第40話 終結
「………お前が、師匠の息子だ?笑わせんな!お前と師匠はどこも似ちゃいねえぞ!!」
明らかにキレた様子で、男は俺を睨みつける
「二度はないぜ。その冗談をもう一度言ってみろ、一瞬の内に殺してやるよ」
豹変したように、男の口調は刺々しいものに変わる。
冗談……っていうか、本当なんだけどな……
けど本当の事言っても信じてくれないだろうし。
「す、すみません!今のはジョークです、ジョーク」
ここは穏便に済ませて、本部とやらで蚊帳に説明してもらおう。
「そういうことなら、とりあえずお前達は本部へ連れて行く、いいな?」
俺とシエルは頷く。
金髪マッチョは倒れたまま起きていない。
碓氷さんは……
と、俺はそこでようやく気がつく、碓氷さんの姿がないことに。
「くそぉ!師匠の事に気を取られてた……」
男は悔しそうに叫ぶ。
「まぁ、支部長一人を捕えることができたわけだ、プラスに考えていよう」
男は独りで何やら呟いているみたいだ。
すると男は、駐車場に停められていたトラックに近づき、こう言った。
「お前ら、ここに乗れ」
指示されるがまま、俺とシエルは、トラックのトレーラーに乗り込んだ。
そして金髪マッチョは、縄で動けなくされたまま、俺達と同じようにトレーラーにぶち込まれた。
「一応言っておくが、下手な真似はしないようにな。俺の手元のボタン一つで、トラックが爆発するよう改造されてるから」
「ば、爆発っ!?」
これじゃあトラックじゃなくてトラップじゃねえか。
「それじゃ、出発進行ぉ〜〜〜!!」
こうして、苦痛で退屈な、史上最悪の運転が始まった。
運転を始めて、十分ほどが経過した。
現在、横にいるシエルは、よだれ垂らして爆睡中。
腕を拘束されて何もできないし、流石に俺も暇になってきた。
けれど眠りたいとも思わないし……
と、ここで俺は、勇気の決断をした。
「……あ、あのー、質問なんですけどー」
「ん、なんだ?何でも聞け!」
運転前とは明らかに機嫌が良い。
めちゃくちゃ優男じゃん!
「えっとー、おじさんの能力って何ですか?」
先程目の当たりにした、超人的な動き。
シエルも大概だが、あのジジイの動きはレベルが違った。速すぎて視界から消えてたし。
俺の予想じゃ、スピードに特化した能力だと推測される。
なにせ、【能力】は皆が均等にされているらしい。
一つの分野でずば抜けていても、他の分野はそんなにだったり、全体がある程度高い代わりに、ずば抜けて高いものがない、とか。
そう考えてみると、俺の能力は釣り合ってない気がする。
一日一回しか使えないくせに、効果は相手の心を読むだけ。
なんて使えない能力だ!
と、ここでジジイから返答が返ってきた。
「俺の能力かー、秘匿にすべきなんだろうけど、自慢したいから言っちゃうよー。俺の能力は、【他人の肉体を宿す】能力だ」
「………なんか、思ってた能力とは違うな」
「あんま強そうじゃねえだろ?」
「他人の体に変わるって、例えば俺の体に変わったとしたら、俺の能力まで使えるんですか?」
「うーん、そこは俺自身まだ理解しちゃいない。まぁ憶測になるが、使えるだろう。とは言え、強い能力の人間に、なりたくてもなれないんだよ」
「え?なんでですか?」
「この能力はな、俺が最も信頼を置く人間、かつ体格がほぼ同じ人間にしか変われないんだ」
「限定的すぎません!?おじさんくらいの体格の人はそうそういないし、さらに信頼を置く人ってなったら、もう誰もいないんじゃないのか?」
「それがそうでもないんだ……俺には、師匠がいてな。師匠は今や、死にかけのおいぼれのはずなんだが、それでも肉体は衰えちゃいなかった。能力を使うことなく、化け物じみた動きをする。……それでも、俺はまだ、師匠の力を完全には引き出せていないんだ」
おじさんはニヤけながら、自慢げに自らの師匠を語る。
「へー、そんなすごい人間がいるんですね」
早瀬川の血に匹敵するかもな。
もしかしたら、父さんや爺ちゃんよりも強いかも……知りたい
「なんて名前なんですか?」
俺は好奇心を抑えきれず、そう問う。
「名は、早瀬川源蔵。俺の尊敬する、憧れの師匠だ」
……は?何言ってんだ?
爺ちゃんが師匠?
というか死にかけのおいぼれって……それはつまり……
……まだ、爺ちゃんは生きている?
「何言ってんだお前。爺ちゃんは、とっくの昔に……」
その時、俺はふと、思い出した。
金髪マッチョが乗り込んできた時、奴は言っていた。
『早瀬川源蔵の居場所を吐け』
なんだ……どういうことだ……
頭の中で、合点がいかないような、だけど正しく思えてしまうような、そんな矛盾が浮かんだ。
「おーい、何だってー?よく聞こえなかったー」
「な、なんでもない……」
いや、爺ちゃんが生きているわけない。
だって生きていたなら、なんで家に戻って来なかったのさ。
そうすれば、母さんを助けられたのに。
爺ちゃんなら絶対、守ってあげられたのに。
爺ちゃんは死んだんだ。
戦争を終結させ、最後は子供を庇い、英雄として散った、俺の、自慢の爺ちゃんなんだ。
けど、もし……もし本当に生きているのだとしたら。
俺はもう、笑顔で会うことはできないと思う。
これにて、体育祭編終了です。
次回からは新章突入なので、ぜひぜひ見てください!
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