【第4話】−真実−
戦神となのるものと異界諮問局長官シエラスの戦いが始まる…。
「戦神である我に勝てるとでも?」戦神の顔は鎧に覆われ表情こそ見えないものの、余裕のある声でシエラスに言う。
シエラス自身も余裕の表情で「お前ごときが神だと?笑わせるな」と応戦の構えを示した。
そういって二人が距離を置いた。
戦神はすかさず黒い炎を剣にまとわせ、剣と天に向けた。
すると黒炎が天井まで伸び、戦神はそのまま勢いよく剣を彼女の頭上へと降らせる。
しかしシエラスはさらりとよける。
すかさず今度は戦神が剣を横に長し避けたシエラスを剣で追う。
だがこれもシエラスは軽々と避けてみせ、相手を翻弄する。
「ちょこまかと逃げる反逆者め」そう戦神が言うと、黒炎の出力をさらにあげ、範囲を拡大させた。
それは剣というにはあまりにも大きく、まるで黒炎の柱が出来上がったかのような大きさだった。
再び戦神の猛攻撃が始まる。シエラスは軽々とこれも避けるが、聖堂はそうはいかない。
たった一振りで聖堂が半分に割れ、天井が黒炎で一瞬にして燃え尽きた。
そうしているうちに聖堂だったものはすっかり廃墟になってしまった。
一方安全な場所まで離れた古上達だったが、ラヴィは両親との再会し一安心もつかの間、
どうしてもシエラスの事が気になっていた。
「見にいくかい?」古上がそういうと、ラヴィは何かを決心したのかゆっくりと縦にうなずいた。
古上達が到着すると、相変わらず激戦が繰り広げられており、戦神の猛攻は止まらない。
だがシエラスの方にも1発たりとも当たらない。
「いい加減に、しろ!」そう戦神は言うと剣を天に向け黒炎の出力をさらに上げる。
その瞬間にできた隙をシエラスがは見逃さなかった。
戦神の首に一筋の光が入り、兜が床に転がった。
しかし戦神はそのまま勢いよく剣をシエラスに振りかざした。
一瞬の油断に、シエラスは何とか剣で攻撃を防いだが、勢い余って飛ばされた。
しかし吹き飛ばされこそしたが、その身のこなしで威力を緩和し、壁に激突する前に態勢を整えた。
「この体は少々動きづらいな」首のない戦神はそういうと、鎧の中から黒い靄が出てきた。
それは周囲に広がり、次第に大きな靄となった。
中から出てきたのは黒く尖ったウロコを持ち、背中には翼が生えている。
それは戦の神ではなく、邪竜族と呼ばれる竜の一族であった。
族界では古来より邪竜族は人々の悪意が竜に集まることで突然変異した竜族であり、
彼らは訪れは一国の終わりを示すとも称されるほどの強大さを誇っているのである。
そんな邪竜族を目の前にシエラスはひるむどころかむしろ鼻で笑い、再び彼女は応戦の構えを見せた。
「黒トカゲが。ここで終わらせる。」彼女は呟くと、剣を振りかざし、邪竜に突進した。
その動きは敏捷で、一瞬で邪竜の間合いに飛び込む。
邪竜は黒炎の海を彼女に吹きつける。
しかし、彼女は一瞬で体勢を低くし、黒炎の壁を華麗に避けた。
それどころか、彼女はさらに加速し、邪竜の巨大な体に向かって一直線に突っ込んだ。
彼女の剣を邪竜は片腕で防ぐ。表面の鱗に当たると、激しい金属音のような高い音が鳴り響いた。
邪竜の鱗は彼女の剣よりも硬く、傷一つ付けることはできなかった。
「その程度の武器で我を切れるとでも思っているのか?」邪竜は嘲笑してみせた。
しかしシエラスはその事実に動揺はしない、邪竜の足元に巧妙に滑り込み、次の一撃を放つ。
しかし邪竜は即座に彼女を蹴り飛ばし後方へ突き返す。
彼女後方にある瓦礫に激突した。
その衝撃はすさまじく、辺りに鈍い音を響き渡らせるほどだ。
「弱い弱い。コバエ如きが我を止めようなど、できるはずもなかろう。」再び邪竜は彼女を嘲笑してみせた。
瓦礫から出た彼女は先ほどの衝突で身に着けていた服が破れ、背中にいたっては肌があらわになっていた。
しかしどういうわけか彼女に致命的な傷はなく、彼女の剣は青白く変色していた。
また彼女の背中は古傷だろうか、無数の傷があった。しかしそこには彼女の容姿とは裏腹に、
見とれるほどの強く引き締まった背筋がみえていた。
「本番といこうじゃないか。」シエラスはそう言うと剣を構えた。
邪竜は大笑いし再び彼女を嘲笑する。
刹那、邪竜の視界からシエラスが消える。
邪竜はそれに気づき、辺りを自身の黒炎で覆う。
しかしながら彼女はすでに邪竜の足元に降り切りかかる寸前だった。
邪竜は再びシエラスを蹴り飛ばそうとしたが、彼女はそれを瞬時に避け、今度は鱗の隙間を狙って邪竜の脚を剣で切り裂いた。
「これなら痛いだろう?」シエラスが嘲笑する。
邪竜は痛みで身を震わせ、暴れ始めた。
それでもシエラスは容赦なく攻撃を続け、邪竜の動きを阻害した。
一手、また一手と邪竜をいなしながら鱗の隙間を的確に狙い、血しぶきをあげていった。
しかしそれは氷の結晶となり、辺りにきらきらと散っていった。
邪竜は痛みに悶えながらも再び口から黒炎を吹き、彼女を焼き尽くそうとした。
しかし、彼女は再び黒炎を避け、邪竜の頭部に剣を突き立てた。
痛みで怒りを爆発させた邪竜が彼女を引き剥がそうとするも、彼女はそのまま剣に力をこめた。
「凍れ。」シエラスがそう一言つぶやくと、切り口から白い靄が立ち込めだした。
ほどなくして邪竜の全身から冷気が漏れだした。
シエラスが剣を抜き、頭上から降りた。
途端に邪竜の体は崩れ辺りに氷の結晶をまき散らす。
「こらまたきれいな華が散ったな。」古上がつぶやいた。
ラヴィは彼の言葉にふと思い当たることがあった。
「鮮血のバラ…。戦神様だ…。」ラヴィはつぶやいた。
古上はラヴィの方を向きそれは何かと尋ねた。
数百年前、族界には”鮮血のバラ”と呼ばれる一人の女性がいた。
彼女は、美しく孤高の存在だった。
どんなに強大な魔物が立ちはだかっても彼女は華麗なダンスを踊るかのように顔色一つ変えず圧倒し、
魔物の血はまるで彼女の踊りにあわせ舞う花びらのようだった。
街に降りかかる厄災をものともせず、幾度も数多の人々を救った彼女だったが、突如彼女の姿は現れなくなった。
まるでこの地を見捨てたかのように、あるいは自身の存在を消すかのように。
それは古くから伝えられる伝説、おとぎ話だと。
エルフであるシエラスは確かに長命である。
それこそエルフは数百年、数千年ともいわれる長い時間を過ごすともいわれる。
しかし長年シエラスと一緒にいる古上は一度もそのような話を聞いておらず、
ましてやあの暴力女が”孤高”だとも思えなかったため、笑いながら他人の空似だろうとラヴィに伝える。
古上の反応にラヴィはご立腹の様子で、古上に強く当たる。
ほどなくしてシエラスが古上達のもとに歩み寄ってきた。
そこで古上が「お疲れ様でございます、”鮮血のバラ”様。」と冗談めいてシエラスに言う。
すると一瞬のうちに古上は吹き飛ばされ近くの瓦礫にめり込んだ。
「2度とその名を口にするな。」そう言い放つシエラスはいつもとは違い顔が少し赤くほてっているようだった。
瓦礫に埋もれた古上はその事実に驚いた様子で目を丸くしていた。
一方ラヴィは目をキラキラと輝かせシエラスをただ崇めるのであった。
後日、シエラスと古上は事後調査の為、聖堂のあった跡地へ再び赴いた。
するとそこには邪竜によって我を失っていた教団員らが今では忙しそうに聖堂の修復に取り掛かっていた。
広間跡地では再び戦神像を建てる計画がなされていて、その中心にはラヴィの姿があった。
ラヴィは戦神とはどんな人物なのか、それを後世に伝えるべく周囲の人に戦神の人物像について必死に説明している姿がみえた。
と、シエラス達に気づいたラヴィが両親を連れて走ってくる。
シエラスの目の前で止まると親子は跪き、シエラスの顔をじっと見つめる。
「戦神様、此度は我らが招いてしまった厄災を祓っていただき、ありがとうございます。」
ラヴィの父親が畏怖のまなざしでシエラスに言う。
すると周りの人たちもそれに気づいたのか、シエラスを見るや否や跪いて感謝の言葉を投げかける。
シエラスの顔が次第に赤くなる。いたたまれなくなったシエラスは古上に調査が終わったため共に帰るよう促すと、
古上はにやけ顔で「いいじゃないか、もう少しくらいいても、みんな感謝してるんだぜ?”戦・神・様”」とシエラスに言う。
とっさに古上を突飛ばそうとしたが、周りの目があったためかシエラスは必死にこらえた。
怒りと恥ずかしさに身震いしながらもシエラスは古上に「あとで覚えてろよ…。」と小言を言う。
戦神をまつるエクラス教はその後飛躍的に勢力を伸ばし1つの大きな宗教となったという。
教祖である女性は後世に戦神の孤高さ、勇敢さを伝え、聖堂の中央には、聖堂に現れた邪竜を討伐したという女性の像を立てたという。
戦神像は信者達の未来を剣で示し、困難に立ち向かおうとする者を奮い立たせた。
彼女の年齢は…?