第34話 ほのぼのカラオケ
今年の体育祭は、俺たち赤組の勝利で終わった。
その後はみんなで祝い合い、合胴上げをしたり、ダンスを踊ったりして、最高の体育祭になった。
………だったらなんで。
「何であんなことになるんだよ!!」
俺は街中であることを忘れ、大声で叫びながら壁を叩いた。
一旦、まとめよう。
シエルが怒っていた原因は、俺があいつのリレーを見ていなかったことだ。
確かに、シエルのリレーを見てなかった俺が悪い。
だから謝った。
それでも、あいつは俺に罵声を浴びせた。
あんなに傷ついたのは、久しぶりだ。
でもやっぱり、シエルもシエルだ。
ただリレーを見なかっただけで、あんなに怒るのはどうなんだ。
「………はぁ」
なんか、もういいや。
色んな感情がぐっちゃぐっちゃ混ざって、疲れた。
こういう時は、リラックスが大事だ。
息抜きだな。
ということで俺が向かう先は、学校の近くのカラオケ店だ。
体育祭で、青髪の美少女に誘われてしまったからな、行くしかないだろう。
とか言いつつも、正直な所楽しみではあった。
そんなことを考えていると、見えてきた。
「早瀬川さーん、ここですよー!」
カラオケ店を背に、可愛らしい声で呼んでいる女の子がいた。
彼女こそが、俺をカラオケに誘った、青髪僕っ子美少女である。
ふん、ここは一丁、大人の男ってやつを見せてやるか。
「わり、遅れたわぁ!ま、細かいこと気にすんなって!行こうぜぇ!」
………決まった。
「あはは、早瀬川さん面白い!」
「ま、まあね」
一体どこが面白かったんだ。
やばい、もしやこれが、本当の大人の女なのか??
「ところで、名前を聞いてなかったな」
「あー、そういえばですね。私の名前は碓氷 汐です。今日は、楽しみましょうね!」
そう言って碓氷さんは、にこっと笑った。
その笑顔がとてつもないほどに可愛らしく、それを見た俺は、余りの衝撃に動けなくなってしまった。
「………早瀬川さん?」
そう呼びかけられて、やっと自分が止まっていたことに気がついた。
「ぅえ?あー、ごめんごめん!じゃ、行こっか」
「そーですねっ」
俺たちは店の中に入った。
入って最初に思ったのが、やけに静かなことだ。
受付には店員が一人だけ、歌声は一つも聞こえてこない。
相当防音が優れてるのかも……まあ、ただ人気がないだけかもしれないけど……
受付を済ませ、俺たちは早速、歌を歌い始める。
「それじゃ、トップバッターいいですか!」
碓氷さんが歌う曲は、『アイラブピース〝世界を愛で包んで〟』
結構マイナーなやついくなー。
「愛!それは愛!世界を救うのは愛!包むのも〜〜〜愛!」
結構うまいんじゃないか!?
高得点が期待できるぞ!
「………あちゃー」
碓氷さんは、あからさまに残念そうな顔をしていた。
そりゃそうだろう、予想外の70点なんてでたのだから。
「今のは90点でもおかしくないと思ったのになー」
「僕もまだまだですね、次は早瀬川さんですよ!」
「よっし、軽く超えてやるか」
と、俺が意気込みながら曲を選んでいる時だった。
個室のドアが空き、店員らしき五名の男が中に入って来た。
あれ、何か注文したっけな。
俺は間違いだろうと思い、店員の方を向いた。
しかし、目の前に映ったのは……いいや、目の前に飛んできたのは、真っ赤なトマトケチャップとチーズが浸るくらいかかった、美味そうなピザだった。
「ご注文のピッザァでございまっすぅぅぅぅ!!!」
店員がそう奇声をあげた時には、俺の顔面へとピザがダイレクトアタックしていた。