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第32話 みとれて

 古代の情報を解読すると、意気込んでみたがいいものの、私にはできることはなかった。

 言語の翻訳自体は、辞書を使ってゆっくりと時間をかければ8割ぐらいはできそうだったけれど……残り2割がわからないせいで色々と問題がある。


 まず、細かいニュアンスとかがわからない。あと、こういう技術情報資料みたいなのは専門用語の塊で、残り2割の比率が高くなる。

 冒頭部分とかなら、まだなんとかなるんだけどね。でもそんな場所、翻訳してもしなくてもほとんど変わらない場所だから、あんまり意味がない。


 メドリも似たような感じみたいで、私達は早々と戦力外になった。結局、メドリの魔導機の勉強を隣から見るだけに戻った。


「えっと……ここが、起点だから……ここが変換点で……」


 真剣に勉強するメドリと身体をくっつけて、同じところを覗き込む。そこには、魔法式と思われるものが書いてある。全くわからないけど。


「うーん……でも、それだと次元がズレちゃうような……計算ミスかな……?」


 メドリは集中して勉強する時、独り言がぽつぽつと溢れる。

 頑張ってるメドリはすごく綺麗で……好き。

 勉強に集中して勉強しか見えてなさそうな真剣な表情……正直、ちょっと妬ける。けど、勉強に嫉妬しても仕方ないから抑えてる。


 それに……私が呼べば、私の方を見てくれる。

 どんな用事で呼んだって、嫌がらずに私を見て、どうしたの? って聞いてくれる。それがわかってるから、次第に嫉妬心も忘れて、綺麗なメドリを眺めてる。


 かわいい……かわいいよね。

 ほっぺ……つんつんってしたら怒るかな……? 今は、流石にだめだよね。後でやろう……でも、撫でるぐらいならいいんじゃないかな?


「あ、これ……イニア、これさ……イニア?」


 やっぱり髪も綺麗……綺麗な紫髪。

 明るい紫じゃないけど……私を安心させてくれる紫……


「イニア? 聞いてるの?」

「え、え? ご、ごめん。ちょっとメドリに見惚れてて……」


 メドリの話を聞いてなかったのが申しわけなくて、咄嗟にありのままの心を言ってしまう。言ってから、恥ずかしいことを言ったことに気付いて、顔が赤くなる。


「ち、ちがっ!」

「違うの……?」


 羞恥心から否定しようとすると、メドリが悲しそうな顔をする。演技だと思うけど……その顔はずるい。


「……ち、ちがく……な、ぃ……けど……」

「聞こえないよ?」


 うぅ……恥ずかしい。自分から撒いた種だけど。

 メドリのさっきの顔はやっぱり演技の部分が大きかったみたいで、もうにこにこしながら、私の方を見てる。私の言葉を待ってる。


「メドリに見惚れてたの! かわいくて綺麗だったから!」


 もう半ばやけくそで、メドリに私の思いを伝える。

 顔が熱いになってるのがわかる。


「う……うん。ありがと……」


 恥ずかしさの中でメドリを見ると、メドリも顔を真っ赤にして俯いてる。


「……メドリが言わせたのに」

「だって……あんな大きな声で言うなんて……」


 そう言われて気づく。

 ここにいるのは私たちだけじゃ無い。

 少し離れた場所では、パドレアさんとアマムさんが翻訳作業をしてる。メドリのことで頭がいっぱいで忘れていた。


 恐る恐る2人の方を見ると、2人とも手を止めてこちらを見ていた。なんかすっごいニヤニヤしている。見られてることに気づくと、何事もなかったかのように作業に戻っていった。


 余計に顔が熱くなる。発熱して真っ赤になってるのがわかる。こんな風にメドリへの想いを誰かに聞かれるのは恥ずかしい。

 メドリへ想いを伝えるのは、心の準備をすれば言えるようになってきたけど……私は別にメドリとの関係を周囲に言いふらしたいわけじゃないから、こういう状況はすごい恥ずかしい。


「そ、それで? どうしたの?」


 気を取り直すように、メドリに問いかける。

 何かを言おうとして、私を呼んでいたはず。


「ぅ、うん。たしかここら辺に……あ、ここ」


 メドリがたくさん並んでる魔法式の一ページを指す。

 そこには魔法式が書かれている。全部同じように見える魔法式。けど、これはさっきまでとは何かが違う……何個かの魔法が重なってるような……


「これは……?」

「これはね……身体強化魔法の術式だよ? イニアがいつも使ってるやつ」

「これが……へぇ……」


 私をいつも助けてくれた身体強化魔法。

 これがなければ、もう死んでいたかもしれない。

 でも……こんなに複雑そうな構造してたんだ……私でも使えるから、もっと簡単かと思ってた。


「ここが全身の魔力を運動エネルギーと耐久性に変換する場所だよ……で、こっちが自動で全身の魔力濃度を一定にしてくれてる」

「そうなんだ……これは簡単なの?」

「うーん……起動するだけならともかく、綺麗に使おうと思うと結構難しそうだけど……」


 意外と難しいんだ……普段は特別意識もせずにやってたけど。それより動き続ける魔力を押さえつけて、制御する方が大変。


「綺麗に使えてる印象ないけど……私のはどうなんだろ」

「ちょっと私が見てあげようか?」

「いいの?」

「いいよ」


 メドリが見てくれる。

 私に注目してくれる。

 それが嬉しい。


 少し浮かれた気持ちで、今も動いてる魔力を制御して、身体強化魔法を起動する。

 全身から魔法に変換しきれなかった魔力が青い光となって、ほんのりと漏れ出す。まだ出力は抑えてるけど。


「どう……?」

「んー……」


 メドリが私の身体をぺたぺたと触る。

 手をかざして魔力の流れを読み取ってるみたい。


「んー……?」


 メドリの指が私の肌を舐めるように触れる。

 メドリの手が私の身体と触れ合って、メドリの魔力が私の中に入ってくる。

 その触り方が、少しえっち……


「うん。大体わかったと思う」

「そぅ……?」


 メドリが触るのやめた頃には、少し思考が溶けていた。

 メドリに肌を触れられるだけで、こんなになってしまうなんて……身体がぽかぽかする。心地いい……


「イニアの魔法なんだけど……って、イニア?」

「メドリ……? どうしたの……?」

「どうしたって……イニア方が……」


 メドリが変なことを聞いてくる。

 私をこんな風にしたのはメドリなのに。


「メドリが……えっちな触り方するから……」

「えっちな……!? してないよ!?」


 メドリが手をぶんぶん振って否定する。

 慌ててるメドリもかわいくて、抱きしめたくなる。


「メドリが私の中に魔力を入れて、くすぐるから……だよ?」


 くすぐるってわけじゃないような気もするけど。

 なんて表現すればいいかわからない。

 舐めるような。撫でるような。包み込むような。握るような。抱きしめるような。

 そんな優しい触れ方をして、私の身体を快楽で侵した。

 

「ごくっ……イニアの顔……とろけてる……」

「そう……?」


 顔に力を入れようとするけど、力が入らない。

 いつのまにか全身に力が入らなくなってる。


「き、キス……は、難しいか……けど、どうしよ……こんなイニア見て理性を保てるわけ……!」

「ちょっとだけ……ちょっとだけでいいから……」


 顔を近づけて、ほんの少しだけのキスをねだる。

 いつのまにか甘えん坊な私がでてきていた。


「……ぅう……ちょっとだけだよ?」

「……うん。ありが、」


 お礼を言おうとする口をメドリの口が塞ぐ。

 快楽が突き抜けて、心が暖まっていくのがわかる。

 本当にほんの少し、ちょっとだけ唇を重ねてただけだけど、気持ちいいキス。


 いつもの、2人きりの時の貪り合うような、求め合うキスとは違う。ただそこにいるってことがわかるだけのキス。

 けど、それが私の心を落ち着かせて。

 いろんなことを忘れさせてくれて。

 メドリの存在を主張して。

 こんなキスもいいかなって……そう思った。

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