第33話 ふあんと
「こほんっ」
気を取り直すようにメドリが咳払いする。
その顔はまだ少し赤い。
さっきキスしたから……いや、その前から赤かった。まだ思考が弱い……また、少しおかしくなってた。
メドリに魔力に触れられると、いつもこうなってしまう。快楽が頭を侵して、思考がメドリのことでいっぱいになる。
メドリの魔力の触り方がえっちなのが悪いのかな……それとも、私の魔力が敏感すぎるの……?
「えっとね……イニアの魔法なんだけど……」
「あ、うん」
変に深みにハマりそうとした思考を振り払う。
そうだった。別にメドリは私の思考を快楽で侵そうとして、私の魔力に触れたわけじゃなくて、身体強化魔法の出来についてみてもらうんだった。
「なんていうか……すごい不安定というか……見てて危なっかしいっていうか……」
メドリが言葉をひとつひとつ選びながら話してくれる。
不安定……そんな気はしてなかったけど……
「下手くそ……ってこと?」
「いや……それがそうでもなさそうで……不安定だけど、全部正常に動いてるっていうか……」
どういうこと……?
下手くそなら下手くそでも良かったけど……なんだかよくわからない検査結果になったみたい。不安定だけど、正常?
「魔力多動症の影響?」
「や、魔法起動時ならともかく、起動中はあんまり影響ないと思う……けど。どっちかといえば、その大きな魔力量かな?」
「魔力変換の時の漏れが原因かな……?」
魔力量……私の魔力量は平均より断然多い。その魔力を無理やり術式内に入れて、大量に注ぐことで、強力な身体強化魔法にすることができてる。
けど、注いだ魔力の全部が魔法に変わるわけじゃない。私の魔法は綺麗じゃない。だから、変換されなかった魔力も多い。
それが原因で、魔法が不安定なのかもしれない。
「そうかもね……それでね? 思ったんだけど、私が細かい魔力操作をしたら、もっと身体強化魔法が……なんていうか綺麗になりそうなんだけど……やってもいいかな?」
「それは……その、私の魔法をメドリが整えてくれるってこと?」
「う、うん。イニアの役に立つかなって……思ったんだけど……」
メドリの声が少しづつ小さくなっていく。
図々しいかな? 嫌だったかな? やっぱり無理かもだし……意味ないかも……
そんな声にならない声が聞こえてきそう。
そんなことないのに。
メドリが私のために考えてくれたことが、嫌なわけない。意味がないわけない。
「ありがと……じゃあ、やってみよっか」
感謝と喜びの気持ちを込めて、メドリの頭を撫でる。
それはしっかりメドリに伝わったみたいで、少し曇っていた顔が腫れる。やっぱりメドリには笑ってて欲しい。
「えっと……どうしたらいいのかな?」
「仮起動状態にできる?」
「うん……したよ」
動き続ける魔力を再度押さえつけて、術式に注ぎ込む。
あとは起動するだけ。
「ちょっと、触るよ……?」
「う、うん」
メドリの手が私のお腹に触れる。
お腹から魔力が入り込む。またおかしくなりそうだけど、今は我慢……メドリもいつもみたいな舐めるような触れ方はせずに、私の術式に触れる。
「えっと……多分こんな感じで……」
「ぁ……」
メドリの魔力が私の術式を操作していく。
丁寧に少しづつ。私の汚い術式が綺麗になっていく。
「これで……起動してみて?」
「わかった……いくよ?」
仮起動状態の身体強化魔法を起動する。
それと同時にメドリの魔力が私の術式に干渉してるのがわかる。魔力が満遍なく使われていく。
「わぁ……すごいね」
いつもより魔力光の漏れが少ない。それは、魔力の変換がうまくいってる証。
体感でもわかる。いつもより魔法の効果が強い。
「ちょっと、動いてみようか」
「うん……で、でも離れたら」
「こうするの!」
メドリを抱っこする。
お姫様抱っこ。腕の中にメドリがいる。
「はぅ……!」
顔が近づいて、メドリの顔が真っ赤になる。
その熱が私にまで伝播しそう。
「いくよ!」
「ちょ、ちょっとまっ」
足を一歩踏み出す。
普段より力の入り方が良い。弱目にしていたとはいえ、少し制御をしくじって、壁に当たりそうになる。
咄嗟に壁を蹴って、方向転換する。
「ひゃああ!」
横方向への移動は失策だったかな……じゃあ次は……
上に跳ねる。急速に天井が近づいてくる。
それを手で押し返して、向きを変える。
そのまま机の上に着地する。衝撃で辺りの魔導機が散乱する。
……ちょっとやりすぎたかも。
「イニアぁ……」
「あっ。ごめんね……? 大丈夫?」
お姫様抱っこをやめて、メドリを立たせてあげる。
けど、メドリにさっきの動きはきつかったようで、ふらふらしている。
ほんとに……やりすぎたかも。
「だい、じょぶ……それより、どう……だった?」
「う、うん! いつもより良かったよ! 術式の反応も良かったし!」
そのせいで思ったより、大きな動きになってしまった。
ほんとはもっと、小さな動きになるはずだったのに。
「……はぁ……っ」
メドリが少し安心したように息を吐き出す。
さっきに比べたら落ち着いたみたい。けど、その息はなんだか深い不安から出たようなものの気がした。
「どうしたの……?」
「ううん……私もメドリの手助けができるんだなって思って……」
「……まさか、足手纏いとか思ってたの?」
「…………うん」
メドリは少し躊躇ったが、結局頷いた。
……不安だったのかな。実際、私とメドリじゃ戦闘力に大きな差がある。けど、それよりずっと。
「もう……いい?」
メドリの手を強く握る。
言い聞かせるように、確実に伝わるように前置きをする。
「メドリは足手纏いなんかじゃないよ。メドリが私をここまで引っ張ってきてくれたんだもの」
そこで言葉を切って、少し言い淀む。
言おうとしたことが恥ずかしくて。けど……言わなきゃ伝わらない。メドリに私の気持ちを伝えるには言わないと。
「……私はメドリがいないとだめだから……メドリはそこにいるだけで、私の力になってるんだよ? メドリのことが好きだから」
顔が発熱して、赤くなってるのがわかる。
最近ずっとメドリに好きって伝えてる気がする。けど、ずっと好きだから、好きって言ってしまう。メドリが私の好きを受け入れてくれるから。
「う、うん……で、でも私、不安で……何もできないから……」
「……大丈夫……大丈夫だよ。何もできなくても、一緒にいる……そう言ったでしょ?」
「うん……そうだったね。ごめんね、忘れてた」
メドリが少し笑って、おどけたように言う。
愛おしい、可愛い、綺麗な笑顔。
「謝らなくてもいいのに……でも、不安があったらなんでも言ってよ。メドリのことなら……なんでも知りたいから」
「あっ、それはイニアもだよ? 隠し事はなしがいいな……」
「わかってるよ。でも……」
なんでも言うのは少し怖い。
メドリが私の全てを受け入れてくれるのかが怖い。
拒絶されたら……嫌いになられたら……そんなことを考えてしまう。
「でも?」
「……どんな私でも……嫌いにならないでくれる?」
今度は私の声が小さくなる番だった。
わかりきってることを質問してしまう。その答えはいつだってメドリが言ってくれてるはずなのに、確認してしまう。
「うん。その……私もイニアのこと好きだから……ね」
少し恥じらいながらメドリが私のことを好きと言ってくれる。その姿が可愛くて、思わず抱きしめる。
「わっ……! パドレアさん達もいるのに……!」
「ごめんね。けど……私、独占欲強いんだ」
「……知ってるよ」
「……迷惑?」
「嬉しい」
強く強くメドリを抱きしめる。
メドリは私の頭を撫でてくれる。
パドレアさん達もこっちを見てるかもしれない。
それでもいい。見られるのは恥ずかしいけど……メドリは私のものって言うのは伝えたい。メドリがどこかに行かないように、繋ぎ止めるように抱きしめる。
「私達……不安に思ってばっかりだね」
「そうだね……でも、話したら大丈夫」
「両思いだから……?」
「……恋人だから」
好きだから、どんな面でも受け入れて、好きでいてくれる。
そんな確信が少しある。
けれど、同時にそんなことはないんじゃないかっていう不安感もあって。けど、そんな思いもこうやって、私の好きをメドリが受け入れてくれて、メドリが好きって言ってくれるだけで、霧散してどこかに消えて。
「こうしてたら安心するね……」
「……キスとどっちが好き?」
「……っ、ぁ……ぅ……!」
途端に顔がぽんと赤くなってしまう。
キスとどっちが好き……?
なな、なにそれ……そんなの。
「今は……き、キス……」
「そう言うと思ってた」
だってキスの方がメドリを強く感じれるから。
こうやって、抱きしめ合うのも心地いいけど、キスはすごく気持ちいい。キスをしてると、快楽が全身を貫いて、痺れに似た刺激が……思い出すと、体が熱くなってきた……
「最近キスしてばっかりだよね」
たしかに。
初めてキスした日からどんどん線を越えてる気がする。
「だめ……?」
「さいこう……っ」
気付いたら、メドリの口内に舌を入れていた。
視界が快楽で点滅したする。
全身に刺激が走る。
さっきの存在を確認するような優しいキスとは違うし。
求めて、離さない。そうやって、示すためのキス。
次に唇が離れたときには、呼吸が荒くなるぐらい長く、長くキスをしていた。




