第37話 あまえる
魔導機の実験は成功のような失敗のような感じで終わった。
離れてても魔力干渉ができるという見方では成功だけど、ほんの15m程度離れただけでその効力が切れたという見方では失敗とも言える。
……私的には失敗だと思う。
魔導機のできはわからないけれど、吐いちゃったし。吐いて、泣いて、喚いて……そんな汚い状態でメドリに抱きついて……うぅ……思い出すだけでも後悔しそう……
でも……メドリは受け入れてくれた。
メドリが抱きしめてくれた……だから今はもう大丈夫……まださっきの余韻が少し残ってるけど……
「イニア……? 大丈夫そう?」
「う、うん……まだちょっと震えてるけど……」
動悸が激しくて、身体が震えて、吐き気がしてた時の名残がまだある。メドリに抱きしめてもらっても、手足の震えはなかなか消えない。
「ほんとに大丈夫……? 無理しないでね?」
「うん……メドリも、ありがと……で、でも身体くらい洗えるよ……?」
「だーめ。イニアは楽にしてて」
私がメドリに抱きついて、少し落ち着いてから、パドレアさんは私にお風呂に入るように言った。メドリは大丈夫って言ってくれたけど、やっぱゲロまみれなのは流石に汚いよね。
私の吐瀉物は私の近くにあって、私に近づいて抱きしめたメドリも当然その餌食になった。もちろん服が汚れた程度で、私みたいにもろに食らったわけではないけれど。
それで一緒にお風呂に入ることになった。……そもそも1人じゃ入れないから、メドリは汚れてなくても入ることになったんだけど。
けど……別に身体を洗ってもらえるなんて思ってもなかった。メドリが私の髪の中で洗髪剤を泡立てる。
「どう……? 痛くない?」
「痛くないよ……ちょっと気持ちいい……」
「そっか。ならよかった」
洗髪剤をお湯で洗い流して、髪を指で梳かしてくれる。
メドリはさらに続けるようで、手で洗剤を泡立てる。それを見て、ちょっと顔が赤くなる。……髪を洗ってくれた次は、もちろん身体を洗うわけで。
「ぅ……」
「どうしたの?」
メドリは何も気にしてないかのように問いかける。
その声がからかってるという感じはなくて、ただ心配してくれてるのがわかる。けれど……やっぱり意識してしまう。
「顔真っ赤……あっ……もう、えっちなんだから……」
「……ご、ごめ」
メドリが私の顔をのぞいて、真っ赤になってるのがバレてしまう。メドリは純粋に心配してくれたのに……私はメドリに身体を触れられることを意識してたのが、なんだか申し訳なくて、思わず謝ろうとする。
「だめなんて言ってないよ……でも今は我慢して……ね?」
「う、うん」
けど、その謝罪をメドリは押し戻して、優しく包み込むように、首から少しづつ身体を洗ってくれる。
「ぁ……んっ……」
「楽にしてていいからね……?」
「で、でもメドリのっ……触り方が……っん!」
思わず少し大きな声が出てしまう。
メドリはただ私を身体を洗ってくれてるだけ、それはわかるんだけど……メドリに身体を触れられてるだけでやっぱり……感じちゃう。
「声……漏らしちゃだめ」
「ぇ……? で、でも……」
我慢しようとしても我慢できない。
メドリの触り方がえっちなのもあるし……メドリに触れられて何も感じないなんて無理。
「イニアのそんな可愛い声……ここじゃだめ……誰か来るかもしれないし……聞かれたくない……」
背中を洗いながら、必死に懇願するように、呟く。
そんなメドリが愛らしくて、少し笑う。
「メドリもっん……独、占欲っ……強いね……ぁ……ん」
「……だめ? 私、イニアは独り占めにしたいもの……」
「わかっぁん……! わかった……よっ……私はメドリの、もっ、のだから……!」
メドリの私を求める心が嬉しくて、それに応えたくなる。けれど、メドリのえっちな触り方のせいで私は声を我慢できそうにない。必死に身をよじって、声を抑える。
「メドリっ……声でちゃ、っぁん! 激しいよっ……!」
「え? 普通だよ……? イニアが敏感になんじゃないの?」
そこで言葉を区切り、おもむろに私の耳に顔を近づけてくる。耳に吐息がかかるのがわかって、少し赤くなる。
「昨日もよく感じてたみたいだったし」
小さな声でメドリが囁く。
顔がボッと急激に熱くなる。火が噴き出しそうなくらい。
昨日の……昨日のメドリと求め合ったことを思い出して。
「や、やだったっ……? 気持ち、悪っん……かった?」
「そんなわけないよ……感じてるイニアすごく可愛かったよ……」
可愛いと言われて、さらに熱くなる。
鏡を見なくても、自分の顔が真っ赤なのがわかる。
身体を洗うメドリの手が、背中、腕、お腹ときて、慎ましい胸を触り出す。
余計集中できなくなってくる。
いろんなことが重なって、頭が熱い。でも、嫌な熱さじゃない。心地良くて……快楽に溺れそうになる。
「ぁ……っん……!」
「声……ださないで……?」
「む、無理っ……! でちゃう……」
「じゃあ……塞いであげる」
メドリが私の顔を少し動かす。
そこにメドリの顔があって、口を口が繋がる。
「んっ……ぁ……ぅぁ……」
声が漏れそうになっても、その声の全てがメドリに吸い込まれる。
いつもみたいな求め合うキスじゃなくて、私を食べちゃいそうなキス。それに私は甘えるように、されるがまま。
快楽が全身を侵して、力が抜けていく。
いつのまにか羞恥心は消えて、安心できる暖かさと、求められてる快感が私を満たしていた。
「めどっ……りぃ……!」
メドリが私を侵略してくるのがわかる。
そんなメドリが可愛くて、思わずメドリの名を呼ぶ。
けれど、その声は自分でも驚くぐらいか細い。
「んっ……ちゅ……んん……イニア……かわいい」
メドリが私をさらに求めるように、舌が入り込んでくる。
気持ちいい。
「ぁ……! そこっ……」
「んぁ……洗わないと……ね?」
メドリの手がいやらしく私を触れる。
上半身を洗い終えたのか、腹をさすり、下の方に手が伸びていく。太ももを這うように撫でられる。
「……っ……ぁ……ん……!」
声が出そうになるけど、メドリが私の口に吸い付いて離さない。全部メドリのものになるように、私の声を吸ってくれる。そんなことしなくても、私はもうメドリが好きで、メドリのためになんでもしたいと思ってるのに……それでも、求めてられてることが嬉しくて……すごい興奮する。
「っはぁ……はぁ……ん……洗い終わったよ」
頭が快楽でぼーっとする。
メドリの声が頭まで届かない。届いて理解して、返事をしたいのに、身体中を流れる快感がそれを拒む。快感が思考を呑み込んでしまったように。
「め……どり……」
メドリに求められて、甘えて、快楽で思考を奪われた私にできるのは、そうやって名を呼ぶぐらい。大切な、大好きな人の名を。
「……ん、どうしたの?」
私の口を長い間塞いでたからか、息を整えたメドリが、私を不思議そうに見る。
メドリの肢体が目に入る。可愛くて、綺麗なメドリの体……
「わっ……! イニア、危ないよ?」
「めどり……めどり……!」
気づけば私はメドリに抱きついていた。
必死に名を呼んで離さないように。
メドリがそこにいてくれてるって感じたくて。
「メドリ……いるよね? いてくれるよね?」
「もう……よしよし……ここにいるよ。イニアのそばにずっといるから……大丈夫」
メドリが私の青髪に沿うように、撫でてくれる。
それが心地良くて、安心できて、いつのまにか身体の震えは止まっていた。




