表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/41

第25話 一種目 短距離走

 体育祭が、始まった。


 一つ目の種目は、短距離走。

 五十メートルを、八人が一列に並んで全力疾走する、単純な競技。

 これほど身体能力に左右される競技は他にない。

 

 短距離走は、全員強制参加の競技。

 だから俺も出なきゃならなかった。


 昨日のリハーサルだと、俺は五位。

 でもポイントがもらえるのは四位から。

 あと一人分の差を埋めるための努力……一日でやれるだけのことはしてきたつもりだ。


「頑張りなさいよ」

「あぁ、俺の本気……見せてやるよ!」


 自信満々に意気込みを入れ、俺は競技に臨む。


「……………」


 ここにきて、緊張してきた。

 前にいた人達が、どんどん減っていく。

 みんな走って、奥へ行ってしまう。

 いつ自分の番になるのかと、焦りが止まない。

 

 ………よし。緊張ほぐしに、昨日動画で見た、走り方のコツをおさらいしてみよう。

 

 ポイント一 腕を大きく振る

 ポイント二 足は遠くに着く


 この二つを意識して走るだけで、三秒も速くなるらしい。

 ………信じていいんだよな。


 まあともかく、頑張る。


「準備はいいですか?」


 気づけば、俺の前には人がいなかった。

 どうやらついに、俺の出番みたいだ。


 さてと……〝俊足の雷神〟と呼ばれた俺の脚力を見せるとしますか!


「ぜぇ……はぁ……はぁ……」


 走り終えると俺は、地面に倒れ、荒い息を吐いていた。

 結果を言うと、六着。

 リハーサルよりも下がっていた……


「全力疾走がこんなにきついとは……リハーサルとは大違いだ」

 

 体力の無さを実感したな……

 

 ……そんな風に反省していた時だった。

 

「一年女子にやばいのいるぞ!」

「早すぎるだろあいつ!」


 皆がそう驚愕の声を挙げていた。

 気になって俺も見に行ってみた。


「え?」


 圧倒的一着で独走状態を作っていたのは、如月……シエルブラッドだった。

 あいつ、あんなに足速かったのか!?


 能力を使っているのだったら遅すぎるし……本当に自前の脚だけであのスピードなのかよ。


「すげえな……って痛っ!」


 シエルの走りに感心していると、急に背中に痛みを感じた。


「す、すみません!そんなに強く掴んだつもりはなかったのですが……」


 そう背後から聞こえ、振り向くとそこには、水色の髪の女の子が立っていた。


「いやごめん。俺も過剰に反応しすぎたわ」


 と、なぜか俺も謝っておく。

 ………可愛い。

 ちらっと顔を見て思った印象がそれだった。


 整った顔立ちに高身長……170くらいはありそうか。

 更にスラリと体型は細めでかつ、運動系なのか足は太め、という俺のドストライクを突いてきていた。


「それで、何か用でもあった?」


 好青年らしい立ち振る舞いで、好印象をもたせるようにしてみたが……正直いつもの俺と違いすぎて、内心気持ち悪い。


「はい!実は早瀬川さんにお願いがありまして……この体育祭が終わったら、僕と一緒にカラオケに行ってくれませんか!」

「………………」


 ぼ、僕!?

 僕っ子でしたか、失礼。

 最高ですよ、君は。

 

 と、僕っ子に釣られてしまったが、よく考えたらこれって……デートのお誘いじゃね!?

 こんなの、断らない理由がないよなぁ!


「もちろんです。俺でよければぜひ、行かせてください」

「やった!では放課後に校門で待ってます!」


 そう言って女の子は去っていった。

 去り際、俺と女の子は手を振り合っていた。

 そうして女の子が見えなくなっても、俺はずっと、手を振り続けていたという……


「はっきり言って、きもかったわ」


 シエルにそう言われ、やっと思い出した。

 俺はあれからずっと手を振り続けていたらしい。

 そんな俺を偶然見つけたシエルは、俺を保健室まで運んできてくれたらしい。

 

「ニヤニヤ笑いながら手なんか振っちゃって!キモかったわよあの絵面!」


 指を差し、笑いながら言うシエルのことをぶん殴ってやろうか迷ってしまった。


「で、誰に手を振ってたの?まさか妄想の彼女とかじゃないでしょうね?」

「名前も知らない女の子からカラオケに誘われてさ、放課後一緒に行くんだ」

「……………え?」


 シエルは目を丸くして言った。

 余程俺を馬鹿にしてると見える。


「も、妄想じゃなくて……ガチのやつなの?」

「あぁガチのやつ。もしかしたら俺に彼女ができるかもな!できたら祝ってくれよ!」

「……………」


 無視?

 さすがに調子に乗りすぎたか……

 

「……………いや……」


 小声で、ポツリと、そんな小さなものだったが、俺は確実に聞いた。

 「いや」と。


「な、何がいやなんだよ!」

「……………」


 シエルは黙りこんでいた。

 

「し、シエル?」

「………ここじゃその名前で呼ばないで…」


 そう言い残して、シエルは保健室から出て行った。


 何かしてしまっただろうか……

 そんな不安を抱えたまま、第二種目が、始まる。

 

 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ