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第68話 ごめんね

 私がこうして悩んでいても、世界は勝手に進んでいく。本当は、私の心の決着がつくまで、イニアには起きて欲しくなかった。……それはそれで怖いし、決着をつく日が来るかもわからないけれど。それでも、イニアが起きるのが少し怖かった。


「ぅ……ん……めどり……おはよ……」

「……おはよう」


 あれだけ大きな怪我をした後なのにイニアはいつもとあんまり様子が変わらない。もしかして、私だけ起きるのが遅かったとか?


「ぅん……大丈夫? 身体痛まない?」


 半分ぐらい寝ぼけたイニアは、そう言いながら身体を近づけて、私の手足を確かめるようにぺたぺたと触れる。拒絶されてないことに心底ほっとする。ほっとして嬉しくなる。嬉しくなってしまう。


「大丈夫。イニアは? 大丈夫?」

「ぅん……大丈夫……ふぁあ……」


 イニアが大きなあくびをする。

 目もあんまり開いてないし、眠そうに見える。


「眠いの? まだ寝ててもいいよ?」


 今何時かは知らないけれど、あんなに頑張ってたんだからもう少しぐらい休憩しててもいいはずだし。それにもう少し寝ててくれると、考える時間を確保できる。


「う……ううん……メドリを見ていたい……」


 抵抗するような言葉を呟くけれど、眠気には抗えなかったようで、私の胸に身体を預けて、寝息を立て始めてしまう。


「ふふ……」


 なんだか久々にこんなに近くでイニアを見た気がする。可愛い。こうやって、私に甘えてくれるの……すごく好き。つい頭を撫でてしまいそうになる。


 でも……私が触れていいのかな……こうやってまじまじと見るたびに思う。イニアは綺麗すぎる。私の汚れた心で触れれば、その汚れが目立ちすぎる気がして。そんな汚点をつけたくない。


「めどり……」

「っ、ふぁ……もう……」


 そんな悩んでる私の心を知ってか知らずか、イニアは寝ぼけながら、私の手をつかんで頭の上に乗せる。頭を撫でて欲しいのかな。

 そうやって求められると、余計に甘やかしたくなる気持ちが強くなって、さっきまで悩んでたことを忘れて、頭を撫でる。思考を放棄して、考えることからまた逃げて、イニアの優しさに溺れる。


「……でも」


 このままじゃいけない……ような気がする。結局どっちの方がいいのか私の中では結論が出てない。悩まないといけない。答えを出さないといけない。


 イニアを傷つける覚悟をする……?

 無理だよ……イニアに嫌われそうだし、綺麗なままでいて欲しい。イニアを汚したくない。傷つけたくない。


 じゃあ……イニアを拒絶する?

 それこそ難しい。私を好きって言ってくれる人を……1番好きって言って甘えてくれる人を、拒絶するなんてできない。


 思考の衝突で頭が痛くなってくる。

 思考が絞られるような気がして、気がおかしくなりそう。でも……これは私の問題だから。誰にも言えない。イニア以外には話したいと思えないし、イニアに話したらきっと答えが出ない。

 今のままの状況に甘えてしまう。これでいいよって言ってくれるから。それじゃ、覚悟もないのにまた傷つけて後悔して……


「ぅんん……ぁ……」

「……ぁう」


 曖昧な寝言を吐きながら、イニアが寝返りを打つ。そのまま私も押し倒されるようにして、寝床に倒れ込む。


 少し驚いたし、息も少し苦しいけれど、安心しきった様子のイニアを見ているとなにも言えなくなる。頭を撫でながら、その様子を眺める。


「……いたずらしちゃうぞー」


 しないけれど。

 でも……やっぱり触れてるといろんな悩みが許されていく気がする。こうやって、私に触れ続けていてくれたら……イニアが私を求めてくれると……すごい嬉しい。凍えて震えていた心に温もりが入ってくる。


 でも……この温もりに呑まれていいのかはわからない。きっと……イニアのことだけを考えるなら、良くないんだと思う。けど、今ぐらいは……今だけはいいよね……


 静かに眠ってるイニアの額に口付ける。

 こんな風にイニアだけが寝てるところを見るのは珍しいから、こういうことができるのもきっと今だけ。今だけ……なのかな……


「……ぅ……ぅう……ぅぁあ」


 何故だか涙が溢れ出てくる。声を抑えるけれど、嗚咽が止まらなくなって、涙が布団を濡らす。イニアを起こさないように必死に口で手を噛む。


 一緒にいたい……いたいよ……

 でも、でも……私なんかいたら……


 一瞬収まった悩みは、すぐに頭の中に充満する。どうすればいいかわからない。誰かが決めてくれたら楽なのに。もし誰かが決めてくれたら、それに文句を言いながら従うだけでいいのに。


 そう思ってしまう自分をすぐに責める。

 自分のことすら決めれない。意思薄弱な私。誰かに責任転嫁していないと、何一つ決めれない。誰かのせいにして、被害者のふりをしていないと、自我が保てないから。


 ……ほんとの加害者は私なのに。

 私がみんなを……イニアを傷つけてるのに。

 ごめん……ごめんね……イニア……こんな私でごめんね……私なんかがたまたま隣にいたから……

 私なんかより素敵な人なんてたくさんいるよ。だから……だから、私以外の、もっと素敵な人と過ごした方がいいよ。私みたいな人じゃなくて、もっとイニアと釣り合うような……素敵な人と。


 いや……イニアと釣り合う人なんていないか。イニアみたいにとっても、とーっても素敵な人なんてそうそういないよね。ううん。絶対いない。だから、釣り合わなくても……まだ天秤が少し傾くぐらいの人を見つけて……幸せに……しあわせ……


「……ゃ」


 やだ……やだよ……!

 うぅ……でも、だめ。だめなんだから。

 私じゃ、だめなんだから。


「……めどり……?」

「ぃに……」


 目が覚めてしまったイニアから、思わず目を逸らす。

 今目を合わせたら、私の心のうちを全て暴かれてしまう気がして。それはまだ怖い。ここまできても、まだ私はイニアに嫌われることを怖がっている。


 まだ……信じれてないから。私が怖がりで弱いから、イニアを信じれないから、きっと全てを知られるのが怖い。でも、心の内では、全てを受け入れて欲しいって願ってる。


 けど、それが実現するとは思えないから、必死に隠してる。暴かれて、嫌われるのがイニアのためだとは思いつつも、隠すことに必死。それに隠しておけば、暴かれた時に、少しは私も被害者のふりができるかもっていう浅ましい魂胆もある。


 もうぐちゃぐちゃになってしまった願望と恐怖だけれど、その全部が真実だから、どれも捨てられない。すべての方向に引っ張られるせいで、どこにも動けない。


「だいじょぶ……だいじょぶだよ」


 声を押し殺しながら涙を流す私の頭をイニアが撫でてくれる。そうされるだけで、絞られて苦しくなっていた思考が、緩んで楽になるのだから不思議。


 あぁ……またこの優しさに甘えちゃう。

 私は弱いから、イニアの優しさに甘えちゃう。結論を出すのが怖いから、ずるずるとまた。ごめん……ごめんね。イニア……ごめんなさい。ごめん。ごめんよ。ごめんね。


 許してとは言えない。許してと言ってしまえば、イニアはきっと許してくれる。ううん。そう言わなくても、何をしても、イニアは私を許してくれるのかもしれない。

 そうなれば私はもうだめになってしまう。イニアの優しさに溺れて、逃れられなくなって、イニアから離れられなくなってしまう。


 ……それを受け入れられたら、いいのに。なんの気兼ねもなく、イニアと一緒に入れるような、優しく綺麗な心を私が持っていたら良かったのに。

 けどそうじゃないから……だめなんだよ。イニア……私をそんなに好きになったら、だめなんだよ。私の針が刺さっちゃう。ねぇ……イニア。

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