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第5話 伝説と恐喝

 俺は今、生徒指導室にて教頭と話をしていた。


蚊帳清州かやせいしゅうですか………変わった名ですね」


 俺は教頭に、昨日あった出来事を話した。


「それ故に、彼についての情報は探しやすいですね」

「何か分かったの?」


 そう尋ねたのは、俺ではなくシエルの方だった。

 というかまず、何でこいつがここにいるんだよ………


「そうですね、大体分かってはきました」


 教頭はそう言って、蚊帳清州かやせいしゅうについての情報を話し出した。

 

「彼は《掃除人そうじにん》の一人です」

「掃除人?」


 俺はそう尋ねた。


「簡単に言えば、能力者の事後処理をする専門家の事ね」


 シエルがそう答えた。

 さすがは探偵、知識が豊富だ。


「蚊帳はあぁ言っていたけど、本当は石の巨人の事後処理でもしにきていたんでしょ」


 やっぱり変わった奴。変態だったわけか。


「それはダサいな」


 俺はそう言って、鼻で笑った。


「早瀬川君がよくやる先生方への反抗も、一般的に見ればその〝ダサい〟に入るのですよ」


 教頭もそう言って鼻で笑った。


「えっ!?……………マジで?」

「マジよ」


 シエルが素直にそう答えた。

 正直、ちょっとかっこいいと思っていた………もうやめよ。


「本題に戻りますが、蚊帳かやは貴方のお爺さんの名を言ったのですよね?」

「あぁ、俺の事を()()()()()()()と呼んでいた」

「まぁ有名ですからね。伝説の掃除人、早瀬川源蔵はやせがわげんぞう


 伝説………そんな風に呼ばれてるなんて一体何したんだよ爺ちゃん………


「本来事後処理に回るだけの掃除人が、異能戦争で前線に駆け出、そして圧倒的な力で日本軍に勝利をもたらした」


 そう続いて語ってくれたのは、シエルの方だった。

 ()()()すらも()()()()程とは、能力者界隈じゃ有名だったんだなー。


「へー、爺ちゃんはそんなに凄い人だったんだ」


 爺ちゃんは、俺が小さい頃に亡くなった。

 それでも勿論、爺ちゃんの事は未だ鮮明に覚えている。

 爺ちゃんはとにかく、やる事全てがかっこよかった!

 そんな爺ちゃんを見てきた俺にとって、それは誇りになっていった。

 まあ何が言いたいかというと───


「俺の爺ちゃんはカッコいいんだ!!」


 俺はそう言って笑った。




◇◇◇


「というわけで、掴めた情報はこの程度です」

「わざわざありがとな」

「はい。とても良い情報で助かりました」


 調べてくれた教頭に、一応礼をしておく。

 これでも礼儀は弁えている方だ。


 と、いきなり教頭は体を倒して俯いた。

 そして目線だけをこちらに向けてこう言った。


「……………一応僕、教頭なんだけどな」

「……………?」


 俯いていた教頭に、俺達は疑問を抱いた。

 何がそんなに悲しいのだろうか?

 それとも悔しいのだろうか?

 一体何故俯いているのだろうか?


「ふっ………またダサくなってるって事よ」


 シエルが見透かしたように俺へそう言った。

 ダサい……………


「……………あっ」


 俺は先程の会話へ巻き戻って、ようやく理解した。

 気をつけようとしていたつもりが、またタメ口になっていた………


「えっと………さっきはありがとうございました」


 これでいいのかな?


「ごほん………よろしい。では、出ていいぞ」


 お前も態度激変してんじゃねえよ。


 俺達はそうして、生徒指導室を後にした。




◇◇◇


「んで、次に話があるのはお前だ」


 俺は如月可憐きさらぎかれん………いや、シエル・ブラッドにそう言った。


「私に話って……何?」

「そりゃお前、山程あるだろ。お前の《能力》のこととか、何でお前があんな事をしてたのか、とかさ!」

「何故こんな事をしてたか………それは一度教えたはずよ、能力の枷の影響だって。そんなことより………」


 シエルは言葉を溜めた。

 俺はこの緊張感の中、どんな言葉がとんでくるのかと内心慌てていた。


 しかしとんできたのは言葉なんかじゃなく、人を殺せる武器だった。


『カチャッ』


 そんな効果音が聞こえたと思えば、拳銃は俺の額にピタリとくっついていた。

 これはもちろん、というか察せるように、シエルの拳銃だ。

 シエルが殺意をもって俺に向けた『人を殺せる武器』だ。


「……………アンタは、私の味方なの?」

「……………」


 どう答えるべきか。

 この状況で、仮に否定してみればどうなるか。

 確実に撃ち殺されるだろう。


 では肯定した場合はどうか?

 これならいける。

 『面倒』という枷を背負わされるのが難点ではあるが、それを除けば中々に良好の案件じゃあないか。

 だったらそのくらいの面倒、引き受けてやるよ!


「味方だ」

「死ね」

 

『バンッ!』


 


「………はぁ……はぁ……」

「ちっ………」


 間一髪………俺は避けた。

 本当に奇跡としかいえない。

 少し判断が遅かったら、確実に死んでいた。

 というかコイツ………本気で俺を殺す気だった………

 

 少しは分かり合えるかと思った俺が馬鹿だった……コイツは本当の本当にやばい!危険因子だ!


「元々私は、能力者であるアンタを殺すつもりだった。だけど昨日の事があって、私はアンタを殺すのを考え直した」


 疑問が残っていた。

 俺を殺す理由とかじゃなく、何故前に殺さなかったのか?

 どう答えても殺す気なら、あの時、あの場所で、無防備な俺を、ぶっ殺す事など容易かったに違いないからだ。


「………それは何故だ?」


 別の疑問を尋ねることで、遠回しにその疑問を解消させにいくことにした。


「………アンタの知識が欲しくなったのよ」

「俺の知識?」

「石の割り方………あれを教えてもらった時に思ったのよ、あんな豆知識がたくさんあれば、私の能力も発動しやすいんじゃないのかなってさ………」


 石の巨人を二人で倒した時の事か………

 あんな程度のでよければ幾らでもあるが。


「つまり………欲しいのは俺の『知識』だけってわけか」

「その通りよ。アンタはいらない、『知識』が欲しいだけ」


 酷い言われだな全く。


「その上でもう一度聞くけど、アンタは私の味方?」


 まぁ何を言われ、そして何を思おうが俺の選択肢は初めから一つしか無い。


「勿論、味方だ」


 俺はそう答えた。いや、答えざるをえなかった。


「ふふふ、よろしい」


 未だ銃口を額に押し付けたまま、シエルはそう言った。




◇◇◇


 俺達は、なんとか昼休憩後の授業には参加することができた。

 授業をサボったり、先生に反抗するのはダサい。という教訓を知ったからな。これ以上サボるわけにはいかない!


「お前が授業参加するなんて珍しいな」


 隣の席に座り、そして俺の唯一の友達でもある沢山さわやま 信木のぶきが話しかけてきた。

 

「授業中の私語は禁止だぞ、信木」


 俺はそう、真面目に紳士のように優秀な振る舞いを見せた。

 

「あぇ……お前ホントどうしたんだ?」

「別に……………ただ」

「ただ?」

「自分のしてきた事の馬鹿馬鹿しさに………気づいただけだよ」


 俺は一瞬俯くような姿勢をとったが、すぐに戻り、背筋をピーんと伸ばして授業を受ける。


 そんな俺を見て、いつものハゲ先生は口を大きく開けて驚いていた。


「は、早瀬川はやせがわ………頭でも打ったか?」

「教師としてその発言はどうなんだよ………」


 そうして、俺は授業を乗り切る事に成功した。

 その後、俺は帰りの身支度をして、いつも通りの道を通り、いつも通りの時間の中で、家へと帰るのであった。

 



◇◇◇


 次の日、俺が学校に来た時にはもう広まっていた。

 実は最近、上級生の内で広まっていた噂があった。

 そしてついに今日、この最低学年である一年にまでその噂が広まっていた。

 そして俺も隣の席に座る親友、沢山さわやま 信木のぶきからその事を伝えられた。


「なぁ、幸一。『知恵の輪』って知ってるか?」


 それは、誰もが聞いたことのあるパズル玩具の名前だった。


 




 

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