第1話 恵まれた凡人
『才能のある者には、才能のない者を羨む資格はない』
『才能のない者でも、努力次第で、才能のある者を越えることもある』
『だけど、才能のある者が努力をすれば、誰も越えることができない』
『だからお前は、努力を怠ってはならない』
同じ言葉を、何度も何度も聞かせられる。
何千という時間、それを聞いていたような気がする。
気づけば俺は、ベッドに横になっていた。
「夢………か」
最近、こんな夢ばかり見ている気がする。
高校生活の疲労が溜まっているのかもしれない。
高校一年生である、早瀬川幸一は、そんな風に思っていた。
高校生になってから、約三ヶ月が経過。
多くの生徒が高校生活に慣れ始め、仲の良い友達や恋人ができる、そんな青春を謳歌しているであろうこの時期。
俺は未だに馴染めず、友達作りにも失敗した、可哀想な人間だった。
「はー………」
今日もこうして、俺は学校に着いた。
そしていつもの通り、一人で本を読んでいた。
そんな俺を気にかけてか、話しかけてくれる奴もいた。
「今日も元気なさそうだな、幸一」
クラス委員長の、沢山信木だ。
「そりゃいつも一人だし、元気でいられるかよ」
投げやりな態度で俺はそう言い放った。
「そう思うなら、なんで自分から友達作りに行かないんだよ?」
「うーん、だって気づいちゃったんだよ。お前以外は、俺を言い風に思ってないってことにさ」
「はー?そんなの喋ってみないと分かんないだろ」
………分かるんだなー、これが。
「……まあ、機会があれば話してみるよ」
そう言って俺は、気怠そうに体を起こし、席から立ち上がった。
「ちょっと教頭先生に呼ばれてるから行ってくる」
そう言い残し、俺は教頭の所へ歩き出す。
◇◇◇
教頭のいる生徒指導室に来た。
部屋の中は、今は教頭しかいないようだ。
俺は礼をして、教頭の前へ行く。
「待っていましたよ、早瀬川君。どうぞ座って」
教頭は正面にある椅子を指してそう言った。
「それで、用事というのは何ですか?」
「実は今日、あなたのクラスに転校生が来る予定なんですが……知っていました?」
「いや、知りませんが……」
何のことやら、転校生が来るからって俺を呼び出す理由になるのか?
「そうですか……その転校生ですが、〝能力者〟の可能性があるそうです」
「あー、そういう話ですか」
能力者……世界でも数万人だけが持つと言われている、人間の常識を覆すような力を持つ者達のこと。
未確認生物や、アスリートのトップ選手なんかのほとんども、能力を持っていると言われている。
……そして、俺も能力者だ。
「ですから、転校生の動向には、しっかりと注意してください。もしかしたら、能力者を狙った殺し屋かもしれません」
「なるほど、注意しておきます」
自分でも、心にもないことを言ったと思う。
今時、そんなことをしに学校まで来る奴なんていないと、そう思っている。
そんな馬鹿な俺を、数時間後の俺はぶん殴ってやりたいと思っていることだろう。