第9話 犯人探し
『情報を集める』とは言いつつも、俺はそんな事を一切していなかった。
そうしてそのまま一日が過ぎ去り、俺は今日も学校へ行くのだった。
◇◇◇
学校に着いた俺は、早速シエルに情報交換をしようと言われた。
が、俺に交換できる情報なんて何一つなかった。
「何してたのよアンタ!!」
案の定、ぶん殴られた。
「まあいいわ。それより、私の集めた情報を教えてあげるわ」
「おう」
シエルが情報の提供をしてくれるようだ。
「情報………いや、それよりこういった方がいいわね」
更に、簡潔にまとめてくれるそうだ。
助かる。
「私の情報から推測すると、犯人は〝三年生〟である事が確定しているわ。そして三年の内から更に五人に犯人はしぼれたわ」
「そりゃすげえな」
さすがに半日でそれだけ調べあげるのはすげえな。
もはや恐怖でもあるよ。
「それで、その五人ってのは誰なんだ?」
「それは─────」
◇◇◇
「麦畑高先輩!話しを伺ってもよろしいですか?」
一人目はこの麦畑という男だ。
ガタイがよく、まあ流石に長良程じゃ無いにしろ、それでも高校生にしては中々な筋肉を持っていた。
それと噂………というか、先程聞こえてきた事なのだが、どうやらこの麦畑は『こうちゃん』とあだ名で呼ばれているっぽい。
どうでもいいけどな。
別に羨ましくはないぞ。
どうでもいい。
あだ名とかあった所で変わらないし。
羨ましくなんてないし。
どうでもいいし。
「何、恐い顔してるのよ………」
シエルが俺の耳元でそう囁いてきた。
あくまで舐められないようにだ。
別にあだ名が羨ましいわけでは───
◇◇◇
結局、麦畑からは話を聞かせてもらえなかった。
これで麦畑の可能性は高まったな。ははは!
続いて二人目はというと………
「米田低先輩!話しを伺ってもよろしいですか!」
麦畑と米田。
麦と米。畑と田。
ここまでくれば皆も分かるだろう。
麦畑と米田、この二人は対を成しているんだ。
そしてこれは本当に噂なのだが、この二人は因縁の関係にもあるみたく、放課後になっては毎日外で殴り合いの喧嘩をしているんだとか。
ただ何故かこの二人は昼休憩のご飯をいつも一緒に食べているそうだ。
そこで俺は思った。
犯人は一人とは限らないのではないか、と。
もし犯人が二人、或いは三人いたとしよう。いや、この場合は二人と推測する方がいいな。
俺の予想では、麦畑と米田の二人が犯人だ。間違いない。
二人は喧嘩をすることで、皆に仲が悪いのだと思わせている。
だが本当は仲が良く、二人で『知恵の輪』を流行らせた。
二人が協力しているとバレないよう、仲が悪いフリをながらな。
それによって、誰からもバレる事なく、犯行を行なってこれたんだ。
だが、俺は騙せないぜ!
その悪行、俺が正してやる!
「犯人はあなたですね!米田!」
「は?何言ってんだお前?」
◇◇◇
「二度と来るんじゃねえぞ!分かったか!」
「はひ………ずびばぜん……べびば…………」
俺の推測はまんまと間違っていた。
一体、どこで間違えた?
そして調子に乗ったあげく、先輩呼びも忘れた俺は、案の定、米田にぶん殴られた。
頬が腫れて痛い………
こんなの漫画でしか見た事ないよぉぉぉぉぉぉぉ!!
慰めてくれよ、シエルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!
「アンタ、本当にバカね」
俺の思いは、シエルのそんな一言によって一蹴された。
だが俺は諦めない。さぁ!シエルの両足へ、GO TOダイブ!!
「慰めてくれよぉぉぉぉ!」
「無理」
「………名前広めるぞ」
「ッな!はぁっ!?」
急な俺の反論に、シエルはとても驚いた。
いやこの場合、『俺の反論の仕方に驚いた』というべきか。
「何だ、広められてもいいなら別にいいんだけどさ」
「いや………それは、ちょっと………」
「いや?だったら………分かるよな?」
シエルは悔しそうだった。
だが俺がそう言った途端、表情が変わった。
体をくねらせ、恥ずかしそうにしていた。
真っ赤に染まったその表情は、とてつもない破壊力のものだった。めっちゃ可愛いって事だ。
「分かった……わよ………それで……どうすればいいの………?」
はぁぁぁぁっっっっ!!
この時、この瞬間、この時間、多くの命息吹くこの祭日、俺は思った。
彼女の何気ない、初々しいその仕草や表情。緊張や焦り。荒い呼吸。激しい鼓動。目線。熱気。匂い。それら全てが、完璧なまでに適合しているこの瞬間、今!
その舞台の主役たる彼女が今、俺に従順に従おうとしている。奴隷となろうとしている。
これは確信だ。
異論は許されない、決定的事項。
『彼女はもう、落ちている!』
「ふぅぅぅーーーーー」
彼女に返答するまでのこの瞬間こそ、まさに至福であった。
その余韻をひたすらに俺は堪能したのだ。
ならばそろそろ、メインディッシュを頂くべきだろう。
いや、頂かねば失礼というもの!
「ど・う・す・れ・ば・い・い・か・?そんなもの決まってるだろ………」
男が女性にして欲しい事ランキング一位といえば!そう、あれだろ!
「膝枕だ」
「は?」
「まず正座しろ、背筋は伸ばしたままピン!とな」
シエルは従順に正座した。
「ポンッ」
この効果音は、俺の頭がソファーのように柔らかいシエルの太ももに当たった音だ。
ちなみに今はすりすりという効果音がでている。
これは俺の頭をぷるぷるなシエルの太ももで擦らせた時の音だ。
「……………何で、私がこんなことを」
「頭を撫でろ」
「………は?」
「そして『幸一はよく頑張ったね。偉い偉い。幸一の頑張りは私がよく知ってるよ。今はぐっすり休んでね。私がいつでもついているからね』と優しく言って欲しい」
シエルは引いた目をしていたが、すぐにさっきの恥ずかしそうな表情へと変わった。
そして……………
「こ、幸一は……よーく頑張った。偉い偉い〜。幸一の頑張りは、私がよーく、分かってるよ」
俺の頭を撫でながらシエルはそう言った。
いつものキレ口調の声からは想像もつかないほどの優しく可愛く、母性溢れる声であった。
あぁ……最高の気分だ………
「今は、ぐっすり休んでいいよ……私がずっとついてるから………ね?」
控えめに言って最高。
このまま死んでもいい。後悔なんて一切ない。
そう思えるくらいの破壊力の膝枕だった。
そしてあまりの気持ちよさに、眠気が襲ってきた。
俺は膝枕されたまま、眠ってしまった………
◇◇◇
俺は次に目を覚ました時、色々な日用品が置かれた部屋にいた。
「何だ………ここ?」
動こうと体を起こすが、身動きがとれなかった。
それもそのはず、俺の両腕は紐で椅子とガッチリ結ばれていたからだ。
それに気づき、慌てふためく俺は、一瞬視界に人の姿が映ったのに気づいた。
冷静になってその方向を見るとそこには。
「さっきはどうも」
シエルがいた。