【第9話】−謎−
突如吹き飛ばされたカナメリア。
現れたイ人。
彼の目的は・・・?
ヴォールは吹き飛ばされたカナメリアの方に向かった。
吹き飛ばされたダメージこそあったものの、彼女は跳ね起きて応戦の構えをみせる。
「貴殿、やるではないか!名はなんという?」カナメリアは相変わらずの声量で獣人の男に問いかけた。
神殿をでた男は「俺様はアッシュだ。いっちょ殺りあおうじゃねぇか。」と答えた。
その時ヴォールは彼の体を見ていた。
彼の肉体は屈強で強靭な肉体であることはわかるが、やけどの痕がないのはおかしい。
カナメリアは全身を己の異能である炎に包まれており、他人が触ればひとたまりもないはずだからだ。
ヴォールがカナメリアに注意を促す。
カナメリアは相分かったと返事こそすれそのまま勢いよくアッシュの方へ飛び出した。
勢いよく飛び出したカナメリアはそのまま大斧を勢いよく振りかざした。
一方アッシュはニヤっと口角を上げ腰を勢いよくひねらせると、彼女の大斧を足で弾いたのだ。
カナメリアは一瞬あっけにとられるが、すかさず追加の一撃を入れる。
しかしアッシュはそれそすべて足ではじき返し、更にはポケットからたばこをとりだして彼女の炎で火をつけたのだ。
アッシュがカナメリアに一撃を入れる一瞬、カナメリアの纏っている炎が消えるのをヴォールは見逃さなかった。
アッシュは水を操る異能の使い手のようで、カナメリアに触れる一瞬だけ、異能を発現しているようだった。
小癪な!と後方に下がるカナメリア。
彼女は大斧を天に向け技を構え、大技を繰り出そうとする。
瞬く間に彼女を囲む炎が大斧に集まり、天高く光の柱が出来上がった。
すかさずヴォールが大きな声で止めにかかるが、
「バカだねぇ。」アッシュはそう言うと、一瞬のうちに彼女との間合いを詰める。
するとアッシュの一蹴りがカナメリアの腹部に深く入る。
カナメリアは先ほど以上に勢いよく吹き飛ばされ、先ほどよりも遠くにある民家に激突した。
「そんな分かりやすい大技なんて当たるわけねぇんだよ。」アッシュが言った。
間合いを取ったとはいえ相手の力量を見誤った彼女は相手が付け入る隙を与えてしまったのだ。
ヴォールがすかさずカナメリアのもとに向かう。
アッシュの攻撃はかなり深かったようで内出血が見られた。
「私は次期戦神になる女、こんなところで負けてはいられない…。」カナメリアはそういって立ち上がろうとするが、腹に力が入らずうまく立ち上がることが出来ない。
ヴォールがカナメリアを介抱していると彼の背にはアッシュが立っていた。
「邪魔だ獣人。」アッシュがそういうとヴォールは彼の蹴りで吹き飛ばされてしまった。
すかさずアッシュがカナメリアの首をつかみとどめを刺しにかかる。
カナメリアが苦しむ中、吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれたヴォールは頭から血を流し、
流れた血はそのまま彼の口に入っていった。
その獣人は真面目で常に冷静だった。
どんな時も、瞬時に状況を把握し自体の終息に向けて常に最短の答えを導き出していた。
その獣人は畏れられていた。
彼はただ、穏やかに生活したいだけだった。
その獣人は自身をひどく嫌っていた。
他人とは異なる自分がとても嫌いだった。
首を絞められたカナメリアの抵抗が次第に弱っていった。
「用事も終わったしそろそろ帰るか」アッシュがそういい放ち、
彼女にとどめを刺そうとすると、横からに強い殺気を感じた。
そこには先ほど蹴り飛ばしたヴォールがいる瓦礫の方角だった。
何を言ってるんだこいつはと、アッシュがヴォールに視線を向けた瞬間、彼の体は硬直した。
そこにいたのは先ほどの3倍はあるだろうか、4足の大きな巨体がアッシュを睨みつけていた。
これは危険だとアッシュが悟ると、カナメリアを離しすぐさま先手を打って出た。
アッシュは水滴をちりばめ、それを弾丸のような速さでヴォールに向けて放つ。
しかしヴォールが咆哮を空気がゆがむかのように激しく振動し、水滴が地面へと落下した。
一斉射撃が効かないとみるやいなや、今度は発射タイミングを起用にずらし、ガトリングのように連射していく。
するヴォールは勢いよく飛び跳ねる。
アッシュはこの瞬間を狙っており、空中に逃げたのなら逃げることはできないだろうと水滴を一点に集中し、
まるでバズーカのような水砲をヴォールへ撃って見せる。
しかしヴォールはあろうことか、空中蹴りし、そのまま空中を縦横無尽に駆け回った。
「そんな…嘘だろ…。」アッシュはその光景に見覚えがあった。
族界の一族である獣人族はひとくくりに獣人といっても
猫・狼・狐等様々な動物にが人型になったものを示している。
その中でもひときわ珍しく、かつ畏怖の象徴ともされているのが、幻獣種と呼ばれている。
人というより獣に近く、比較的動物に近い見た目をしているが、獣人族の中でも彼らは神の遣いとも称されるほど、その体は大きく、圧倒的な力を有しているといわれている。
「てめぇ、まさか幻獣種か、さっきまで小さかっただろ!」アッシュは攻撃の手を緩めることなくヴォールにそう叫んだ。
ヴォールが落ち着き払った表情で答えた。
「あぁ、それは私の異能だよ、体を小さくできるんだ。」
アッシュはあっけにとられながらも攻撃のては緩めない彼はそんな状況下でも幻獣種を倒す算段を必死に練っていたのだ。
アッシュは何かを思いついた様子で、攻撃をやめた。
するとヴォールはすかさずアッシュへ突進の姿勢をとる。
アッシュは自身の異能を使い体内にある水分を操作し始めた。
それは繊細かつ非常に卓越した才能が必要となるが、アッシュはそれをしてのけたのだ。
ヴォールが素早くアッシュに突進するが、アッシュは自身を操作することで身体能力を向上させ
彼の突進を避けるのに成功した。
すかさずアッシュがヴォールに反撃する。
身体能力が限界をも超えるほどに強化された彼の蹴りは、まるで音速に迫る速さでヴォールに迫る。
しかしヴォールは音速をも超えるかの速さで姿を消すといつの間にかヴォールがアッシュの背後に回っていた。
一瞬の出来事で何が起きたかわからないアッシュ、
しかしそれもつかの間に蹴り上げた足から激痛が走った。
みると彼のふくらはぎから先がなくなっており、血が噴き出していた。
ヴォールはあの一瞬でアッシュの足を噛みちぎっていたのだ。
片足を失ったアッシュはそのまま地面に倒れ、足の激痛にもがき苦しむ。
ヴォールは噛みちぎった足を吐き捨てるとアッシュの方を向いた。
「今ここで死ぬか、情報を渡すか、選びなさい。」落ち着きはなった表情がからでたその言葉は、
穏やかで、しかしながら恐怖をも与えるような重みがあった。
アッシュはすかさず自分が持っている情報を伝えた。
自身は依頼者にドワーフの管理しているものを回収するよう、言われてきたのだという。
アッシュはそう言ってポケットから袋に入った小さな金属片だろうか、それをヴォールに見せた。
ヴォールがその金属について尋ねるが、アッシュ自身詳細は聞いておらず、
ただ依頼者にこの金属片を奪取し、指定の場所へ持ってくよう言われただけだという。
ヴォールは重ねてアッシュに依頼者について尋ねる。
「依頼者は…。」そうアッシュがそれを口にした途端、アッシュが突如苦しみだす。
アッシュの額に紋様が現れ、それは次第に彼の血管へと流れ込むように体へ流れていった。
ヴォールがすかさず依頼者について確認する。
するとアッシュは苦しみながらも自身にかけられた呪いにあらがうように答えた。
「闇市へ向かえ…ま・・・ちあ、わぜ゛ッ!」必死にそう言うと瞬く間に痙攣をおこし、
口から泡を吹いてそのまま動かなくなってしまった。
ヴォールはアッシュの顛末を見届けると元のサイズに戻りアッシュの持っていた金属片を手に取る。
ひとまず、持ってきたいたアタッシュケースから着替えを着ると先程の金属片を胸裏のポケットに入れた。
気絶していたカナメリアを起こし状況を説明すると、彼女はうつむき、自身のふがいなさに落ち込んでしまった。
「君はとても勇敢だったよ。きっと戦神様だって、たくさん失敗してきたさ。悔いるにはまだ若すぎる。」
ヴォールは暖かく彼女に声をかけ、背中をさする。
カナメリアは子供のように泣きじゃくり、ヴォールに抱き着いた。
次第にヴォールの体がミシミシと軋む音を立てながら。
後日ヴォールとカナメリアは長官であるシエラスに事の顛末を伝えた。
そしてドワーフ族が”紛失してしまった”金属片のようなものを彼女に見せる。
触ってみると、まるで筋肉のように伸縮するが、刃を当てても傷一つつかない変わったものだった。
机などに充てるとカンカンと金属音のような音が鳴ることから、彼女たちはおそらく金属の合金であろうという予測をたてた。
彼女はこの金属片を鑑識に回すとともに、誘拐事件の糸を引いているであろう黒幕との何らかの関係があるのではないかと考えた。
事件の黒幕を追っているガレスに状況を報告し、
アッシュが死ぬ間際に言っていた闇市がどこになのか追加で調査をさせることとなった。
そしてその後、ガレスの消息が途絶えてしまったのだ。
ガレスは一体どこへ…。