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第23話 本気

「赤チーム二組、ハチマキを取られたので外に出てください!」


 審判が、大声でそう言った。

 赤チームの二組……俺達のことだ。


 一体いつ……いつハチマキを取られたんだ。

 正面の組は、俺達より遅くに手が出たから絶対にありえない。

 だとしたらなんだ……まさかハチマキが落ちたとか?

 いや、審判は()()()()と言っていた。

 じゃあやっぱり誰かに取られていたんだ。

 

 見えないところからとなると、後ろから取られた可能性が高い。

 それも、別の組のやつに。


 とは言え、負けは負けだ。

 どうやったって結果はもう変わらない。

 次にどうするべきか、それを考えるのが先だな。


「なぁ、攻め方を変えるべきだと……」


 俺はそんな提案を言いかけた……


「うぅ……ひぐ…うっぐ………」


 その時シエルは、泣いていた。

 いや、シエルだけじゃない。

 信木も、大橋も、勝浦も、みんなが目に涙を浮かべ、悔しそうな表情をしていた。


 みんながこの試合に、いろんな感情をもっていた。


 何も感じなかったのは、俺だけだった。


 ………結局騎馬戦は負け、俺たちは一度も話すことなく、校舎を後にした。


 帰り、シエルが校門の前で立っていた。

 俺が通り過ぎようとした瞬間、シエルは俺に言った。


「話がある」


 シエルはそう短く言い、無言で路地裏まで歩いて行った。

 もちろん俺もそれについて行った。


 路地裏に着いても、シエルは黙ったまま、こちらを振り向いた。

 

「な、なぁ……」

「ねえ」


 俺の声をかき消すかの如く、シエルの低音が路地裏に響き渡る。

 

「今日の試合、どう思った?」


 そう聞くシエルの視線は、妙に冷たかった。

 俺は緊張して、ぶるりと体を震わせた。


「そ、そりゃ……悔しかったよ」

「本当に?」

「あ、あぁ!()()に取り組んだんだ!負けたら悔しいのは普通だろ!」


 シエルの問いが、俺の核心を突いてくるようで、俺は焦っていた。


「そう、負けるのは悔しい。でも、それは、()()にやってる人に分かるはずがないわ」

「………どういうことだよ?」


 全て見え透いたような様子で俺を見るシエルに、恐怖を感じた。


「幸一、あなたは一度、私の呪縛を解いてくれた。だからこそ、次は私が、あなたを助けたい。だから言わせてもらう」


 俺は唾を飲んだ。

 

「あなたは、一度も本気でなんかやっていない。そうでしょう」


 本気でやっていないって……あの練習を見てよくそんなことが言えたな。


「俺は最初からずっと本気だったよ!真剣に取り組んだ!でも、それでも負けたんだ!どうしようもないだろ!」 

「じゃあ、何で能力を使わなかったの」


 それは、予想の斜め上を行く答えだった。


「能力を使うって、それは反則だ。ルールに則ってやる、それが本気でやるっていうことだ!」

「いいえ違う。あなたのそれは真剣にやるだけ。本気でやるのとは違う」


 正しいのは俺のはずだろ……なのに、なんでこんなに、正論に聞こえてしまうんだ……


「本気と真剣は違う。勝つためなら何でもする。何が何でも勝ってやる。そんな気持ちで、今日の試合をした?」


 あぁ、したよ。

 何度もしたよ。

 最下位は嫌だから、最下位にはならないようにって……

 ………あれ?


 違う。

 それは違った。

 最下位にならないのと勝つことは違う。

 勝つっていうのは、一位だ。

 最下位じゃなければいいとか、そんなのじゃない。

 

 なんで俺は、最初からハードルを下げてしまっていたんだ。

 なんで、こんな気持ちのまま、試合に行ってしまったんだ。


 俺があの時、能力で心を読んでいれば、後ろからきていた組にも気づけたはずだ。


「何してでも勝つって、気持ちだけでもいいから、勝ちを目指さなきゃ、最下位だって越えられないよ!みんな同じ気持ちで臨んでいたんだから」


 みんなの想いを考えていなかった。

 みんなは端から、一位しか考えていなかったのに。

 俺だけが、最下位のことしか考えていなかった。

 勝ちたいなんて、思ってもみなかった。


「だから幸一も、勝とうよ!」


 シエルはそう言って、俺に手を差し伸べた。

 それは、冷淡な最初の表情とは違う、屈託のない笑顔をしていた。

 

 俺はこの時だけ、彼女が天使のように見えてしまったんだと思う。

 俺はシエルの手を受け取り、勢いのまま前に倒れ、シエルの胸の中で、数時間泣き続けていたらしい……

 



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