第16話 文字の能力
「あと3000文字話せば爆発する」
そんな脅しじみた文章を知る羽目になったのは、今から丁度二日前の事……
「そこのお兄さん、宗教に興味はありません?」
町の大通りを歩いていた所、そんな怪しい宗教勧誘を受けてしまった。
「いえ、興味ないので」
俺はそう言って、即誘いを断った。
ただそれでも結局、何度も何度もねちねちと勧誘をし続けてきた。
さすがに面倒になり、俺は警察を呼ぼうか迷った。
結局俺は、警察に頼ることにし、ポケットの中にあるスマホを取り出そうとした。
だが………
「あ、それはダメですよー」
そんな声と共に、ポケットにいれようとする俺の右腕を、背後からきた謎の女が掴んだ。
「ッ……!!?」
女は全力の力で、俺の腕を掴んでいた。
そしてその力は、女性とは思えない程に強かった。
そんなとんでもない握力のせいで、俺の右腕は微動だにしなかった。
俺は、状況がまずい事に気がついたが、時既に遅し……
「捕まえますよーーん」
「崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ」
「きょほほほほほろほのののの!!」
奇声をあげながら、こちらに向かってくる人の姿が数十人といた。
恐らく全員が、この宗教の関係者。
「くっそ……」
俺は必死になり、容赦なく、俺の腕を掴む女に蹴りをいれた。
その反動で俺は前に動き、そして女は勢いのままに後方へ吹っ飛んだ。
そしてそれにより、俺の右腕は解放された。
好機を逃すまい、と俺は走り出した。
「……それ、なんですか?」
走りだしたばかりの俺を指差して、宗教勧誘の男が一人そう言った。
いや、正確には指差したのは俺にではなく、俺の胸元であった。
「な、何がです?」
俺は咄嗟に自分の胸元を見たが、特に変化という変化はなかった。
「……何もないですけど」
「いえ、ありますよ」
そう言うと、奴らは更に俺に近づいてきた。
「ありますよ」
「あります」
「あります」
「あるよ」
「ありますよん」
同調するかの如く、全員が同じ意見をひたすらに発しながら俺に近づいてくる。
だから……何なんだよ……
俺は訳がわからず、逃げ回っていた。
そして逃げ回る最中、俺はふと自分の胸元を見た。
「……え?」
そこには、さっきまではなかったはずの傷があった。
「こ、これは……?」
と、俺が疑問を抱いていると……
「傷には〝言葉を10000文字話せば死ぬ〟と書かれてある」
「傷には〝言葉を10000文字話せば死ぬ〟と書かれてある」
「傷には〝言葉を10000文字話せば死ぬ〟と書かれてある」
「傷は埋め込まれている」
「傷は埋め込まれている」
「傷は埋め込まれている」
奴らは未だ、何度も同じ言葉を発し続けていた。
「だから!なんなんだよ!」
あまりに限界になった俺は、人気のない静まり返った大通りで、そう叫んだ。
そして、またまた違和感を感じ、俺は胸元を見た。
「……は?」
さっきまで普通だった胸元の傷には、謎の肉片のようなものが埋め込まれていた。
だが、何故か痛みはなかった。
そしてその肉片には、「あと10000文字話せば爆発する」と書かれていた。
「何だ……これ?」
俺がそう呟くと、今度は肉片の数字が10000から9995に変わった。
そしてその瞬間、俺は気がついてしまった。
「能力者……!!?」
恐らく、奴らも能力者だ。
「言葉を制限する能力」みたいな感じだろう。
解除方法が分からないが、とりあえず今は逃げよう。
それで長良にでも相談しよう。
そうして俺は、ただただひたすらに走り、奴らから逃げ切ることができた。
そんな俺が次に向かう目的地はというと……
◇◇◇
長良が現在利用している宿。
家が燃えた長良は、復旧の間、近くの宿に住まう事になったのだ。
「で、どうすればいい?」
そう紙に書き、俺は長良に見せた。
喋れないせいで、紙に書いて会話をするしかなかったからだ。
そうしてある程度の事情を長良に説明し終えた俺は、どうするべきかを長良に問う。
「んー、まずはその傷とやらを見せてもらおうか」
長良の答えは、そんな簡易なものだった。
俺は服をめくり、胸の傷を見せた。
「………んー?」
長良は難しそうな顔をしていた。
俺は指を使ったジェスチャーで、傷の位置を抑える。
さすがにこの大きさの傷だし分かるとは思うけども一応、念のためだ。
「あー……んー……これは痛そうだねぇ……」
じーっと、真ん前まで来て俺の傷を見つめていた。
観察していた。
そうしてすぐに、何かが分かったようで、顔を傷から離した。
そして姿勢を戻し、長良は俺にこう告げる。
「これは確かに能力だよ。そして〝制限をかける能力〟と、さっき言っていたけど、それで間違いないと思うよ」
やはりか。
「解除方法は?」
再び、俺は紙に書いて見せた。
「それは難しいなー……とりあえず、明日また来てよ。今日調べておくからさ」
「ありがとう」
そう、紙に書いて見せた。
◇◇◇
家に着いた俺は、服を脱ぎ、風呂に入っていた。
傷は痛くもなんともなく、傷口が染みるなんて事もなかった。
「はぁ……」
疲れ果て、俺は湯船でため息を一つ吐く。
そして少しして、俺は湯船から上がった。
俺は、洗顔台の前の椅子に座った。
洗顔台に置かれた鏡。
それに映るのは、俺の姿と〝数字の減った傷〟だけだった。
「……は?」
何で、減ってるんだ?
俺はあれから喋ってないはず。
いや、もし喋っていても、こんなに減るはずがない。
残り5000文字の、訳がない。
俺の文字数は、この瞬間から、終わりを向かい始めていた……
15話で出した文字がミスでして、変更しました。
ほんとうにすいません。
感想やブックマーク、是非是非お願いします!