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新たな自分の門出に風を吹かせて~風鳥未果~(1)

1

 スマホのアラームで目が覚めて一瞬ここがどこか分からなかった。

そうだ、魔道師専門学校の寮にいるんだ。

昨日バタバタと引っ越して来て今日は入学式。

忙しなさすぎます。

 魔道師専門学校201校、この辺りの魔道良10個分の地域に一つしかない魔道に特化した学校で通っているのは魔道適性を持った人か魔道に深い知識を持っている一般の人。

魔道良の職員をしている生徒もいるらしいし、近くにある魔道良研究所で研究をしている人もいるらしい。

でも私はただの大学生、高校3年の夏にたまたま魔道適性が開花して、魔道師として働く方が収入が安定するからと親に半強制的にここに入学することを決められた大学生です。

25領域100学科500コースある魔道良201校大学部の中で私の入学した魔道研究学科は、魔道適性の証明ができれば実技や学力試験はない比較的入りやすい学科でした。

でも、だからこそ怖いんです。

私みたいな魔道なんて全く使えないほとんど一般人と同じ生活をしている私に魔道師として働くだけの技術が身に着くとは思えないのに、魔道師の中でもエリート中のエリートが挙って通うという噂のこんなところに入ってやって行ける気がしない。

入って1か月で退学とかになったらどうしよう。

こんな未来は鮮明に見えてしまう。

 今日は入学式です。

普通の大学と同じように新入生はスーツを着て所定の集合場所に来るよう通知があるけど、やっぱり場所が分からない。

添付された地図を見て昨日も行こうとしてみたけれど、どうやっても辿り着けなかった。

今も集合時間の30分前に着くように早めに寮を出たけど、やっぱり分からない。

迷子になってしまったっぽいです。

こうなったら仕方ない。

「すみません。」

「はい。」

行き交う人たちはみんなピリピリとしているけど、頑張って呼び止めました。

スーツを着た女の人に声を掛けると女の人がくるっと振り返って足を止めてくれた。

少し離れたところにいた男の人もこちらを見ている。

「えっとここに行きたいんですけど、分からなくて。」

私がスマホを女の人に向けると女の人がすぐに頷いてくれた。

「ここですね、分かりますよ。大学の入学生さんですか?」

「はい。」

「ご入学おめでとうございます。慣れないと行き辛いところですから、お送りしますよ。」

「でも。」

「大丈夫。」

女の人が男の人に視線を向けると男の人が女の人に一礼して私たちのところから離れていく。

「良かったんですか?」

「ええ全然大丈夫です。後で私も行くところだから。」

女の人が歩き出して、私は少し後ろをついて行く。

取りあえずほっとしました。

「そうだ、お名前お聞きしても?」

「あっ、「風鳥未果(かぜとりみはて)」です。」

「風鳥さん、素敵なお名前。私は木漏れ日雫です。ここで働いてるの。」

「ここって魔道良ですか?」

「はい。」

「じゃあ魔道師さん?」

「そうなりますね。」

「すごい!」

私が人生で初めて口を開いた魔道師さん木漏れ日雫さんは、とっても親切で明るくて優しい女の人でした。

「風鳥さんが行きたいところはここの地下なんです。だからエレベーターか階段で降ります。」

魔道良南棟と書かれた建物の中に入って木漏れ日さんの案内について行くととても広いエレベーターホールに出た。

そしてそこには溢れるくらいの人人人。

実際既に溢れている。

「すごい人ですね。これでも集合時間よりずっと早く来てるのに。」

「元々魔道良の職員の使うエレベーターに今日は専門学校関係者も乗りますし、上に行く人と下に行く人とでエレベーターが取り合い状態になってますね。これを待っていたらそれだけで30分くらい優に掛かりそうだけど。」

木漏れ日さんが私を見て首を傾げる。

「どうします?」

「待つ以外の選択肢ってあるんですか?」

「すごーく長い階段をひたすら降りて行く、あるいは違う棟までぐるっと回ってエレベーターを狙ってみるっていう選択肢ならありますよ。」

「違う棟?」

「あー、もしかして風鳥さんって魔道師専門学校は今日が初めてですか?」

「はい。」

「そうですか、それならなおのこと分かり辛いでしょう。簡単に言うとここはそもそも魔道師専門学校の敷地じゃなくて魔道良の敷地です。それと風鳥さんが行きたいところは、魔道良の建物四つ分の地下がすべて一つのスペースになっているところなんです。だからどこの棟からでも行きたいところに行けるんです。この辺りは少しずつ土地勘を持っていってください。ひとまず今日は階段を降りましょう。」

「はい。」

今の木漏れ日さんの説明半分くらいしか分からなかったけど今は木漏れ日さんについて行こう。

木漏れ日さんが今の私の頼りだし、きっとエスコートしてくれるはず。

 今私は木漏れ日さんと一緒にひたすら階段を降りています。

人生でこんなにたくさん階段を降りたことありません。

「風鳥さん?」

「はい。」

私を振り返った木漏れ日さんが目をぱちぱちさせて息を呑む。

「もしかして疲れてる?ごめんなさい、スーツだもんね、パンプスだもんね。全然気が回らなかったわ。どうしよう運ぼうか?でも人目があるしそんなの嫌よね。来た道を戻ってすいてるエレベーターを探す?」

おどおどとする木漏れ日さんが、さっきまでの印象と全然違って面白かったです。

「すみません、息は切れてますけど大丈夫です。せっかくここまで来たんですし、階段で行きたいです。」

「そう、本当にごめんなさい。もし靴擦れとかしたらすぐ言ってね。簡単に治療できるから。あともし転げ落ちそうになっても全力で支えるから安心してね。」

「ありがとうございます。」

地下に続く階段だけど、とても清潔感があって、私と木漏れ日さんしかいないのがとっても不思議な空間です。

「そういえば。」

「はい。」

「風鳥さんはどうしてこの大学に?」

「あーえっと、両親に進められて。」

「そうなんですか、ご両親に。学科は?」

「魔道研究学科です。」

「そうなの、それなら風鳥さんも魔道師ね。」

「いえ私なんて全然です。たまたま魔道適性があっただけですから。」

「そうなの?けどたまたま自分が持ち合わせたものをちゃんと生かそうとする姿勢、私は好きよ。」

「生かすですか?」

「はい。」

何でだろう?

2、3段先を行く木漏れ日さんの後姿がとても綺麗に見える。

その後ろ姿がお母さんみたいで何でも話せるような気がします。

「私つい最近魔道適性があるって分かったんです。分かったというか突然適性が発生したみたいで。それで両親に魔道師の方が働いた時収入がいいからってここに入学させられて。」

木漏れ日さんが一瞬こちらを振り返って頷いてくれた。

「そうだったんですか。突然のことで驚いたでしょう?」

「はい、今も魔法とか自分が魔道適性を持ってるだとかぴんときてないです。」

「そうね、突然そんなこと言われたって分からなくて当然よ。」

「木漏れ日さんもそうなんですか?」

「うーん、私は生まれた時から魔道師だった。けど生まれてから突然手に入る物って普通の生活でもたくさんあるでしょ。そういう時のこと思い出してどんな気持ちか考えてました。」

「そうなんですか。」

「ご両親は、風鳥さんが生きやすい道を一生懸命考えてくれたんですね。」

「はい。」

「でも見たところあまり気乗りしないようですね?」

「はい、自信がなくて。」

「自信がないだけで、魔道に興味はおありですか?」

「何となくですが。」

「それなら大丈夫ですよ。その何となくの興味をもっと深めるために通うのが大学でしょう。」

「でも私魔法なんて使ったことなくて。」

「そんな学生さん風鳥さん以外にもたくさんいると思いますよ。生まれつき魔道適性を持っていても家庭の事情や本人の意思で魔法を使ったことのない魔道師もいますしね。」

ずっと誰にも言えなかった不安や疑問を木漏れ日さんは優しく聞いてくれて答えをくれる。

「私に魔法なんて使えるんでしょうか?」

「魔道適性があるんでしょう。それなら使えると思いますよ。どれくらいの威力の魔法を使えるのか、どういうタイプの魔法が使えるのか、そういうことはこれから大学の職員さんたちと一緒に手さぐりで考えていくんです。そのための魔道師専門学校なんですから。」

前向きで温かい木漏れ日さんの言葉にはもしかして。

「あの?」

「はい。」

「木漏れ日さんの言葉には魔法があるんですか?」

「えっ。」

だってそうじゃなかったらこんなにわくわくするわけないんです。」

木漏れ日さんがもう一度私を振り返って微笑んでいる。

「魔法は掛けていませんよ。どうしてそう思ったんですか?」

「何というか高揚感みたいなものがあるんです。話しているとわくわくして来るような感覚がしてて。」

「それはたまたまだと思いますよ。私は風鳥さんの質問に答えているだけです。もし、風鳥さんがわくわくを感じているのなら、それはきっと風鳥さん自身が持っている好奇心に火が灯ったんでしょうね。」

「火が灯った?」

「はい。」

もっと話していたかったけど、もうすぐ階段が終わってしまいます。

「そろそろ着きますよ。風鳥さん、自分の中に眠る未知の可能性を存分に発揮してくださいね。ご活躍を祈っています。どうか今日一日が風鳥さんの新たな門出に風を吹かせるような日になりますように。」

木漏れ日さんがさっと扉を開いた。

目の前には広い空間が広がっている。

「ここを抜ければ会場ですよ。ちょうど学生さんの入れ替わりの時間でしょうから、誘導してくれる人がいるでしょう。ここからは一人で行けますね?」

「はい、ありがとうございました。」

私は慌ててお礼を言い先に進んだ。

木漏れ日さんが扉を開けた時、外から吹き込んで来た風がとっても春らしい匂いを纏っているように感じたのはどうしてだったんだろう?

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