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第41話 掃除人

 運転開始から、三十分が経過した頃だった。

 トラックは、目的地へと到着した。


「よし、着いたぞ」


 おじさんがそう言うのと同時に、シエルは眠そうな身体を、ぐぐぐーと伸ばしながら起こした。

 俺はというと、さきほどの話をまだ飲み込めていなかった。


 そのまま、俺達はトラックを降りた。

 降りた先には、まあまあの大きさのジムが建っていた。


「さあ、俺の後ろに付いて来い」


 そう指示をするおじさんは、意識のない金髪マッチョを抱えたまま、ジムの中へと入って行った。

 

「……本当にここが拠点とはな」


 さすがにジムはないだろうと思っていたのに、アテが外れた。


 それにしても……


「……歩きずらいわね、この状態」


 シエルは愚痴を溢した。


 俺達は今、両手を後ろで縛られたまま歩かされている。

 重心が変わるせいなのか?すごく歩きづらい。

 なにより、腕が使えないのは、転んだ時に顔面から衝突してしまうということだ。

 うわ、想像するだけで怖くなってきた。


「………………」


 俺はふと、正面にいるシエルと、その奥で運ばれている金髪マッチョを見比べていた。


「あんなデカい人間を、こんな華奢な女の子が、片手で殴り倒すのか……」


 これは常日頃思うことだが、最近は顕著に表れている気がする。

 そう、能力者という存在の、異常性を……


「シエル、能力はもうきれたのか?」


 俺はシエルの耳元へ行き、そうポツリと尋ねる。

 もし俺達が敵と判断された場合、戦うことになるかもしれない。

 その時の布石は打っておきたい。


「ええ、さっきみたいに、力が溢れてくる感じがしない。三十分くらいが限界なんだと思う」


 三十分か、あれだけの力を、あんな軽い質問が当たっていただけで使えるとなると、本当に馬鹿げた力だ。

 そして俺は、あの質問をした時の事を思い返していた。

 

「………………………あ」


 ………待てよ、俺がシエルをどう思っているのか、俺はシエルに尋ねた。

 そしてシエルはそれを正解した。

 俺が、シエルを好きであると。

 それって、つまり…………


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 初めて出た、そんな声。

 俺は顔を真っ赤にしながら、膝を曲げて顔を隠す。


「ど、どうしたのよ幸一!?お、お腹でも痛いの?」


 シエルは、なんのことか分かっていない様子で、俺のことを心配そうに見つめている。


「だ、大丈夫だから……ほ、ほら…待たせてるし行くぞ」


 俺は照れ隠しに、顔を後ろへ向けたまま、立ち上がってそう言う。


「大丈夫ならいいんだけど…じゃ、行くわよ!」


 シエルは再び元気を取り戻した。

 けど、縛られてる腕には、まだ不満そうだった。


 ジムの入口から真っ直ぐ行くと、正面に巨大な入口が見えてくる。

 そこを右に曲がり、少し歩くと、巨大なエレベーターと思われるものが見えてきた。


「ここに乗れ」


 全員がエレベーターに乗った。

 行く階を選ぶボタンがある、それの〝2F〟と書かれたボタンを、おじさんは剥ぎ取った。

 すると、そこに新たなボタンが現れた。

 〝50C〟と書かれている。

 

 Cってのは、なんの意味だろう?


 俺は疑問を持ちつつも、声に出す事なく、エレベーターが着くのを待った。


 50という高い番号にしては速い到着をした。

 エレベーターが開かれると、すぐ目の前に、普通サイズの扉があった。


 さっきのスケールとはやや見劣りするな……


 なんて思いつつも、俺はここが本拠地なんだと確信し、緊張していた。


「大丈夫よ、幸一。絶対にあんたは私が守る」

「自分の心配だけしとけ、お前は。自分の身は、自分で守る……」


 漢として、かっこつけたくなってしまった。

 とは思いつつも、今のセリフちょっとかっこよかったな……なんて本音では思っていた。


 そして、おじさんは扉を開けた。


「帰りが遅くなった。土産がある、蚊帳かやはいるか!!」


 おじさんは扉を開けるなり、そう大声で叫んだ。

 中は、校長室みたいに綺麗でデカかった。

 社長用らしき机と椅子の配置。

 そして長机と椅子。

 正直言って、あんまり居心地は良さそうじゃないな。


「なんすか隊長……気持ちよく寝てたってのに……!?お、お前は……」


 蚊帳清州が、奥から現れた。

 そして俺たちを見るなり、驚いた表情を見せた。


「よぉ、久しぶり」

「あぁ、乙女心を享受してやった時以来だな」


 ………あれは散々だった。

 シエルにも、センスがないだのどうだのボロクソに叩かれたし。


「あ、そうだ!蚊帳、俺達の無実を証明してくれ!」

「あぁ?お前ら、またなんかやったのか?」

「違う、このおっさんが勘違いで俺達を犯罪者扱いしてくるんだよ!」


 俺の必死な弁論を無視し、おっさんは告げる。


「おい蚊帳。この坊主は、自分を早瀬川師匠の孫だと自称してやがる。そんでもって、お前はそれが真実かどうか知っているらしいな。どうなんだ?」

「はい、そいつは早瀬川源蔵の孫で間違いないですよ。疑うなら、そいつの血液を調べれば、その異様さが分かる」


 信じられない……と言いたげな表情を浮かべるおっさんは、それでもすぐに理解したのか、こちらを向き謝罪を述べる。


「本当にすまなかった!勝手な憶測で、君達を怖い目に遭わせてしまった!」


 おっさんは、床に頭を擦り付け、完璧な土下座を披露した。

 先程までの態度とは一変、人が変わったみたいに親切だ。

 いいや、これが本来のおっさんの姿ってわけなのかもな……


「いや、こっちは助けてもらった側だし、別に謝られるほどのことじゃ……」


 と、俺が諭すのを遮り、シエルは言った。


「いーや、だめね。許せないわ。あんた達に、何か要求するくらいはさせてもらわないとねー」


 こいつ、この期に及んでなんて最低なやつだ……

 でも、今まで関わってきて分かったが、シエルはこんな事を言うような奴じゃない。

 なんだろう、この違和感は……


「もちろんだ!俺達がやれることなら、何でもさせてもらう!」


 そう言いながら、おっさんは俺達の縄を解いてくれた。


「うーん、それじゃー。私達を【掃除人】に入れて?」


 は?


 俺は心の中で貯めた言葉を、思わず吐き出していた。

 思いもよらぬ言葉に、数秒の沈黙が走る。


「………それはダメだ。この仕事は、君達か思っているほど、生易しいものじゃない。全員が、死ぬ覚悟で全力で、仕事をしている。それを軽い気持ちで、入りたいだなんて口にするのは、やめてくれ」


 おっさんの顔付きが、またガラリと変わった。

 怒りというよりも、咎められているみたいだ。

 

「軽い気持ちで、私がここにいるわけないでしょ……私は、お兄ちゃんを連れ戻すためにずっと旅してきた。そしてやっと、お兄ちゃんに繋がるための糸口を見つけたの……それなのに、それなのに……なんで否定されなきゃならないの!」


 シエルは、必死に叫んだ。

 涙混じりのその声は、言っている内容はともかく、人の心を揺らすのには充分だった。


「………お兄さんは、今どこに?」


 おっさんは優しく聞いた。

 一般家庭のお父さんのような、温かさを感じる。

 俺は感じたことがない、温かさ……


「………お兄ちゃんは、革命者レンブラーの幹部になったわ」

「革命者幹部だと!?君の兄は、十六人の支部長の一人だというのか!!」


 十六人の支部長……なんの話しをしているのか、全く分からない。

 聞き慣れないワードに、俺以外は分かっている様子から、俺は謎の疎外感を感じていた。


「………うん。私の調べだと、兄は第三支部の支部長をやってるみたい」

「な!?それは本当かよ!!俺達は丁度、第三支部の情報を集めてたんだ!」


 おっさんは嬉しそうに大声を上げる。


「そっか……そうかぁ!!考えが変わった。歓迎するぜ、掃除人へ!!」


 そう言って、おっさんは手を伸ばし、握手を求めてくる。


「ありがたく入らせてもらうわ!シエル・ブラッドよ!」

「これから、よろしくお願いします。早瀬川幸一です」


 シエルは左手を、俺は右手を掴み、握手を交わす。

 流れで俺も入ることになってしまったが、自然と嫌な気分じゃない。

 俺は自分でも気付かぬうちに、シエルといることを望んでしまっていたのかもしれない。


 握手を受け入れると、おじさんも挨拶を返す。


「あぁ、よろしく!俺の名前は、高辺たかべ 俊之助しゅんのすけだ!」


 こうして、俺達は掃除人の一員になった。




                体育祭編 終幕

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