8−目的地はどこです!
「ここはどこだ?」
「いや、どこだって雲母が場所を知ってるって言うからついてきたんだけど。」
「そうだぜ雲母、お前がついてこいっていったんだろうが。」
只今俺達は絶賛迷子中だ、厳密には俺が道を間違ったらしく司と八代を巻き添えにした形だな。 部屋までの案内をメイドの一人がかって出てくれたのだが、目的のエリシャの部屋への道を食事のために通ってきていたため、俺が連れて行くと言って断ったのだ。 たしかに道は覚えていたはずなんだ、だけど何故か目的の部屋にたどり着くことができない、それどころか完全に見覚えの無い通路を歩いている。 時間の感覚はまだつかめていないが、確実にかなりの時間がたっているだろう。
「まあなんだ、エリシャ達がいつまでたってもこない俺達を探してくれているだろう。」
「そうだと良いんだけどね。」
「まったくだぜ。」
などと言い合いながら、どこに向かってるのかも分からない通路を歩いていた。
〜〜〜迷子になる数十分前〜〜〜
「俺たちがこの異世界に召喚された理由ってなんだろうね?」
「やっぱRPGとかファンタジー世界王道の魔王を倒して世界を救えだと俺様は思うぜ。」
「ここであれこれ推測で話しても仕方ないだろう、さっさとエリシャの部屋に行くぞ。」
俺たちは今、食事をしていた部屋からエリシャの部屋まで移動中だ。 前回、倒れたはずなのにまだ食事の部屋にいたのかと疑問に思うだろうが理由は簡単だ、俺達は倒れる前なにも食べていなかったからだ。 治療用の部屋で目が覚めた後三人とも空腹を訴えて急遽もう一度朝食を用意してもらい今まで食べていたというわけだ。
「しっかしうまかったよなあの朝食、久しぶりにあんなうまいもん腹いっぱい食べられたぜ。」
「確かに凄く美味しかったね。」
「ああ、確かに美味しかったが、この姿になったせいなのかほとんど食べれなかったのが残念だ。」
体がかなり縮んだせいと女になったためなのか以前の男の時と比べて半分も食べることができなかった。
(最後に出てきたデザートは甘くてかなり美味しかったな♪ 男の時は甘いのは苦手だったんだが、今は逆に甘いものを体が欲してる感じだし、これも女になった影響か……。)
デザートの味を思い出して、笑みを浮かべているだろう自分に苦手だった甘いものが大好物になり、嗜好まで女性化してしまっているのだとあらためて認識させられ、美味しい物が食べられた幸福感を表に出しつつ、女になった不幸が俺の気持ちを沈めていた。
「そういえば、雲母ってさ男の時に女装させられた事あったよね。」
「急になんだ、俺の人生で一番思い出したく無いどころか消し去りたい黒歴史の話をするんだ?」
「いや、あの時と違って目の色と身長、髪の長さが全然違うんだけど、女装した男の雲母とそっくりだなって思ってさ。」
「本人なんだから当たり前だろう。」
確かあの時、女子どもが学園祭で企画した『メイドと執事の喫茶店』の模擬店を出すことが決まった時に強制的に男は執事服のはずなのにメイド服を着せられ野郎どもの相手をさせられた。 学園祭が終わった後、下駄箱には男からのラブレターの山ができ、登下校時にはストーカーまがいの男まで現れて大変だった。
(メイド服を着て鏡に映った自分を見た時、かわいい女の子だなって一瞬でも思ってしまった俺はしばらく自己嫌悪に陥っていたな。)
「そうじゃなくてさ、なんていうかな、雰囲気っていうか男の時から女顔だったってこともあるんだけど、時々仕草とかも女ぽかったし。 だからかな、部屋に入ったきたのが少女だと認識できるのに雲母だってすぐ分かって驚いたよ。」
「そうそう! 俺様も朝食の時にすぐに雲母だって分かったぜ、最初はさすがにちっちゃくなってるわ、髪は伸びてるわ、目が赤いわ、何故か猫耳を着けてるわで顔立ちが雲母にそっくりな女かとも思ったんだが、気配が雲母と全く同じだったから驚いたぜ。」
確かに母さんの記憶が混ざってるせいで無意識にしてたかもしれないが、男の時のコンプレックスと今の姿で気にしているところまで言いたい放題だな。
「ん? それじゃなんで俺が名のった時も驚いていたんだ?」
「雲母だってのは分かるんだけど、あまりにも姿が変わりすぎてたからさ、確信に近い半信半疑だったんだよね。」
「俺様も似たようなもんだな。」
「少し疑ってたのが名乗ったことで確信に変わって驚いてたのか。 はぁ……それで、いろいろ言いたい放題言ってくれたが結局、黒歴史の話まで持ち出して何が言いたいんだ?」
「「女(の子)だったほうが雲母にあってるよ(ぜ)」」
「死ね!!」
司と八代の急所を蹴り飛ばそうとするが簡単に避けられつつ廊下を進んでいく。
〜〜〜冒頭に戻ります〜〜〜
歩き続けていたら中庭らしき場所に出たのでここで休憩をしつつだれか城の人に見つけてもらうことにした。
「そういえば、お前らいつの間にあんなに早く動けるようになったんだ?」
「なんだかこっちに来てから凄く体が軽いんだよね。」
「俺様も体は軽いわ力が溢れるわで調子がかなり良いぜ!」
なんだそれ?
「俺は前と変わらないんだが。」
それどころか、俺の手足は短くなっていてさっきの攻撃もリーチが短くなったせいでかなり近づいてからでないと届きもしなかった。そのうえ、背が低くなって周りのもの全部が大きく見えるし上に顔を向けないと二人と会話もしにくくて首が痛い。
「やっぱりこういうのって、テンプレっていうじゃないかな。」
「テンプレ?」
「異世界召喚の常識ってやつかな、召喚された人ってだいたい勇者だったりして、世界を救うために身体能力の向上とか特殊能力が付いたりするやつ。」
「俺はあきらかに弱くなったてるんだが。」
「強化はされてるんじゃないかな? ただ、女の子になったことで弱くなっていて感じないだけだと思うよ。」
「ふむ。」
確かに男と女だと全然違うのだからそうなのかもしれないが、
(内面的にも弱くなった気がするんだが。)
そう、何故だかこちらに来てから俺は精神とか内面が弱くなっている気がするのだ。 さっきも方向音痴ではないはずなのに迷ったし、エリシャやイリスに思考速度が追いつかず振り回されてばかりだ。
(自分が自分でない感覚なんだが、デジャブのような前にもあったような錯覚もあるんだよな。)
首を捻って思い出そうとするが靄がかかったようになり何も思い出すことができない。
(もしかしたらこれもあの女神の仕業か。 ふむ、それしかないだろうな。)
女神が関係しているだろうと結論づけ現状に無理やりだが納得していると、俺たちが来た廊下のほうからメイドがこちらに気づき近づいてくるのが見えたので近くに居た司と一緒に立ち上がり中庭を走り回っている(筋トレするぜ!とか言って走り出した)八代に声をかけ近づいてくるメイドの方に歩き出した。
移動だけで終わってしまいました羊です。
ちょっと思うところがあり雲母ちゃんに方向音痴を追加してみたのですがいかがでしたでしょうか?
自分的には特別なヒロイン(?)は極度の方向音痴だったり超がつく天然だったりするものだとおもっています。
さて、次回こそはメイドに連れられてエリシャの部屋に到着できますので次回もよろしくお願いします。