第39話 乱入
シエルは今、超人的なスピードで金髪マッチョを振り解き、首を掴むに至った。
シエルが持つ能力【探偵】は、身体能力を大幅に向上させるものだ。
そしてその発動条件は、謎を解くこと。
テストの問題を解くとか、悩み事を解決するとか、どんなものでもいい。
その答えが、正しいのであれば。
俺があげた質問、それに対してのシエル解答は……正しかった。
「なん、、だ・・・それ・・は、ぁ」
首を持ち上げられたまま、息も絶え絶えで苦しそうな姿のマッチョが、そこにはいた。
能力の条件が揃ったんだ。
そして、あのマッチョを赤子扱いできるほどの、圧倒的なパワーを得たんだ。
あのマッチョを、軽々と倒せるほ
「黙ってて。あんたは、こんなんじゃ済まさないから」
シエルは冷酷な言葉を浴びせると、マッチョを壁に向かって投げ飛ばした。
そして、飛んでいくマッチョよりも速く壁まで走り、マッチョを受け止めると、次は地面へ叩き落とした。
マッチョは落ちると、あまりの衝撃にバネのように跳ね返り、その拍子に、口からは血が吹き出ていた。
そしてほぼ同時に、俺はシエルの元へ走り出していた。
「避けろ!!!」
俺は叫んだ。
しかし、シエルは気づくのに遅れた。
シエルはマッチョとの戦いに集中していた。
故に気づくわけがないのだ、背後から迫って来ていた、氷の棘に。
棘はシエルの皮膚まで到達した。
しかし、能力によって強化されたシエルの皮膚を貫くことはできなかった。
棘は皮膚に当たると同時に、パキッと割れた。
そして割れ目は、何本もの氷の線のように、クネクネと唸りだした。
やがて複数の割れ目はシエルの周りを覆い、体に巻きついた。
そこから更に氷が広がり、ほんの数秒で、シエルの体は氷の中に閉じ込められた。
攻撃じゃない、拘束が目的だったのか。
そして、この芸当を見せた張本人、それは、俺をカラオケに誘い、裏切った、碓氷さんだった。
まさか、彼女も能力者とはな。
氷を作り出す能力・・・といったところか。
それにしても、加勢するならもっとタイミングがあったろうに、どれだけ舐めれば気が済むんだ。
と、俺はそこまでシエルの心配をしてはいなかった。
なぜなら彼女は、この程度で負けるような力を持っていないから。
一撃で山のような岩を砕き、一っ飛びで数十メートルを飛ぶ女の子が、氷に覆われただけで捕まるわけがない。
そして、案の定というか、予想通り。
氷はピキピキと音を立てながら、ヒビを作っていた。
そして遂に、氷は砕け散った。
中からは、何食わぬ顔をしたシエルの姿があった。
「へー、不意打ちなんて、やってくれるじゃない!!!」
シエルは碓氷さんに飛びかかった。
そして突き出した拳は、碓氷さんに当たる前に、別の何かにぶつかり止まった。
拳の先には、腕組みをし、仁王立ちした男がいた。
「良い拳だ。普通の人間なら、間違いなく吹っ飛んでるだろうな。だが残念なことに、ここにいるのは俺だ。掃除人最強の、俺様だぁ!!!」
そう堂々と言い切って見せた男の姿は、筋骨隆々で短髪の黒髪をした、いかにも好青年って感じだった。
「誰よ、あんた!!」
シエルも負けじと強気に攻める。
「俺は八木 一郎。【掃除人】のリーダーをやってる。ところでお前ら、【革命者】か?」
掃除人……蚊帳の言ってた連中か。
「革命者ぁ?私達はただの高校生!ちょうど半裸の変質者に襲われてて、これは正当防衛なの!分かったら黙ってて!!」
なにもわかってないシエルが早々と叫んだ。
ややこしくなるだろ、お前が黙れ。
「待て待て、もしかしたら味方かもしれないだろ」
俺は仲裁しようと立ち上がるが、そんな雰囲気ではないのは丸わかりだ。
「お前達が革命者ではない証明ができない限り、その場を動くな。できなけりゃ俺がお前らを殺す」
そう言った途端の男からは、殺意のような鋭い視線を感じた。
金髪のマッチョと戦った時なんかよりもずっと恐ろしい。
しかし、その視線はすぐに、隙をついて逃げようとする碓氷さんの方へ動いた。
瞬きをする間もなく男は移動し、彼女の目の前に立った。
「何してる、動くなと行っただろ?」
いや、、え、なんだ・・・今のは
いくらなんでも、速すぎる・・・
シエルもとんでもなく速いけど、動きが見えないほどじゃない。
こいつは、この距離でも一才何も見えなかった。
まるでそこから、存在ごと消えたような・・・
「あの、俺!蚊帳清州の友達です!!!」
疑いの目を晴らすには、これしかない!
あいつと友達というのは気に食わんが、とにかくこれで信じてもらえるだろう・・・
「お前が、蚊帳の?ふーむ・・・」
悩んでるみたいだ。
まあ、気長に待つとしよう。
「悪いが、一度本部へ連れて行く。そこで蚊帳に書いてみよう」
よし、それならいける!
「そんな面倒なことせず、もっと早く証明できるじゃない!」
シエルが口を挟んできた。
「・・・そんなのあるのか?」
「あるわよ!例えば、あんたが早瀬川源蔵の息子だってこととか!!」
おお!それは通じそうだな!
なんて能天気な俺達は知らなかった
これが地雷ワードであることを
この男が、早瀬川源蔵の弟子であることを・・・