第29話 衝撃
ここは、黄チームの待機場。
俺たちの作戦はこうだ。
「まず、うちの最強騎馬を相手の最弱と当て、確実な一勝を得る。そして自由になった最強を、一対一中の騎馬にぶつける。そうやって着実に有利状況をつくるって訳だ」
この作戦は完璧だ。
前日の練習でも、あの赤チームを一方的にボコれたしな。
そんで相手はまたもや赤チーム。
昨日みたく潰してやろう……
「正面の弱そうなやつから行くぞ!」
俺たちは声をあげ、正面の騎馬へと突っ込む。
「ハチマキよこせやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そう叫ぶことで、相手の心理を利用する。
相手には、俺という存在しか見えていない。
ほーらみろ、あっちでうちの最強馬が暴れてやがる。
すでに一組の有利ができた。また勝ちだなこりゃ。
最強はすぐにこっちへ走ってきた。
目の前の騎馬の不意をつくように、真後ろから。
相手は俺達に気を取られ、後ろからくる騎馬に気づいてない!
挟み撃ちで、すぐに潰してやるよ!
「おいどうした!守ってばっかか!?」
俺がそう挑発すると、相手は案の定乗っかってきた。
攻めに転じ、突進を仕掛けてくる。
さぁ、こい!!
「っ!だめだって幸一!!」
後衛の女はそう言って、攻めを止めようとする。
冷静だな、だがもう止まらねえよこいつは。
「バカが!!」
俺はこいつの攻撃と同時に後ろへ引いた。
すると相手の体制が崩れかける。
「お疲れ」
そこに背後から最強馬がとんできた。
勝ったな。
俺は引いた体を戻し、すぐに攻撃へ移った。
挟み撃ちだ!
そして俺の手が、相手のハチマキに触れようとした時……
ピーーーーーーーーー!
急にホイッスルが鳴った。
なんだ、失格者でもでたか?
「青チーム二組、六組、『敗北』!!騎馬はただちに外へ出なさい!!」
は???
どうゆうことだ。
青チーム二組は、俺達だ。
そんでもって六組はあの最強達だ。
一体誰が、いつ、どうやって俺たちを!?
俺は放心状態のまま、顔をあげた。
「………お疲れ!!」
そこには、下卑た笑みを浮かべたまま、二本のハチマキを掴んだ、さっきの相手がいた……
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勝った。
騎馬戦に勝った。
「勝ったぞー!!」
「やったわね幸一!あんたのおかげよ!」
騎馬戦に勝利し、俺はみんなに祝福をもらった。
そう、俺たちは、騎馬戦に勝ったのだ。
「でも、あんな不意打ちによく対応できたわね?」
「まあ、能力ありきだけどな」
俺は、この試合の三十分前に、昨日戦った相手に能力を使った。
俺の能力は、一日一人かつ効果時間は1時間。
だが、能力の有効範囲に限りはない。
だから俺は、相手が近くにいない間、そして試合開始よりも前から、相手の考えていることがわかっていた。
それはつまり、相手の作戦がつつぬけであったということだ。
そしてそれにより、相手の最強馬は、隙だらけの相手を最初にやりに行くとのことだった。
だからあえて、最初は守りを固め、防戦一方だという雰囲気をつくった。
不意打ちできれば、一発だっただろう。
だからこそ、相手の最強馬はすぐにこちらへ来た。
心を読めるおかげで、不意打ちのタイミングもすぐに分かった。
途中であえて攻めれば、隙だらけになったところを狙いにくることは分かりきっていた。
そしてそこに両騎馬が特攻してくる。
単純な攻めのため、どこに手が来るかは予想できた。
両方の攻めを避け、体勢の悪い二人のハチマキを奪う。
まあ、こうみると予定通りいったように見えるが、もし能力を使った相手が最初に攻めてこなかったら、不意打ちのタイミングも分かりづらく、もっときつかったろうな。
まあ、運がよかったのだ。
「あとは、上級生に勝ってもらうだけだね」
信木が、俺の右肩に手を置いてそう言う。
何勝手に触ってんだこの野郎。
ん?
ここで気づいてしまった。
なぜか左肩にも、手が置かれていたことに。
位置的に、信木が片方の手で触っているわけではないらしい。
シエルは正面、勝浦と大橋はその隣で並んでいる。
じゃあ一体、この手はなんなんだ?
少し怖くなってきた。
幽霊じゃないよな?
正面にいるシエルの顔をみると、何故か強張った表情をしていた。
え、まじで幽霊なの?
やばいやばい怖い。
ビビりながらも、俺は後ろを向いた。
「耳悪いのかい?聞こえてるか?」
そこには、さっきまで勝負をしていた青チーム、その最強馬の足役の人がいた。
「えっと、なんですか?」
「いや、さっきから君に話しかけていたんだけど、聞こえてないみたいだったから」
え?
「そうよ、その人はさっきからあんたに話しかけてたわよ」
シエルが腕組みをしたままそう言う。
「えっと俺、気づかなくて…ほんとすいません!」
「いや、別にいいんだけどね。ただ少し話があって、場所を変えてもらってもいいかな?」
すげえ優しい。
話し方からも伝わってくる。
うん、絶対良い人だ。
「あー、いいですよ」
けど、だったらなんでシエルはあんな強張った顔してたんだ?
「お前のあの表情はなんだったんだ?」
「え、どんなの?私はただあんたに、こいつ聞いてなさすぎだろ、って引いてただけ」
引いてたのかよ。
俺が悪いからなんも言わねえけど………
「それじゃ、行こうか」
俺はこの人についていった。
案外遠いな……
というか、なんの話しされるんだろう。
リレーも始まるし、長話はいやだな……
「ここら辺にしようか」
ついたのは校舎裏だった。
「えっと、なんの話しを?」
「………単刀直入に聞こう」
そう言うとこの人は、さっきまでの優しげな態度とは打って変わり、睨みつけるような厳しい表情をした。
「君は、能力者なのか?」