第21話 気持ちの違い
騎馬戦の練習を始めて、一週間が経った。
初めよりかは安定して動けるようになり……
「これなら、本番でもやっていけそうだな!」
「だな!」
「……………」
皆が呼応して騎馬戦の成功を信じる中、シエルだけは何故か、暗い表情をしていた。
「いつまでもかっこつけてないで、少しはお前も喜べよ」
俺は少しシエルを馬鹿にして、そう言った。
だが、シエルからの返答は想像していたものとは違った。
「まあ、私の思い過ごしならいいんだけどね……」
そう言い残し、シエルは帰った。
三人はこの後部活があるらしく、俺は一人で帰ることとなった。
……と、まあ一人で帰るのは寂しいので、シエルと帰ることにした。
先に帰り始めたせいか、シエルは思ったよりも遠くにいた。
俺はそんなシエルを、走って追いかけた。
「待ってくれよー!如月ー!」
周りに人がいるかもしれない為、俺は敢えてシエルを偽名で呼ぶ。
如月に追いついた俺だったが、帰宅部の体力の無さが早々に出てしまっていた。
ゼェゼェ、と息を吐いては吸ってを繰り返す。
喉が痛い。
飲み物をくれぇ……。
「これが騎馬戦の大将の体力………」
シエルは呆れたように言って、カバンからお茶を取り出した。
「さっき丁度買ったやつよ。飲みなさい」
「はぁ……はぁ……悪いな…今度なんか奢る」
そうして俺はお茶を受け取り、グビグビッと喉に流し込んだ。
「ぷはぁぁぁー!生き返る!」
疲れが吹っ飛んだ。
言うなればサウナ後のコーラ!
極寒の山を登り切って飲むココア!
風呂上がりに食うアイス!
そんなところだ。
「例えはよくわかんないけど、まあ嬉しそうでよかった」
シエルはそう言って、少し笑った。
そうして俺たちは、また歩き出した。
歩いている途中、俺はさっきのことについて聞いてみた。
「……なぁ、シエル。さっきの練習の時、なんか暗い顔してたが、なんかあったか?」
「………別に」
はぐらかされてしまった。
単刀直入に聞きすぎただろうか……
「………いや」
と、シエルはそこで言葉を止めた。
「これはさ…私の憶測でしかないからさ…あんまり信じないで欲しいんだけど……」
そんな風に言うシエルはまた、練習の時のような暗い表情をしていた。
「私達が見ていないから知らないだけで、もし他の団の騎馬が、練習を積んだ私達の騎馬よりも、ずっとずっと強かったら……」
深刻そうに言うシエルだったが、俺には、そんなに深く悩むことだろうか、と思えた。
正直、俺たちの騎馬が一番強いだなんて思ったことは一つもなかった。
だけど最下位は嫌だから練習をしていたんだ。
「確かに、一位は厳しいかもしれない。それでも、練習を積んだんだ。最下位になることはない」
「………そうじゃ、ないのよ」
俺はこの時、この言葉の意味が分からなかった。
それが分かるようになったのは、本番の前日だった……