第19話 探偵の女
「全て嘘。集団催眠による錯覚だったの!」
私は幸一に、全ての真実を告げた。
「錯覚……って。そんなわけが……」
とは言っても、幸一の疑念が晴れることはなかった。
「信じられないでしょうね……でも、本当なの!」
「まさかそんなわけ……傷は本当にあるんだよ!」
諦めかけていた。
もう無理なのかと……
最後に私は、とりあえず、長良に提案されていた〝ある一言〟を告げて終わらせることにした。
「信じるも信じないも、幸一の自由。だけど、もし、少しでも迷ったのなら……私を信じて。私を信じれば必ず合ってる。正しいのだから」
悲しいことに、これらは全て、コピペ文であった。
長良から事前に、言われていた。
だから私は、付け加えるようにして、〝自分の思いを表した一言〟を呟いた。
「だから………戻ってきてね」
私はそう言って、幸一の部屋を後にした。
「………自分の意思……か……」
静寂が満ちる部屋の中で、幸一はぽつりと、そんな事を呟いていた……
自分自身で考えさせる。
そうそれが、長良の出した答えであったのだ。
私達はただ、待つことしかできないんだ……
……でも、本当にそれでいいのかな?
そうして何もできぬまま、私は時が過ぎるのを待った。
◇次の日◇
学校に行くと、幸一の席はやっぱり空いていた。
無駄に荷物だけが置かれ、鉛筆なんかが散乱していた。
片付けくらいしなさいよね……
ここで、私はふと思った。
なんで学校に来ていないのに、荷物もあって鉛筆が散乱してるの?
それってつまり……
私は疑問を解消すべく、後ろを振り返った。
そして、案の定であった。
「よぉ、久しぶり」
振り返った先で、そんな懐かしい声を聞いた。
つい最近、というか昨日聞いたばかりのはずなのに、胸が締め付けられそうになる、そんな、熱意のある声。
「幸……いち…」
絞りかすのような、今にも枯れそうなくらいの小さな声で、私は目の前の男の名を呼んだ。
「こういちぃ……!」
そしてまた、呼んだ。
今度は高い声で。
でも微かに鼻声感のある、そんな声で。
私は気づかぬうちに、泣いてしまっていた。
あまりに嬉しくて、幸一がまた来てくれて、嬉しくて……
そして気づけば私は、幸一に抱きついていた。
幸一の胸に顔を埋め、ひたすらに、泣いた。
それはまるで、生まれたての赤子のようで、そして……
「………ただいま」
幸一はそう返し、私の頭を撫でた。
幸一のそれは、まるで赤子を癒す母親のようで、そして……
私達は……笑った。
◇全て嘘
早瀬川 幸一の電話。
「俺を助けてくれたのはアンタだ。感謝はしている。だけど……思い返せばおかしな点が多すぎる」
早瀬川 幸一は、深夜に電話をしていた。
電話相手は不明。
分かっているのは、先日までの集団催眠に関連したことだということだけ。
「あぁ、おかしいな。まぁ認めるよ。確かにあのクズ共は、俺が手引きした。だけどよ、それも全部お前のためなんだぜ?幸一」
「俺のため?意味が分からないな。大体、俺のためになるかどうかなんて、分かるわけがない。未来なんて、決まってないのだから。」
「いいや、決まっている。〝ある程度〟はな。そして、選択次第では、それも変えられるということも」
幸一は珍しく、歯軋りをした。
余程、電話相手の返答が気に食わなかったのだろう。
「じゃあなんだよ、アンタは未来でも見てるっていうのか?」
「見てるというより………◇◇◇だな」
「……は?それってどういう……アンタ……一体何者だよ」
「………考導者、とでも呼んでくれ」
プープープープー………
電話は、ここで途切れている。
ここで物語に、一つの節目がついた。
しかしそれが、数百とある節目の一つであったとすれば……
だとすれば、これはほんの始まりに過ぎないのだろう。
………物語は、未だ序章。
探偵編 終幕
物語の節目となりました。
次回からは、体育祭編ということで、引き続きよろしくお願いします!
誤字などあれば報告お願いします。
感想、ブックマークなど、是非是非お願い致します。