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第11話 真実

「僕に話って、何かな?幸一君」


 俺は昨夜、シエルと別れた後、再び長良の所へ訪れていた。


「おかしくないか?」

「おかしいね」


 即答だった。


「シエルちゃんは、やると決めたら最後までやり遂げる子だ。それも、あんなに自信よく『情報を集める』と言ったなら、必ず情報を集めてくるだろう」


 俺の感じていた違和感。

 分からなかった違和感の答えを、長良は説明してくれていた。


「だけどもう夜だ。今から三年生に聞き取り調査〜なんて無理な話だ。だったら、どうやって情報を集めるつもりなのかな?」

「どうやって……………」


 答えは出なかった。

 いや………出なかったというより、気づきたくなかったのだろう。

 本当は察していたんだ。

 

「情報を集める必要なんてないんだよ。何故なら、彼女はもう知っていたから」

「……………」

「黙るなよ、受け止めろ。ここまでくれば君も分かるだろう?」


 厳しい言葉が突き刺さる。

 信じたくない……だけど、これが現実なんだ。


「犯人はね─────」


 そうして、現在遡る。

 俺はシエルの方を向いてこう言った。


「─────お前だろ、シエル」

「……………」


 青ざめる様子も、慌てる様子も、驚く様子もなく。ただただ静かにシエルは黙っていた。


「そうよ」


 ようやく口を開いたかと思えば、その答えは聞きたくないものだった。


「何

「何でか?理由なんてどうでもいいでしょ。知りたいのは私が犯人なのか、そうじゃないのか、でしょ?」


 俺が話す時間すらくれないってわけか。

 せっかちな奴だな、全く。

 

「それはもう分かった」

「何、だったら私への復讐でもしにきた?そうよ、私は裏切ったの!アンタをね!」


 裏切られたのは心底ムカつく。

 だけどそれは耐えられない程じゃない。

 裏切りなんてのは、今まで何度も経験してきた。

 そんな絶望の淵から救ってくれたのが、お前だったじゃないか。

 意識してやっていたわけじゃないんだろう……それでもいいよ。

 俺が、俺自信が、喜んで嬉しくてたまらなくて、お前ともっともっと一緒にいたいと思って、だからここにいるんだ。

 だから、今こうして対立しているんだ。


「話してくれ」

「は?」


 お前に何があったんだよ。


「何でこんな事するのか。何があったのか。全部。俺に話してくれ」


 何でこんな事するんだよ。


「……………何でそんな事」

「いいから!」

「……………はぁ」


 無理矢理だったが、シエルに事を吐かせることができそうだった。

 

「私………の前に『知恵の輪』を広めていた男がいたわ。私は能力上知識が欲しくて、以前からその男に金を貢いでは知識を受け取っていたわ………」


 シエルの前に『知恵の輪』を広めていた男がいるのか。

 そいつが根源悪ってことでいいのかな。


 俺はポケットに入っていたスマホを少しいじった。

 とは言っても、予め用意していた文字の送信をしただけだ。


「だけどある日を境に『金は出さなくていいからある条件をのんでくれれば知識を無料でやる』と言われ、私はそれにのったの」

「まさかそれが………」


「えぇ、男が出した条件は『知恵の輪を広める事』だったわ。そして私は多くの子供が集まる『学校』に侵入し、知恵の輪を広めたの」


 それで今に至ると………

 でも………


「それ、おかしくねえか?」

「………え?」


「根本的におかしいだろ、何でお前は知識を欲しがってんだよ」

「それはいつも言ってる………枷が


「それは言い訳だろ?」


 俺はシエルがセリフを言い終える前にセリフを言って被せた。

 圧をかけるには、こういう話し方が一番良い。


「言い訳って……それに私は《探偵》だし……知識をもってなきゃいけないのよ……」

「それも言い訳だ」


 俺は、シエルの確信に迫ってやる事にした。


「お前の言い分全部が、能力に縛られてんじゃねえか」




◇束縛の探偵◇


 言われた。

 私の生き方の根源を、突かれたような気がした。

 だからこそ、否定したくなる。


「そんなの違う!」


 いつもこうやって、否定してきた。

 否定して否定して、逃げて逃げて、そして一人ぼっち。

 助けてくれた人も、差し伸べてくれた手も、全部振り払って生きてきた。

 そして最終的には捨てられる。

 それが私。

 だから今回も、同じように捨てられるんだ………

 

「違くない」


 なのに何でアンタはまだ………

 

「《探偵》だから何だ?枷があるから何だ?そんなの言い訳だ。お前を縛る鎖と同じだ。《探偵》だから知識が必要、枷があるから知識が必要。違うだろ!」

「……………何が言いたいのよ」


 分かったような口を聞かれるのが嫌………

 何も知らないくせに分かりきった様子で話すアンタが嫌い………


「お前の信念を貫けよ」


 は?


「笑わせないで!信念なんて私には無い!あるとすれば、これこそが私の信念!生き様よ!」


 私を否定するな。

 私の邪魔をするな。

 私を()()()

 私の前から消えろ。


「………俺もよく嘘をつく。《虚言》なんて能力を持っていて、それで相手の嘘を見抜いては『クズ野郎が死ね』だなんて思うような奴だった。それでも俺は嘘をつく」


「つまりさ………どんな能力持っていようが、その人を縛ることなんてできないんだよ」


「これ能力者格言の一つだけどさ、〝能力者が何を成そうが全ては個人の意思〟によるものなんだぜ。故に能力者は皆『自由』なんだ」


 自由。

 能力者が皆自由なら、私はどうなんだろう。

 こんな私は本当に、自由といえるのだろうか。


「お前はどうしたいんだ?」

「ははは!そんなの決まってるじゃない!」


 どうしたいか?

 そんなの初めから決まってる………………

 ……………あれ?何でだろう。

 ………言いたいのに……言えない。

 まるでそれを言ってしまったら、もう幸一は私の元から消えてしまう、私の元から離れてしまう。

 ………そんな気がした。


 そして気づけば私は………無意識に、こんな言葉を発していた。


「私……は……………『生きたい』………」


 あぁ………そっか。

 これが、私の根源。

 本当にしたい事……………だったんだ。

 …………………………………そんな訳ない。

 私は知識が欲しい。

 ただそれだけ。

 だから今もこうやって………


「……………そっか」


 ………あれ?

 何でこんなに、優しく微笑んでくれるの?

 さっきまであんなに喚いていたのに。


 そして何で私は………あんな事を言ってしまったの?

 気がつけばまた、私の口は、無意識に動いていた…………


「でも、枷があるから………能力を使わないと………生きれないよ……そしてそのためには知識も必要だから………」

 

 ………あぁ。

 ………そうだったのね。

 枷があるからじゃない。

 探偵だからじゃない。

 私は……………生きたいから、知識を求めていたんだ。


「……………知識なんて、なくてもいいんじゃね」


 まただ。

 この男は、何を言っているのだろう。

 話を聞いていたのだろうか。

 知識がないと私は、死ぬんだよ。


「あー………今のは言い方が悪かったな。俺が言いたかったのはさぁ、その男から知識を貰う必要なんてないんじゃねえの?って事だ」

「だったら………誰から貰えばいいのよ………」


「忘れたのか?いただろ、一人だけ」


 忘れた。

 そんな茶番は要らないか………

 もちろん覚えている。

 だって、今も一緒にいるんだから。


「お前は最近、誰と一緒に謎を解決した?」


 ………あれ?

 疑問だ。

 私は、あの男から知識を貰うだけで事足りていた。

 なのに何故かあの日、幸一を誘った。

 殺す気なんて一切無かったのにあれほど脅してまで、幸一に協力を仰いだのは………


「ははは!!」


 ………やっと………分かった。


 ………そうか。

 あの男から知識をもらっている中で、何故か幸一を頼っていたのは………

 無意識だったんだ。


 その理由なんて、今まで考えもしなかった。


 それは私が………幸一から知識が欲しかったから………

 ………いや、それは口実に過ぎない。

 本当は私は、ただ幸一と一緒にいたかった。

 だからその口実として、知識が欲しいと言ったんだ。

 

「はぁ……………」


 私はなんて、束縛された女だったのだろう。

 もうやめよう。

 こんな自分は捨てよう。変わろう。

 正直に、自由に。

 無意識を意識的にするんだ!


「そうやって私を誘うのは、私の『自由』を縛ってることにならないの?」

「お前が嫌なら断ればいい。ただこれは、俺の意思で誘ってるんだ。お前と一緒に居たいっていう俺の意思で、俺の自由が言っているんだ」


 私と一緒に居たい………


「だったらこれも私の意思、私の自由よ!」


 私は勢いよく幸一に抱きついた。

 いわゆる『ハグ』というやつだ。


「私は幸一と、ずっとずっと一緒に居たい!だから……私を助けて!」

「あぁ、もう終わらせた」


 

 

 

 

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