第9話 これから
翌日から、麻乃と二人で改めてあちこちへ挨拶に回った。
来て欲しいと思った人たちのところへは、やっぱり既に連絡が行っている。
中央の軍部へも行き、ほかの蓮華たちとも話をし、梁瀬にはクロムへの連絡も頼んできた。
「なんか思っていたのと違う……」
軍部を出て中央を離れる車の中で、麻乃は困惑した様子でつぶやいた。
考えていたよりも規模が大きいのが気になるみたいだ。
「でもまぁ、修治と多香子さんのときも、こんなモンだったろ?」
「そうだけど、あたしはもっと……家族と高田先生と、鴇汰の叔父さんだけで良かったのに」
「それじゃあさすがに少なすぎるだろ? 衣装を大切に保管していてくれたおクマさんだって、七番のやつらだって、呼ばないわけにはいかねーじゃん?」
「ん……それはわかるけど……」
「イツキさまにも言われたんだし、あとのことは神殿に任せておけばいいんだよ。もう、なるようにしかならねーんだからな?」
「そんな気楽に言わないでよ」
「麻乃こそ、そんなに思いつめるなって。当日の状況がどうあれ、おまえはあの衣装を、ご両親に見せるつもりでいればいいんじゃねーか?」
「……そっか……うん、そうだね」
助手席のシートに深く身を沈めた麻乃は、大きなため息をついてから、そう答えた。
翌日からは、神殿から呼び出されて、儀式の詳細を聞かされたり衣装合わせをしたりと、なんだかんだで忙しい。
気づけばあっという間に時が過ぎていった。
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爽やかな風が、泉の森を吹き抜けた。
良く晴れた空の下、陽の光は木々と一緒に揺れている。
カサネを始め、イツキやサツキ、巫女たちの祝詞がゆっくりと流れていく。
祭壇の前に立った鴇汰は、隣に立つ麻乃へ目を向けた。
真っ白な花嫁衣装は巫女たちの衣にも似ている。
少し伸びた紅い髪が、風が吹くたびに揺れていた。
祭壇に火が灯されて、カサネの言葉が響く。
――泉の森の女神はじめ、八百万の神々よ、ご加護を願い、謹んで申し上げます。
ここに、長田鴇汰と藤川麻乃が、
誓いのもと、結婚の儀を執り行うことをお許しください。
新郎、鴇汰、新婦、麻乃、この度の結婚により、新たなる家族を築き、
共に助け合い、喜びも悲しみも分かち合い、互いに支え合いながら、
永遠に続く愛を育んでいくことを誓います。
どうか、神々のご加護を賜り、新郎新婦が健康で、幸福に満ち、
家庭が繁栄し、末永く安寧なる日々が続きますよう、
ここに、謹んでお願い申し上げます。
また、両家の先祖の御霊も、この喜びの場を見守り、
新たな絆を祝福し、二人の道を照らしてくださることを願います。
新郎新婦の未来が、光り輝くものでありますように。
どうか、泉の森の女神よ、そのご守護とお導きを賜りますよう、
お願い申し上げます。
以上、謹んで祝詞を奏上いたします――
麻乃の手を取り、その指に指輪をはめた。
同じように麻乃は鴇汰へ指輪をはめてくれる。
たったそれだけのことで、胸がいっぱいになるほどの感動を覚えた。
背後ではおクマが感極まったのか、号泣しているのが聞こえてくる。
「おクマさん、泣きすぎ」
「しょうがねーよ、楽しみにしててくれたんだから」
小声で麻乃と笑いを漏らした。
恙なく式が進んでいく中、ザッとこれまでより強い風が吹き抜けていき、大きく揺れた木々が葉を落としている。
それはまるで花吹雪のように辺りに広がり、幻想的な雰囲気に包まれた。
みんながその様子に沸きあがる中、鴇汰は風を避けるふうを装って、麻乃の肩を抱き寄せた。
誰も見ていないのをいいことに、そっと口づけを交わして抱きしめた。
「絶対に幸せになろうな」
「そうだね」
以前は照れくさくて言えなかった言葉も、お互いに口にするようにしている。
届かなかった思いも気持ちも、今はとても近くて暖かい。
-完-
本編から引き続き読んでいただいた皆さま、この作品から初めて触れてくださった皆さま。
これにて、完結となります。
お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
近く、次作を公開する予定です。
また立ち寄っていただけると嬉しいです。




