【第1話】−狩リ−
静かな夜の路地、そこには肉塊が…。
静かな夜の路地。しかし、その静寂は無残にも破られていた。
路地の地面には、信じられない光景が広がっていた。
それは、一度は人だったものが今や肉塊と化して散らばっている光景だ。
皮膚と骨、血と内臓が乱雑に混ざり合い、言葉を失わせるような、生理的な嫌悪感を誘う景色が広がっていた。
周囲には、青白い顔をした警察官たちが慌ただしく動き回り、残酷な現場を確保していた。
それを囲むように集まった人々は口々に囁き、ショックと恐怖、そして奇怪な興味でその光景を見つめていた。
その上を見れば、廃ビルの屋上に誰かが佇んでいた。
その肌は薄紫色で、鱗に覆われており、眼はぐるぐると動き、舌は異様に長かった。
彼の姿は、こちらの世界には存在しない。
人間の形状を持ちながらも、その特徴はまるでカメレオンが人型になったような、異世界人(イ人)だった。
彼はその長い舌を舐め回し、「ああ、この芸術的な破壊力…美しい」と、嗤った。
その目には狂気と自己満足が満ちていた。「これが僕のパフォーマンスだ。君たちはただの材料にすぎない」
「おまえか」と、背後から低い声が響いた。
その声にイ人は一瞬、驚きを隠せなかったがすぐに前進し、振り返り、戦闘態勢に入った。
薄紫色の異形は、皮膚を透明化させた。
彼の姿は夜風に紛れ、あっという間に周囲に溶け込んでしまった。透明化は彼の異能であり、一見するとどこにもいないかのように見える。
男は異形が消えた場所を見つめながら、感覚を研ぎ澄ませた。
背後から忍び寄る気配、そこに一瞬、痕跡が浮かんだ。瞬間、異形の舌が男に向かって飛んできた。
その攻撃は、透明化と舌の双方を組み合わせたものだった。
舌は剣のように鋭く、空気を切り裂いて男に迫った。男はぎりぎりで身をかわした。
しかし、男はひるむことなく、再び応戦の構えをとった。
視界に異形の姿はないが、彼の存在を感じ取っていた。手元にはワイヤーを持っていた。彼の唯一の武器だ。
舌からの次の攻撃が飛んでくる。
男は、その舌が自分を突き刺そうとした瞬間に身を捩り、攻撃を避ける。そして、異形の位置を確認した。
続けて男は、ワイヤーを異形の方向に振りかざした。
ワイヤーは音を立てずに空気を切り裂き、一瞬で透明な身体を縦に切り裂いた。透明な身体が二つに割れ、血が空から噴き出した。
透明化は解け、異形の真の姿が再び姿を現した。
彼は驚きと苦痛で顔を歪め、地上に倒れ込んだ。男は息をついてから、彼の元へ歩み寄り、「終わりだ」と低く呟いた。
通信機から「どうした、コム?」と声が聞こえる。
男は口元にマイクを持っていき、「終わった」と報告した。相手からは一瞬の静寂が流れた後、「了解。待機してろ」と返答があった。
男は街灯の下で、冷たい風を浴びながら静かに待機した。持っていたたばこはに火をつけ、夜空を見つめた。
何か物思いにふけっている顔をした。
「くせぇ。」
男はイ人の血で汚れていた。