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蓮華 ~外伝~  作者: 釜瑪秋摩
笠原梁瀬 ~馴れ初め~
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第5話 不思議な夢

 分厚い本を開き、書かれた文字を目で追いながら、しわがれた手が古びたノートにペンを走らせていた。

 古い術式をいくつも並べ、それに新たな術式を書き足していく。

 これは大人数の行動を制限させて、戦争を止めるための術だ。


 ほかには大地を蘇らせるため、植物の成長を促す術式もある。

 風を呼ぶ呪文をいくつも書き出し、それも改良してさらに強い術も作った。


 まだ見ぬ力を受け継ぐもののために、できるだけ多くの術式を残しておかなければ。

 そう思いながら、声に出さずに呪文をつぶやく。

 それを一つ一つ記憶していく。


 それらは口にするのは大陸での呪文なのに、書きだしているのは見たことのない文言になっている。

 疑問を感じながらも、つぶやきながらノートに書き込んだ。

 ボソボソと声が耳に届き、文字を書く手を止めて部屋の扉を振り返る。


『誰かいるのかね?』


 手と同じようにしわがれた声で問いかけると、立ちあがって扉を開いた。

 外には誰もいない。


『ああ……そうか。いずれ会うキミか……』


 語りかけられて、声の主が老人だとわかり、ハッと目を開いた。

 真っ暗な部屋で梁瀬は目を覚まし、熱を出して眠っていたことを思い出した。

 たった今、夢で見た術式をつぶやく。


 くらりと目眩がして、熱が上がったような気がした。

 窓を強い風がガタガタと揺らし、急に冷えた気がしてトイレに行きたくなった。


「今、何時なんだろう……」


 暗いから夜なんだとわかるけれど、時間がわからないから両親が起きているのかもわからない。

 静かに部屋を出てトイレに向かい、用を足すとまたすぐに眠りについた。

 翌朝にはスッキリと目が覚めて、熱は下がったようだ。


「熱は下がりましたね。ですが、あと二、三日はゆっくりするようにとお医者さまが仰っていましたよ」


 母が作ってくれたおかゆを食べながら、体調が落ち着いたら、通う道場へ一緒に挨拶へ伺うことになったと聞かされた。

 梁瀬はすぐにでも見学に行ってみたかったけれど、ここは母のいうとおり、休むことにした。


 布団で横になったまま、ウトウトするとあの老人の夢を見る。

 彼は常に術のことを話しながら、術式や呪文をノートに書き込み続けている。

 読みかたがわからないな、と思うと、それが届いているかのように老人は呪文を口にした。


 まるで夢の中で術を教わっているような気がしていた。

 朝、目が覚めるたびに夢の内容は忘れてしまうけれど、必ず一つはなにかの術が頭の中に残っている。

 忘れないうちにノートに書きだしてから、その術を使ってみた。


「ゼフィロス・キャロル」


 部屋の窓から外へ向けて杖を小さく振ったけれど、特になにか変化が起こることも、術を放った感覚もない。

 それが失敗だったと気づくまで数日かかるくらい、術がなかなか馴染まなかった。

 両親に教わる術式と少し違うのが原因だろうか?


 どうせなら、両親に教わるのと同じように、対面であの老人からも教わりたい。

 うっすらと頭の中をよぎるのは『賢者』のことで、ひょっとするとあの老人がその一人なのかもしれない、と思っている。

 

 いつか賢者といわれる人に術を教わりたいと、小さいころから思っているけれど、そう簡単なことではない。

 探すだけでも一苦労だろうし、広い大陸の中、どこをどう探したらいいのかもわからない。

 ましてや今は、梁瀬は泉翔に暮らしている。


 ジャセンベルもヘイトも、ロマジェリカに暮らしていたとき以上に、行かれない場所になってしまった。

 今でも時折、夢に出てくる老人に、会いたいと思っていることを伝えたいのに、その手段がわからないまま、ゆっくりと月日は過ぎていく。

 最近は梁瀬自身に力がついてきたからなのか、老人の書き記す呪文のほとんどが、初見でも使えるようになってきた。


 道場に通いながら、空いた時間に泉翔の歴史についてや、大陸との関わりかたを資料で読み漁るようにもなった。

 両親にはまだ、夢のことは内緒にしている。

 老人の術式を試すときは、人けのない海岸や岩場、砦のあたりでこっそりと。


「エアリアン・インヴォケーター」


 岩場の片隅で隠れるように試した術は、強い風を巻き起こして沖へと吹き抜け、梁瀬はあまりの勢いに海に落ちた。

 どんな術かわからない以上、試してみる以外にないのだけれど、自分で制御できない術だったら、と考えると恐ろしくなる。

 幸いにも今は怪我することなく済んでいるけれど……。

 それでも、どうしても好奇心には勝てず、こっそりと試していた。


 十三歳になり、道場での鍛錬にも慣れ始めたころ、演習にも参加するようになった。

 同じ道場には、ロマジェリカから一緒に渡ってきた数人がいるけれど、梁瀬を含めてみんな戸惑いながらやっている。

 同じ道場で親しくなった子どもたちと一緒に組んで行動しているけれど、腕に巻かれた組みひもを斬られてしまうことが多い。


 どうやら近隣の道場に、年下なのに腕の良い子が何人かいるようで、そういった子に遭遇すると紐が斬られるのは、本当にあっという間だ。

 去年、演習中に敵兵が入り込む事故があったらしく、しばらく演習は中止されていたと聞いた。


 今年になって再開されたけれど、強かった子たちはさらに腕を上げているとみんなが話しているのを耳にした。

 幸いなことに梁瀬とは年齢での組み分けで、その子たちと一緒になることはなかった。

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