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異世界転生・転移の文芸・SF・その他関係

日用魔術と科学がもたらしてくれるもの

作者: よぎそーと

「…………」

 寝ぼけながらも起き上がり、手をのばす。

 その先にある魔力受信機に魔力を流すために。



 部屋の中の器具はそれで動き出す。

 照明に空調などなど。

 魔力そのものの消費量が少なくて済むので、ほんの少し起動時に流してやるだけで良い。

 それだけで1時間は動いてくれる。

 それだけ燃費がよくなっている。

 こういった器具が世に出回り始めた頃は、せいぜい10分程度の継続時間しかなかったというのだから。

 技術の進歩は大したものである。



 文明が魔術と共に歩んできて長い年月が経っている。

 世紀をまたいで続いてきた文明は、今や人類全体の生活に密着している。

 人がもつ魔力を用いて動く器具の数々。

 これなくして文明が成り立たないほどだ。



 途中、魔術を排斥する宗教などもあらわれたが、それらは漏れなく一掃された。

 便利なものを異端・邪教として排除する狭量な者達だったから。

 そういう行動や言動、なにより思考が異端であり邪教というものだった。

 発展や発達を嫌う者は一定の割合であわられてしまう。

 それらに耳を傾けてるわけにもいかない。

 文明とは便利さの追求で出来上がったものなのだから。

 これを否定したら、人は原始時代の生活に戻るしかなくなる。



 何より問題なのは、発展を否定する者達の強硬さだ。

 破壊・妨害活動になる事がほとんどだ。

 そうでなくても、延々と粘着して嫌がらせをする。

 そういった者を生かしておく理由は無い。



 邪魔して障害を作る者達を排除して、魔術は発展していった。

 とはいえ、最初は魔力が大きなものによる独占状態だった。

 ある程度の能力がないと使えないのが魔術だった。


 それを克服したのが魔術器具だった。

 魔力を増幅したり、少量の魔力で動く器具を作る事で誰でも使えるように。

 そんな思いから作られていった。

 この器具が文明を底支えするようになっていった。



 誰もが魔術の力を使えるようになる。

 人の持つ魔力保有量、魔力の強さは変わらない。

 だが、少量の魔力でも充分な効果を得られるようになった。

 肉体がもつ限界を超えた能力を発揮できるようになる。

 生活の手助けを得る事ができるようになる。

 その恩恵ははかりしれない。



 必要な労働力が減る事で、別の産業に人を割り振れるようになった。

 これにより、文明は更に発展していった。



 また、魔力に頼らない技術・科学も発達していっている。

 人の持つ魔力に頼らないこれらは、魔力とは別の利点を人類にもたらした。

 それこそ誰もが等しく使えるという意味で、魔力より優れている。

 何せ魔力に頼らない動力なのだ。

 能力差など全く関係なく誰もが使える。



 魔術と科学。

 この二つを使い、人々は繁栄を謳歌していった。



 その中にあって、起き上がった者は人類の発展史の事など思い浮かべる事もない。

 そこにあるのが当たり前のものを使って、何時も通りの一日を始めていく。

 起きて、調理器が自動で作った御飯を食べ、自動ドアをくぐり抜けて仕事に向かう。

 鍵は本人の魔力や生命反応に反応するので、開ける事は困難。

 解除するにはかなり強力な魔術が必要なものだ。

 安全性は確保してあると言ってよい。



 仕事と言っても家の外にでる必要は無い。

 たいていは室内で片付いてしまう。

 意識を魔力コンピュータ・ネットワークに接続して、そこで会社の人間と接する。

 顔を合わせて打ち合わせをする必要はないが、仕事始めに挨拶だけは交わしておく。

 文明が発達しても人が人と作業をする場合、こういった接点が必要になる。

 無くても良いが、あると何故か仕事が円滑に進みやすい。

 人が持ってる本性に関わるからだろう。



 作業内容そのものメールで送られてくる。

 それを見れば良いだけだ。



 あとはゴーレムに意識を写して仕事をしていけばよい。

 出勤しなくても、ネットワークを通じて魔力を送り込めばゴーレムを動かせる。

 その時に意識ものせれば、自分が乗り移って動くことが出来る。

 人の手が必要な作業は、こうして行う事になる。



 それ以外の部分はほぼコンピュータやロボットが行ってくれる。

 人が実際に作業をする事はほとんどなくなってる。

 あるとすれば、電力や魔力が途切れて機械などが停止した場合だ。

 それにしたって、地域全体を潰滅させるような災害に見舞われない限り心配する必要がない。



 実際に仕事でやる事は、作業開始前の初期設定くらい。

 あとは作業が終わったあとの確認くらいだ。

 これらもほぼ自動化出来てるので、人が目を通す必要もない。

 それでも行ってるのは念のためにだ。

 どれだけ正確でもどこかでシクジリは発生する。

 それがあるかどうかだけ確かめていく。



 言い換えれば、作業開始と終了時以外は暇になる。

 その間は仕事から離れる事ができる。

 


 あとはゲームをするなり別の仕事をするなり自由だ。

 何もしないでボーとしてても良い。

 それが許されるくらいに仕事にかける時間は減っている。



「凄いよなあ」

 この世界に生まれてきてもう20年が経とうとしている。

 それでもなかなか馴染めず、たまにすごさを感じてしまう。

 いつもは特に何とも思わないのだが。



 そう思うのは仕事をしてる時がほとんどだ。

 どうしても前世の記憶と比べてしまう。

 なにせ何十年も出勤して職場で働くという事を繰り返してたのだ。

 生まれ変わっても簡単にその時の習慣が消えるわけではない。



「前世の記憶があってもなあ」

 こうなると、それが良いとは一概に言えなくなる。

 あれば人生経験などを活かす事もできる。

 だが、前世の常識や習慣が邪魔する事もある。

 一長一短で、良いとも悪いとも言えない。



 ここが異世界なのも問題だった。

 これが前世で生きていた地球だったら、そこで生きていた時の記憶が役立つ事もあったかもしれない。

 しかし、一切つながりのない別世界となるとそうもいかない。

 基本的には同じ人間だし、人が寄り集まってる社会の常識もそう大きな違いはない。

 良いこと悪いことというのは概ね共通する。

 しかし、細かなところで思考に違いが出て来る事がある。



 幼少期は記憶が戻ってなかったので、この世界の生き方に少しずつなじんでいた。

 その時の体験や経験がこの世界で生きていく為の下地になっている。

 だが、前世の事を思い出してからは、どうしてもその時の癖や習慣が表に出る事もある。

 それらが大きな問題を起こす事はないが、時折勘違いを発生させる事になる。

 挙動不審な事をしでかす事になってしまう。



 それに前世の知識や経験を活かせるわけでもない。

 技術者や科学者だったら何かしら貢献できるかもしれない。

 しかし、特別な知識や技術など身につけてたわけではない。

 ごくごく平凡な二流企業の社員だったのだ。

 平々凡々に生きて、当たり障りの無い死に方をした一般人だったのだ。

 大儲け出来るような何かなど持ち合わせていない。



 そもそも、転生したこの世界は前世よりも発展してる。

 日常生活でも前世より便利だ。

 それを支える機械などは前世よりも優れている。

 そもそも、宇宙に進出していくつかの星に入植してるような文明水準だ。

 前世の知識や技術が役立つとは思えない。



 加えて、魔術という前世にないものがある。

 これについては完全にお手上げだ。

 特別大きな魔力もない転生者が手を付けられるものではない。



 こんな状態では活躍など全く見込めない。

 転生して前世の記憶があっても、特別役立つわけではない。

 ものの見方や考え方が少し違うので、視点の違う考察は提供出来るかもしれないが。

 それが必要な場面などまず存在しない。



 前世では、こういった異世界転生ものが流行っていた。

 そこでは転生した者達が超常能力をもって活躍していた。

 あるいは前世の知識や経験を活かしていた。

 しかし、そんな事はこの発展した異世界では不可能だった。

 結局、この世界でも一般人をやるしかなかった。



 だが、それが悪いわけではない。

 生活は前世よりはるかに楽だ。

 仕事はしなくてはいけないが、それも前世より楽なもの。

 実際には遊んでるようなものだった。

 残業に追われるような事はないし、休日出勤もない。

 ろくでなしの上司・先輩・同僚・後輩・部下もいない。

 そういう人間は人生の早い段階で排除される。

 おかげで、日常的に触れあう人間はまともな者が多い。

 もの凄い善人ではないが、接していて嫌味を感じる者もいない。



 快適だった。

 世の中全体の居心地がよい。

 そんな世界で生きてる事がありがたかった。

 下手にこの世界をいじりたいとは思わない。

 変える必要がないものを変える理由は無い。

 そもそも変えるだけの能力もない。

 だから、この世界がそのままである事を願っていく。



 特に何も起こらない日常。

 それで充分だった。

 活躍もないし、大出世もない。

 しかし、そんな事をしないでも平穏に豊かに生きていける。

 ならば無理して頑張る必要がない。

 そんな世界がこれからもずっと続く事を転生者は求めた。



 仕事の合間にゲームを楽しんでいく。

 作業終了までやる事もない。

 副業でもやった方が実入りはよくなるが、そこまでする必要も無い。

 充分に稼いで食っていけるのだから。



 その稼ぎの中から幾らか支払って、来月は太陽系を巡るつもりだ。

 他の恒星系までいくのはさすがに無理だが、同じ太陽系の中なら簡単に巡る事ができる。

 転生者にとっては初の宇宙旅行になる。

 二つの月と、地球化実験のために用いられた星の一つに行ってみようと思っている。

 特にめぼしいものがあるわけではない。

 それでも見てみたかった。

 前世では出来なかった星の世界への旅行を。



「月まで2時間か」

 前世の日本における東京・大阪間の新幹線程度の時間しかかからない。

 この世界においては、その程度の感覚でいける場所だ。

 太陽系内の星に行くにはもう少しかかる。

 だが、それも三日もあれば到着する。

 前世ではありえなかった事だ。



 そんな簡単に宇宙に行けるのだから、それを実際に体験したかった。

 この世界では特別でもなんでもない旅行でもだ。

 転生者にとっては前世と違う事だから。



「来月まで頑張るか」

 とにかく金は稼がねばならない。

 生活のためにも、旅行のためにも。

 さほど苦労はないが、失敗はしないように、ちゃんと仕上げていく。

 作業はさほど必要ないが、それでも魔力を流して機器を動かし、必要な所に目を通していく。

 管理も自動化されてるので、そうそう問題は起こらないが。

 身についた習慣がどうしても仕事の進捗に目を向けさせる。

 もはや本能といっても良いだろう。

 そうしてないと落ち着かないのだ。



 ワーカホリック、あるいは仕事病とでもいうような性質。

 それと共に生きながら、転生者は来月を待つ。

 彼なりに適度に気を抜きながら。

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あと、異世界転生・異世界転移のランキングはこちら

知らない人もいるかも知れないので↓


https://yomou.syosetu.com/rank/isekaitop/

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