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第120話 かならず

「ん……」


 目が覚めたとき思わずまた目を閉じてしまった。白く眩い光で空間が包まれていたから。いつもなら感じるイニアの温もりもないし、優しく私を見つめてくれるイニアもいない。手探りでどこにいるのか探そうとして思い出す。

 もうイニアはいない。少なくとも今は。

 そんな現実を受け止めたくなくて目を背ける。でも、すぐに目を開ける。


 もうそんなふうに蹲っているわけにはいかない。

 何度諦めても不安になっても、安心できて温かいイニアのところに行かなくちゃ……


「起きましたか」

「……エスさん……そういえば私達」


 その前に何か抜け落ちている気がする。

 えっと、たしか……イニアと別れて……


「まずはあなたに謝らなくてはいけません。あなたを無事に帰すと約束したのに危険に晒し、怪我をさせてしまったこと……本当にすいません」


 あぁそうだった……転移機を使うことになってそれで……初めて1人で戦った。それで、負けた。案の定というべきなのかもしれないけれど……私だって頑張ったつもりだったけれど負けた。

 負けて痛くて……冷たくて……怖い、安心なんてない場所にずっといた気がする。その場所に今もいる気がする。


 けど……ずっと蹲ってるわけにはいかない。

 イニアが来てくれるって蹲っていても、きっといつかは来てくれる。多分だけれど……けど、それでも会いにいかないと。イニアに少しでも早く会いたいから。


「それは……もういいよ。私も頑張るから……ぅぇ……っ」

「大丈夫ですか。体調が優れないようでしたら今は寝たほうが」

「う、ううん……大丈夫」


 そう決意しても、やっぱりどうしても心に蔓延る不安は消えなくて、その相反する心が私の思考をぐちゃぐちゃにさせる。思考がぐちゃぐちゃになって、吐き気や震え、異様な重たさ、違和感が再発して、吐きそうになってしまう。


 またこの感覚……いつかも感じたこの感覚。いつかはもう忘れてしまったけれど……多分1人でいるときに感じていた感覚。

 ずっと人生の淵に立っている気がする。気がしていた。一度は落ちてしまったけれど、またこの淵へと帰ってきた気がする。いつ落ちるかもわからないこの場所に。

 けれど今度は落ちるわけにはいかない。イニアと一緒に落ちなくちゃいけない。


「……それより、ここはどこ? どれぐらい離れているの?」

「転移可能な場所の中で1番近くの施設です。北に1300kmほどですね」

「1300……」


 遠い。けど、行かなくちゃ。

 すぐに。どんなことがあるかわからないけれど、今すぐに。

 そう思って立ち上がろうとして気づく。


「あ、あれ……力が……」


 左足に力が入らない。それどころか感覚がない。つねっても、ほんの少しの痛みも感じない。力が入らない私の左足は動くこともなくただそこに横たわっていた。

 布団をのけてみてみても怪我があるようには見えない。回復魔導機で治るのかな……


「動きませんか?」

「う、うん……これ、なんで? 回復魔法……」

「そうですか……これも私のミスです。すいません」

「ぇ……どういうこと?」

「私があなたを治療したときに使ったのは私の時代の治療法です。それがあなたには合わなかった結果だと推測しています」


 エスさんの時代の……というか私、怪我してたんだ……あの、魔導兵器に負けたときかな……? 赤く染まってて、暗くて、冷たくて……そんな記憶しかないけれど……


「治療法って……回復魔法じゃないの?」

「いいえ違います。私もさっき確信したことですが、私の用いた再生治療とあなた方の回復魔法はその根本から違うようです」


 再生治療がなんなのか私にはわからない。私に知ってる医療技術とは肉体の損傷を直す回復魔法と魔力自体を整える様々な薬や魔法だけ。


「私の再生治療は肉体を再生します。けれど魔法使い……あなた方の身体は魔力を介している。その魔力の接続の再生は出来なかったのです」

「そうなんだ……じゃあ回復しないと」


 エスさんの説明はあんまりわからなかったけれど……つまり完全には治ってないってことなのかな。そう思って回復魔導機を探す。

 今寝ている部屋の端にそれは私の荷物と共に置かれていた。取ろうと立ち上がろうとして、自らの足が動かないことを思い出す。


「エスさん、私の荷物取ってくれないかな」

「メドリ。私は回復魔法の行使を推奨しません。今、回復魔法を使えば、肉体のある場所に新たに魔力浸食の完了した足を再生することになります。それは危険です」

「……そうかも、だけど。それじゃ、いつまで経ってもこのままじゃ……それは……」


 困るよ。

 イニアのところに行かないといけないのに。


「ずっとそのままというわけではないでしょう。現在あなたの足は私の作った肉体部分を魔力浸食しています。おそらくそれが完了すれば普段のように動けるようになると推測されます」

「そうなんだ……」


 それならいいのかな……もし歩けれなければ、私はまた何もできないところだった。この小さな決意も無駄になっていた。そうなればきっともう歩こうとは思えなかったと思うし……すぐに動けないのは困るけれど……


「そういえば……どれぐらいかかるの? すぐ治るのかな」

「おそらくですが1年半ほどはかかるかと……速くても1年はかかるでしょう」

「そんなに……?」


 長すぎる。待てない。

 ……片足で動くしかない。

 すぐにでも行動しないといけない。


「私、行くから。エスさんはどうするの?」


 正直言えば一人は怖い。エスさんのことをどれぐらい信じればいいのかはわからないけれど、わがままがいえるなら一緒に来てほしい。でも、エスさんだって幸せになってほしい。私なんかに拘束されるのは良くないから。

 それに一人でも……行かなくちゃいけないことは変わらないから。


「エスさんが来てくれたらうれしいけれど……行きたい場所やしたいことがあるなら気にしないで。ここまで助けてくれただけでも十分だから……」

「メドリ。管理する場所も失い、仲間からは敵だと判断された私の現在目標は、あなた方の助けとなることですよ。すでに外に行くための機体を作成中です」

「そう……ありがとう」


 少し心苦しいけれど、助けてくれるというのならありがたくその善意を受け取ろう。この善意が嘘かもしれないと疑ってしまう自分が嫌だけれど、もしそうでも、今の私には選択肢なんてないんだから。

 歩き続けるって決めたんだから、行かなきゃ。


「ですがメドリ。その機体作成完了までの10日間はここで安静にしていてください。今のあなたの状態に負荷がかかるのは危険すぎます」


 体内の魔力に感覚を向ける。

 メドリの魔力が感じれなくて寂しいことから目を背けて、体内の状態を探る。たしかにいつもより魔力は少ない気がする。けがのこともあるけれど、魔力を消耗しすぎたのかもしれない。


「10日ね……わかった。それ以上は待たないからね」

「はい。必ず彼女たちのもとへと送ります」


 この10日も何もしないわけにはいかない。

 ここがどんな場所かわからないけれど、もっと強くなっておきたい。それに片足で動けるようにも。せめて少しは動けるように。

 できるかわからないけれど……やってみるって決めたから。

 イニアのところに帰るためには何でもやってみるって。

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