SEQ1――裏切った少女たち――2/5
その後、晩飯が出来たからとエリザベッタが呼びに来るまで、鈴音はずっと下着姿のままで、何を勘違いしたのかエリザベッタはニヤニヤと笑っていた。
しかし、そんな事よりも、武装を取り上げられた事が一番の痛手だ。
「うーん、食べた、食べたー」
晩飯には、いろいろな洋食が何品か出てきた。
そのうちの1つが、鈴音とエリザベッタが話していたリゾットだった。イカスミのリゾットだとかで、黒くてコクがあり……美味かったよ。
「一休みしたら、一緒にお風呂入ろうねー。ケイくん」
「断る。1人で入れ。俺も1人で入るから」
「ならば、私と入ろう。花村」
「は……?」
「貴様の髪、少し伸びすぎだ。私が切ってやる。どうだ? 鈴音も、花村の髪が整うのに賛成だろう?」
「いいねー、それ! 任せるよ、エリー。でもでもー、必要以上にケイくんと接触しないでねー?」
「承知した」
「おい! 俺の拒否権は、どこ行ったんだよ!」
「ないだろう? そもそも」
ズッコけて、イスから落ちた。
で、尻もちをついた俺を、エリザベッタとローズが引き摺って風呂場まで連行していく。
統率の取れた動き……って、こんな所でチームワーク発揮せんでもいいだろうに。
「これを付けろ」
脱衣所で、エリザベッタが全身を覆う大きさの白いケープを渡してきた。
ちなみに、ローズは既に出ていっている。
「終わったぞ」
「よし、イスに座れ」
風呂の中の、プラスチックのイスに座らされる。
見回してみるが、風呂自体に変わったところはない。強いて言えば、シャンプーなどのボトルが多い。おそらく、共同生活のせいだろう。
「前屈みになれ。髪を洗う」
「あ、ああ……って、服が濡れるぞ」
「着替えくらいある」
エリザベッタがシャワーを出して、俺の頭に浴びせる。
「熱くないか?」
「大丈夫だ」
「触るぞ」
水を止めたエリザベッタが、シャンプーを泡立てる。
彼女の手が頭に触れる瞬間、フローラルなシャンプーのニオイとは別に、白ブドウのようなニオイもした気がした。
「日本では、こう聞くんだったか? 『痒い所はないですか?』、と」
「よく知ってるな」
「鈴音が教えてくれたんだ。私たちは全員、鈴音から日本語を教わった」
「薄々そうだと思ってたぜ。Dが日本で活動するために、鈴音とお前らを組ませたんだろ?」
「少し違う。組ませられたのではなく、組んだのだ。私たち自身の意思でな。さあ、目を閉じろ」
エリザベッタが、シャンプーを洗い流す。
「次はコンディショナーだ」
「そこまではいいって。髪を切ってくれよ」
「慌てるな。こうした方が、櫛の通りが良くなる」
エリザベッタがコンディショナーを手に取り、俺の髪に馴染ませた。
オリーブの香りがする。高そうだなぁ。
「ふふ……気付いているか? 鈴音が聞き耳を立てているのを」
「マジか?」
「本当だ」
エリザベッタが、三度シャワーを出す。
「貴様を風呂場に連れてきたのは、シャワーの音で会話をごまかせるからだ」
「ごまかせる?」
「鈴音に聞かれず、貴様にだけ話しておきたい事がある。美冬の事だ」
「……っ」
美冬さんの事だと……?
「私たちは、美冬が長崎にいる事を掴んだ。調べてみると、函館・軽井沢・横浜・神戸を巡っていたようだ」
「で、今は長崎というワケか」
「そうだ。美冬は、それらの場所である人物を捜していたようだ」
「誰なんだ? それは」
「メアリー・ローンウッド」
メアリーという名前には、聞き覚えがある。Dに攫われたライラの恩人で、ライラが行方を捜している人の名前と同じだ。
どうして、美冬さんがメアリーさんを……?
「理由はまだ明かせないが、私は美冬の動向を探らなければならない。貴様も彼女に会いたいのだろう?」
「だから、俺たちで長崎に行くと?」
「いや、美冬がいつまでも長崎にいるとは思えない。行ったところで大した成果はないだろう。しかし、だ。今の状況では、美冬の次の目的地が分かろうとも動けない。だから、この状況を打開するべきだ」
「……鈴音は知っているのか?」
「鈴音は、貴様が美冬に会うのを快くは思っていない。ならば、黙っておくしかあるまい?」
シャワーを止めたエリザベッタが、風呂のドアを開けた。
「……どこ行くんだ?」
「ハサミを持ってくる。髪を拭いていろ」
エリザベッタが投げてよこしたタオルをキャッチする。
(一体、アイツは何を考えてる?)
髪を拭きながら、何やら戸棚から箱を取り出すエリザベッタを見る。
同じ釜の飯を食う仲間である鈴音に黙って、部外者とも言える俺に協力を求めるなんて……裏がある。きっと。
(そうは言っても……)
乗るしかないか。この話に。
現状、美冬さんやメアリーさんの情報を話してくれそうなのは、エリザベッタしかいないからな。
「ここからが本番だ。髪を切っていくぞ」
「頼むぞ。ヘンな髪型になんてするなよ?」
「ふふ……任せろ」
「ホントに大丈夫なんだよな?」
トントン……
エリザベッタが俺の肩を指で叩く。モールス信号だ。
『3・1・7』、か。暗号文だな。
とにかく、この暗号が解ければ一歩前進できる。
まあ、それがいつになるかは、ちょっと分からないけども。




