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第50話 まっかに

 少し長めのお風呂から上がるとイチちゃんはナナちゃんに覆いかぶさる形で寝てしまっていた。床にはイチちゃんが拾っていた石ころが落ちてる。握りしめてたみたい……石ころ好きなのかな?

 身体が冷えないように毛布をそっとかける。すぅすぅと寝息を立てて寝ている。やっぱり疲れてたのかな。


「……私達も寝よっか」

「ぅん……抱きしめて……?」

「いいよ」


 メドリが私を抱きしめてくれる。

 そのまま寝床に転がる。紫髪が首に絡まって、くすぐったい。おでこをくっつける。メドリの体温を感じれて心地いい。


「くぅ……ん……」


 そのままメドリに甘えたくて、胸の中に顔を埋める。小さいけれど、たしかな柔らかさがクッションのように私の頭を支えてくれる。


「もう、くすぐったいよ」


 そう言いながらも、頭を撫でてくれる。

 手の感触を、暖かさを感じる。


「……ね」

「なに?」

「あの子達……大丈夫かな」


 私はメドリに今のもやもやとした不安を吐き出す。

 あの子達……イチちゃんとナナちゃんは明らかに何かある。いや……何もなさすぎるのかもしれない。親と言える人もいないようだったし……むしろ……


「あの子達、ずっと怯えてた。私達を見る時もそうだけど……特に親について聞いた時」

「うん……あんまり聞かない方が良さそうだよね……喋ってくれるまで待つ……しかないかな」

「話してくれるかな……?」


 最後は疲れて眠ってしまったみたいだけれど、結局警戒は解いてくれなかった。眠ってしまうぐらいには警戒を解いてくれたのかもしれないけれど……

 

「どうだろ……でも、それはイチちゃん達が決めることなんじゃないかな……」

「うん……そぅ……だ、ね」


 なんだかまぶたが重い。

 いつのまにか、メドリが暖かいこと以外の感覚が弱くなっていた。眠たい。


「おねむさんだね……おやすみ、イニア」

「めど……り、おや……す、み」


 おやすみと最後まで言えたかな……視界が暗闇に包まれていく。意識が薄れていく。




「……だめ。信頼できない」

「もー……! イッちゃんのわからずや! お姉ちゃん達が、助けてくれたんだよ!」

「ナナ……いい? 私達は貴重な実験対象なの。だから守られたのかもしれないでしょ?」


 誰かの話し声が聞こえる。

 けれどまだ眠い。メドリの声じゃないし……まだ起きなくてもいいかな……でも……なんでメドリ以外の声が……?


「そんなことない……と思うよ? 全部話すのは怖いけど……少しぐらい信じてもいいと思う」

「……私だって、少しは期待したいけど……今度捕まったら……あ、起きそう」


 声と日の明かりが私の意識を浮上させていく。


「ぅう……」


 けれどまだ眠くて、身体をあげる気にはならない。けれど、メドリは見ていたいから、目を開ける。


「めどり……」


 いつも通りメドリはまだ寝ている。いつもなら起きるまで眺めているけれど、今日はなんだか思考が弱くなっていてた。


「ぅ……ん……めどり……」


 気づけばメドリを抱きしめていた。

 甘えるように紫髪に顔を埋める。メドリが少し寝苦しそうに呻くけれど、それが私の思考に入ってくることはない。


 メドリ……かわいい。かわいい。欲しい。メドリ……すき……好き……大好き……あったかい……ずっとこうしてメドリを感じてたい。


「ぅー……ん…………いにあ……?」

「メドリ……好きー……」


 メドリが起きちゃったみたいだけれど、それで私の寝ぼけた思考が止まることはない。それどころか余計メドリに頭を擦り付ける。


「私も好きだよ……くすぐったい」

「いや……?」

「ううん。もっと甘えて?」

「……うん」


 メドリが頭を撫でてくれる。

 メドリの髪の匂い……良い匂い……ずっと嗅いでたい……髪の中にいると、メドリに包まれてるみたいで、すごい好き……

 何も言わず、何もせず私はメドリに甘える。それに答えるように、メドリは頭を撫でてくれる。


「あっ……」


 暖かくて心地良くて、このまま寝てしまいそうになる始めた時に、メドリが唐突に声をあげる。


「ねぇ……イニア? その……」

「なにー?」


 急にメドリの声に恥じらいが混じる。

 恥ずかしがってるメドリも可愛い……好き……


「イニア……イチちゃん達が……」

「…………ぁ」


 その言葉で思考が急に回復する。 

 メドリに抱き着いた姿勢のまま首だけ動かして、視線を後ろに向ける。


 そこには少し顔を赤くしてるイチちゃんと、笑いそうな顔を堪えてるナナちゃんの顔があった。


「…………」


 恥ずかしい。完全に意識の外だった。

 というか起きる時に何か聞こえてたのに、メドリのことばっかりで考えてなかった。

 ゆっくりとメドリから離れる。離れると言っても、手は繋いだままだけど。


「そ、その……おはよう……」


 羞恥心を抑えながら、重い身体を立ち上がらせ、イチちゃん達に話しかける。


「…………」

「おはよう、ございます!」


 イチちゃんは相変わらず無言だけれど、ナナちゃんは元気よく挨拶を返してくれた。その顔はにこやかで、昨日の魔力切れはもう大丈夫そぅ。


「おはよう。えっと……朝ごはんだすよ。たいしたものはないけど……」


 そう言って冷蔵庫に向かうメドリを追いかける。その横顔は耳まで真っ赤。きっと私も同じ。


「……どれが良いかな」

「うーん……」


 私もメドリも成長は終わってるし、食にこだわる方でもないから、維持に必要な分しかほとんど食べない。だから冷蔵庫の中は水と携帯食料にちょっとした麺類ぐらいしかない。


「この甘いやつにする?」

「まぁ……それが1番マシかな」


 メドリがとったのは携帯食料の中で少し高めだけど、お菓子っぽいやつ。あとは水。ジュースぐらいあったらよかったんだけどね。


「あ、ここ座っていいからね」


 朝ごはんとも呼べるか怪しいそれを持って戻ると、イチちゃん達はまだ立っていた。座っていいと椅子を指して言う。

 ナナちゃんは恐る恐ると言った感じで座ったけれど、ナナちゃんは座らない。


「これ、朝ごはん。口に合わないなら食べなくてもいいけど……」

「食べてもいいんですか……?」

「うん。いいよ」


 ナナちゃんはお腹が空いてたのか、携帯食料に手を伸ばす。けれど、それをイチちゃんが掴んで止める。


「だめ。毒かもしれない」

「毒じゃないよ? ほら、市販のものだし」


 イチちゃんはまだ警戒を解いてないみたい。けれど警戒心が少し強すぎる気もする……そんな環境だったのかな。


「先に食べて」

「えぇ……イッちゃん、私お腹すいたよ……」


 ナナちゃんはそこまで警戒してるわけじゃないみたい。私達があの巨木と戦うのを見てたからかな……?


 そんなことを考えながら、袋から携帯食料を取り出し少しちぎって、口に入れる。甘いけれど、特別美味しいわけでもない味。また別の買っておかないといけないかも。


「ねぇ……もういい?」

「毒はないみたい。でも、魔力機転にするタイプかも……」

「もう! そんなの見たらわかるじゃん!」


 イチちゃんはまだ心配事があったみたいだけれど、ナナちゃんが強引に携帯食料を食べてしまう。正直味に関しては、まずいと言われても仕方ないかなと思ってたけれど、すごく美味しそうに食べてる。

 それを見て、イチちゃんも少しかじる。


「……大丈夫そう」

「だから言ったのに」

「水もあるからね」


 メドリが水をイチちゃん達の方へと寄せる。

 けれど2人は食事に集中してるのか、あまり反応がない。よっぽどお腹が空いてたみたい。こう見ると普通の女の子たち。けれど、きっと何かある。

 そんなもやもやとした何かを抱えながら、私も携帯食料の袋開けた。

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