SEQ1――裏切った少女たち――4/5
翌朝。
俺は、暑苦しくて目を覚ました。
「うん……?」
携帯で時間を見ようとして、手探りで枕元を探す。
(どこに置いたっけ?)
もしかして、ベッドの下に落として――って、ここは俺の部屋じゃない!
「ケイくんが探してるものはー、これ?」
布団の中から声が聞こえて、腕が絡め取られる。
「――だと、嬉しいんだけどなー」
そして誘導された手に触れたのは、曲線的な柔らかいものだった。
(これは……)
鈴音の太ももだ……⁉︎
「……っ!」
「もう! 飛び起きなくてもいいのに!」
手を引っ込めて上体を起こした俺に、がばっ! と鈴音が飛びついてくる。
「こら、ひっつくな」
「まだお昼前なんだから、ゆっくりしてよーよ」
「日曜だからって、ずっと寝てるワケにもいかねーだろ。せめて飲み物を飲ませてくれ」
「じゃあ、紅茶にしよー。キッチンには、スコーンも置いてあるし」
言い終わるや否やベッドから降りた鈴音が、モコモコの寝間着のまま部屋を出ていってしまう。
俺も後ろをついていって、リビングまで来た。
そこには当然、エリザベッタたちがいたのだが……
「ボンジョルノ、花村。ようやくお目覚めか」
イタリア語で『おはよう』と言ってきたエリザベッタに、思わず立ち眩んだ。
「慣れない場所だから、寝つきが悪かったんだよ」
「それは、それは」
エリザベッタは読んでいた本をテーブルに置くと、
「目が覚めるよう、エスプレッソでも淹れてやろう」
と、立ち上がりながら言った。
「コーヒーはニガテなんだ」
「アメリカ―ノはどうだ?」
「まったく飲めないんだ」
「フフッ……お子様め」
「うるせーよ」
「それなら、フィオナが買ってきた紅茶がある。スコーンと一緒にどうだ?」
名前が出たフィオナは車雑誌を読んでいて、残るローズは耳にイヤホンを付けてノートパソコンをイジっている。
2人ともあまり喋らないから、必然的にエリザベッタとの会話が多くなるな。
「私がやるから、エリーは座っててー」
「俺も手伝うよ」
あんまりエリザベッタと話し続けていると、鈴音に怪しまれるかもだ。ここは、エリザベッタより鈴音のそばにいた方がいい。
「冷蔵庫に水出しのレモンティーが入ってるから、マーマレードと一緒に取り出しておいてー」
「分かった」
冷蔵庫を開けると、透明なポットに入った紅茶を見つけた。瓶詰めのマーマレードも隣にある。
このマーマレード、ラベルに書かれている文字が英語だ。輸入品か?
「あったー?」
「これだろ?」
取り出したポットとビンを掲げて見せる。
「I can't believe you're eating a scone without clotted cream」
「別にいいでしょー。フィオナ」
「切らしたクリームも買わないといけないな」
英語で呟いたフィオナに、鈴音とエリザベッタが日本語で反応した。
するとフィオナは、
「独り言だから……気にしなくていい……」
今度は日本語で言ってから、俺よりもなお暗いカンジでそっぽを向いた。
マーマレードを塗ったスコーンを食べ終わると、鈴音はいそいそと部屋に戻った。俺を連れて。
スコーンの甘みの余韻を楽しみたかったが、そんなヒマも与えられずに服を着替えさせられた。
グレーのTシャツに黒のズボン、ライトブラウンのポロシャツといった服装だ。
「私も着替えちゃうから、外で待っててねー」
「出かけるのか?」
「そうだよー」
「じゃあ、武装を返してくれ」
「ダーメ。ケイくんは、防弾性も防刃性もない服を着て、一切の武装を解除させられて……不安の中で過ごすのー」
「……」
言葉が出ない代わりに、冷や汗が出てきた。
武器も携帯も取り上げられているから、自分で戦う事も、応援を呼ぶ事もできない。
俺は、見えない鎖を付けられているんだ……
「あっ、着替えが見たいの?」
俺がグズグズしていると、鈴音がゆっくりと上着のボタンを外し始めた。なので、慌てて部屋を出る。
部屋を出る直前に見えた鈴音の顔は、満足そうに笑っていた。
(しっかし、どこに行くのやら)
鈴音が着替えているうちに、エリザベッタと美冬さんの件を話しておきたいものの……難しいか。どこに盗聴器があるとも分からんし。
このアジトは、鈴音の庭と考えるべきだ。迂闊な行動は避けた方がいい。
「よく似合っているじゃないか。花村」
「それはどうも」
リビングに行くと、エリザベッタが小型オートマチック拳銃――ベレッタ・M3032――を整備していた。
弾倉を抜いて動かしているところを見るに、簡易的な動作チェックのようだ。
「気になるか? 念のためだ」
そんな彼女も着替えていて、腰の部分を絞った淡い緑のワンピースを着ていた。裾の奥からは、黒いタイツのようなものも見える。
胸や腰などのボディーラインが出て魅力的ではあるが、銃との取り合わせが悪い衣装と言えるな。
「念のためって、きな臭い場所にでも行くのかよ」
「剣を持てないから、その代わりだ」
帯剣できないとなると、人目の多い所か。
さっきスコーンを食べていた時の会話を合わせて考えると、おそらくショッピングモールや市場だろう。
何にせよ、買い物が目的なのが分かった。分かったところで何もできないが。
「お待たせー」
エリザベッタが弾倉をトムキャットに挿れたタイミングで、鈴音がリビングに降りてきた。
鈴音の服装は、首元から鎖骨にかけてシースルーになっている小豆色のブラウスと、黒のスカートだ。
「用意できたか。ならば、行こう。ローズ、フィオナ、君たちも準備しろ」
フリルの付いたロングスカートのローズと、白色のシャツに青デニムというフィオナが、エリザベッタの指示に従って立った。
ローズは待ちくたびれた様子で、フィオナはあまり乗り気じゃない様子だ。
服の系統すらバラバラなのは置いといて、反応が違いすぎる。言ってしまえば、統一感がない。
まとめ役はエリザベッタっぽいけど、よくこれでチームがまとまるな。
「それじゃあ、お買い物にしゅっぱーつ!」
鈴音が拳を天井に向けて伸ばすと、エリザベッタは意外にノリよく、ローズは無表情で機械的に、フィオナは控えめに……と、三者三様に手を挙げた。
チームワークがあるのかないのか、よく分からんヤツらだ……




