SEQ1――琥珀色の少女――3/4
慌てて乗り込んだロードスターで新木場の研宮学園第二学舎に向かう道すがら、俺はライラに尋ねてみた。ライラ自身の事や、襲ってきたヤツらの事を。
しかし、あまり情報は引き出せなかった。「運転に集中するから」とか言って、話をはぐらかされたのだ。分かったのは、ライラが俺と同じ高校2年生で、今年度から研宮学園へ通うという事ぐらいだ。
5分ほどで学校に到着した俺たちは、敷地内にある駐車場にロードスターを停めた。
「確か体育館よね? 案内して」
ロードスターから降りると、ライラはそう言ってそそくさと歩き出してしまう。
ライラを追いかけるための1歩目を踏み出した。まさにその時、ガクンと体から力が抜けるのを感じた。
(Aに戻ったか)
モードAとモードB。
この世界には公的に認められてないものの、何らかの仕組みで身体能力を強化できる人間がいるらしい。それを、軍事的には強化能力者と呼ぶ。花村家の人間は、代々その強化能力者なのだ。
俺も例に漏れず、その特殊能力によって五感を含んだ身体能力を高められる。母さんは通常時をモードA、強化された状態をモードBと呼称していた。モードBになれば、体を思うがままに動かせるようになるのだ。
モードBの仕組みは……詳しくは分かってない。眉唾だが、花村家の能力を魔術的なモノだと考える方がしっくり来る。
花村家で一人前と認められるには、自在にモードBに変われなければならない。俺も、去年までは難なくできていた。
しかし、去年の冬にあった事件から、俺はモードBになれなくなった。
何があったのかも思い出したくない。あの人は……
「ホントに遅れるわよ。さっさとしなさい」
俯いて立ち止まっていたが、ライラの声で現実に戻された。
今は過去を振り返っている時じゃない。モードBになれた理由は分からないが、スランプ脱却に近付いたと思っておこう。
第二学舎には体育館が複数あるが、全校生徒が集まるとなると一番大きな所になる。そこへ着いた時には、既に始業式は始まっていた。
遅刻したという事で俺は体育館の後ろに立たされたが、転校生であるライラは先生によって別室に連れていかれた。
生徒指導の先生が壇上で話しているのを遠目に眺めるつつ、ボーッと突っ立っていると、眠くなってきた。
「――では、これで令和7年度の始業式を終わります。3年生から解散してください。用のない生徒は、速やかに下校するように――」
気が付くと、マイクを使って若い女の先生がそうアナウンスしていた。
いけね。どうやら、半分寝ていたようだ。
「続いて、2年生――」
アナウンスによって、2年生の隊列がゾロゾロと出口へ向かい出した。
「あっ! ケイくんいたよー!」
「おはよう、花村君」
「おう、景介。どこにいたんだよ?」
体育館から出ていく2年の波に、何事もなかったように合流したハズが……顔見知りに見つかったらしい。
列からはみ出して近寄ってきたのは、同級生女子の河堀鈴音と、男子の石間勝喜と糸岡進だ。
コイツらは全員、俺と同じ特武育成コースの生徒だ。
「……仕事があったんだ」
「さすが。花村くんともなると、朝イチから仕事が入るんだね」
ニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべて、俺を持ち上げるのは糸岡だ。いつも微笑を浮かべている。身長は俺と変わらないが、細身のイケメンという事もあって女子人気が高い。
「スランプは終わったのか?」
「さあな。簡単な仕事だったから分からん」
肩を組んできたのは、石間。身長185㎝超。スポーツ刈りの筋肉野郎で、横に並ばれると圧迫感がある。悪いヤツではない。
「2人とも、私が言った通りだったでしょ! ケイくんは、絶対来るって!」
そして、元気いっぱいに俺の周りを跳ね回っているのが、鈴音だ。身長は150㎝ちょっとで、平均よりは小柄だ。
……比較して、胸は平均より大きめだと思う。
地毛の明るい茶髪――下ろせば肩甲骨を覆うぐらいの長さ――を、淡い黄色のリボンでポニーテールに結んであるのだが、それが彼女の動きに合わせて跳ねている。
それと一緒に、スモモのような甘いニオイも振り撒かれている。厄介な事に、いいニオイだ。鈴音自身も愛くるしい顔立ちで、よく笑うから元気をもらえる。
だけど、スカート周りには気を付けてほしい。『カワイイ』か何か知らんが、鈴音はスカートを短めにしているのだ。そのスカートが、跳ねる動きに合わせてひらひらと危なっかしい。
鈴音は俺の周りを1周した後、えっへんと胸を張った。大きめの胸が、それで強調されている。
「何の話だ?」
「俺たちで賭けてたんだよ。お前が今日、休みかどうかって」
「何やってんだよ……」
「えへへー。ジュース2本は私のモノだー!」
しかも賭け金はジュースかよっ。ショボいな……
「花村くん。僕たち今年も同じクラスだよ」
「ケイくん、やったね!」
「2クラスしかないんだから、そりゃ被るだろ」
そう、特武コースは3クラスだけだ。生徒数は、俺たちの学年で60人弱。中高合わせて、350人もいない。しかも――
「景介、聞いたか?」
「何を?」
「死んだらしいぜ、木下のヤツ」
「ホントか?」
「まだ正式には出てない情報だがな」
――死んじまうヤツもいる。
だが、あまり沈めない。そういう風に教育されるから。
仮に目の前でクラスメートが殺されたら、悲しむより先にカタキを取る。それが俺たち、特武コース生なのだ。
「次はお前かもな」
石間がからかってくる。これは悲しみに暮れないための、そして、気を引き締めるための決まり文句のようなものだ。
「お前が先だろ」
「気を付けてよ? 2人とも」
「でもでもー、『エックス』のケイくんは簡単には死なないよねー?」
鈴音の言葉に、一瞬声が詰まった。今の俺には……過大評価なんだ。それは。




