「違うっていってるだろ! あいつは男で――」


「だから男だからって、あたしが負けるわけないって言っているでしょうが!」


「その『気をつけろ』じゃねーんだって、言ってんだろう!」


 麻乃は自分の腕前に疑問を持たれていると勘違いしているようだ。

 腕前云々の話じゃあないのに。

 庸儀の野郎に、いいようにたぶらかされないように、なんて言ったら、それはそれで怒りだしそうだけれど……。

 麻乃はよほど腹立たしかったのか、腕を大きく振って、鴇汰の手を振りほどいた。


「ちょっと待てよ! 麻乃も鴇汰も、落ち着いて!」


 穂高が慌てたように割って入り、麻乃をなだめた。

 怒らせるつもりはなかったのに、これじゃあせっかく一緒にいられても、ますます嫌われそうだ。


 伝わらないジレンマに苛立って、つい言い返したくなるところだけれど、麻乃にそれは逆効果だと、今はちゃんとわかっている。


「取り敢えず……麻乃、訓練、気をつけて。鴇汰、行こう」


「うん……ありがとう」


 麻乃はそういうと、手を振ってから宿舎へ入っていった。

 穂高に背中を押されて車に戻った鴇汰は、運転席に乗り込むと、ため息をこぼした。


「なんでいつも、言い合いになっちまうんだろう……どうしてこうも、うまくいかねーんだろうな……」


「鴇汰、庸儀のやつが麻乃に変なちょっかい出さないか、心配なんだろう?」


「……まあ、そんな感じかな」


「麻乃って、そういう面では本当に無頓着だもんな」


「付き合ってもいないのに、言い寄られても無視しろ、とか言えねーじゃん?」


「だね。それに、そんなことを言えば、また別な意味で麻乃を怒らせそうだ」


「そうなんだよ! だからって……黙ってもいられなくて、つい……な」


 上層は、なにを考えていつまでも麻乃に見張りをさせているんだろうか。

 逃げられないように、というのなら、修治でもいいはずだし、なんなら交代制でもいいじゃあないか。

 やり場のない苛立ちを、上層に向けずにいられなかった。

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