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第118話 とぎれた

 変な違和感の残る身体を動かして、通路を進む。途中でチカラが抜けて倒れそうになったり、息ができなくなって視界が真っ暗になったりしたけれど、それでも私は進む。

 イニアとまた会うために。


「……あれ?」


 唐突にずっと流れていた警報音が止む。それに対して疑問に思うと同時に、別の音が流れる。その音はなんというか、何かを言っている気がした。けれどそれは私にはわからない。

 古代語なのかな……? なんて言ってるんだろう。多分ろくな話じゃない気がするけれど。


「メドリ。この施設は残り8分で自爆します。統括管理機構はこの施設を完全に廃棄したようですね」

「そう……それで、間に合うの?」

「おそらく。転移機自体はすぐそこです。急ぎましょう」


 言われたとおりに通路を走り出す。

 息を切らして、胸を痛くさせながら、転移機のある部屋を目指す。その部屋はエスさんの言う通り思ったより近くにあった。


 部屋の中は狭いわけじゃないけれど、広いとはいえない。頑張って詰めても10人も入れないと思う。その中心には円形の魔導機が置かれていた。多分あの円の中に入って転移するんだと思う。


「2分以内に設定を完了させます。近くでお持ちください」

「……ありがと」


 壁に寄りかかって、身体を預ける。白い天井を眺める。

 イニアは今どうしているのかな。1人で寂しくなってるかな。それとも、病気で苦しんでいるのかな。凄く心配だけれど、イニアには助けてくれる人がたくさんいる。

 私なんかとは違って、たくさんの人がイニアを助けてくれる。私なんかがいなくても、きっとイニアは幸せになれる……うぅ、だめだ。イニアがいないとすぐこんなことばかり考えてしまう。


 イニアがいれば……不安になったら、抱きしめてくれるのに。怖くなったら、好きって言ってくれる。私を安心させてくれる。私の唯一の安らぐ場所。

 きっと……私もまだあの場所にいたかった。あの場所で死ねたらいいと思っていたけれど、もう少しだけでもあの場所にいたかった。だから私はあのとき逃げてしまったのかもしれない。


 あのとき逃げたせいで私は今こんなところにいる。それが良かったのか悪かったのかはまだわからない……イニアに会えずに死んだら悪い。イニアに会えればよかったことになると思う。


「怖いな……」


 まだわからないことは怖い。良くなる気がしないから。イニアと一緒にいると安心を失う恐怖があったけれど、今は安心を得れない恐怖がある。


 私はきっと……ずっと何かに怯えている。

 それは和らぐことはあっても、消えはしない。もう私の心に染みついてしまった感情なのかな。イニアといる時はそれが上書きされるような気がするけれど。


「転移機を起動します。起動してから転移まで2分ほどあります。おそらく魔導兵器が来るでしょう。その足止めも私がしますのでご心配なく」

「そう……? じゃあ、えっと、この中に入ればいいの?」


 一瞬エスさんが嘘をついていたらどうしようと思ったけれど、それは仕方ないというか……もう考えていてもどうにもならない。

 あんなに色々してくれたエスさんを疑うなんてとまた少し自分のことが嫌になる。でも……こんな私でも……


「はい。っ……! メドリ!」


 エスさんの焦ったような声と同時に天井が崩れて、小さな魔導兵器が現れる。そいつは入り口を塞ぐように立って、私と対峙した。


「大丈夫です。今、対処を……」


 多分、エスさんは私を助けてくれようとしたんだと思う。けれど、外からは巨大な魔導兵器がぶつかる音が鳴り響き始めた。おそらくエスさんの魔導兵器は食い止められてしまった。


「大丈夫……私が、倒すよ」


 そう、呟く。それと同時に魔導杖に魔力を込めて、魔法領域を展開する。魔導兵器もそれを感知したのか、きゅりきゅりという音を立てて身体を揺らす。


「もうないんでしょ? なら私が戦うしかないよ。防御に徹するから」

「……はい。お願いします」


 小さく息を吐き、杖を構える。

 どこから来るかわからない。怖い。でも、こういう時のために私は杖を持った。私でも戦えるようにこの杖を持った。イニアに心配させないために。一緒に、イニアと一緒に戦いたかったから。

 イニアはすぐに危険場所に行ってしまう。そんなイニアについていきたかったし、心配しないでほしかった。いや……多分、それよりは見捨てられたくなかった。見捨てられるのが怖いから、イニアに気づいてほしくて、一緒にいたいって思ってほしくて、私は力が欲しかった。


 知識もそう。

 パドレアさんが教えてくれた知識は、今の私にいろいろなことを教えてくれる。忘れてしまったことも多いけれど……それでも、重要なところは覚えてると思う。あんまり自信はないけれど。


 あまり自分の記憶に自信がない。というより、自分に自信がないのかな。私はいつだって、私からの期待を裏切ってきた。今度も裏切るんじゃないかと不安で、いつも私は自信がない。裏切って、嫌われるのが怖い。だから、私はいつも不安にさいなまれている。

 その不安が私の判断を鈍らせるから、あまり戦闘には向いていない。ううん……戦闘だけじゃなくて、いろいろなことに私は向いていない。


 だけど、そんな私でもこれから二分はここで耐えなくちゃいけない。

 私の力のすべてを使って、必ずイニアのところに帰る。


「き」


 小さな駆動音が鳴り、魔導兵器の姿が消える。それと同時に、魔法を起動する。

 もちろん姿は見えない。高速移動する魔導兵器が動いてから対処するのは私には無理。けれど、魔導兵器も動くときは魔力を使う。その流れが先に来るから、そこを読んで網を張るように魔法を起動するしかない。


 私の小さな魔力を使って起動した魔法は、空中に電撃を出現させる。

 電撃は私の読み通りに命中し、魔導兵器がその場に落ちる。


 最初の対処は何とかなった……すごく難しい賭けのようなものだったけれど……もし私の魔法起動より魔導兵器が早ければ何もできずに殺されていた。とりあえず勝負にはなる……でもこれで終わりじゃない。


 次に感じたのは魔力の高鳴り。

 魔導兵器の質量兵器。それは魔力で質量と運動量を生成するんじゃなくて、運動量だけを生成し、質量はもとから用意していたものを使う兵器。

 私達の魔法じゃそれは難しい。イチちゃんの魔法と似ているけれど、あの子は特別だから。


 けれど対処は簡単といえば簡単で、飛ばしてくるものを魔法で撃墜すればいい。問題は距離が近すぎて使えないこと。だから、飛ばしてくる前に防御しておかなくちゃいけない。

 周囲に魔力障壁展開しておけば、多分逸らすことぐらいならできる。できるはず。


 魔導兵器の一部が光り、何かが私の周囲で爆発する。

 軽い熱と衝撃で視界が遮られる。けれど、それは私の魔法で攻撃を防げた証拠。


 少しほっとする。

 この魔導兵器が弱くて助かった。

 もう少し強ければ、私はさっきの攻撃で防御を貫通されていた。


 でもこの魔力障壁展開中は電撃が使えない。

 つまりまた魔導兵器が高速移動したら、近づかれる。近づかれたらあとはじり貧になる。だから、私はあの魔導兵器を動かさないようにするしかない。

 もちろん電撃をあてても倒せないから、私ができるのは足止めだけ。

 二分という期間。それだけの時間を稼がなくちゃ……


「っ……!」


 しんどい。緊張する。

 少しでも魔法選択を間違えたら死ぬ。

 呼吸もつらい。

 魔法がうまく起動できなくても死ぬ。

 怖い。


「ぅ」


 思わず唇を噛む。

 手に力がこもる。


 そうしている間にも、魔導兵器は私に近づこうと歩みを進めてくる。そのたびに電撃を当てて、動きを止める。動きが止まってる間に放たれる金属も魔力障壁で防御する。


 けれどそんな選択を何度も当てれるわけがない。

 6度目か7度目で、私は間違えた。

 魔導兵器が電撃を当てても止まらない。今までは電撃を当てれば、多少動きを止めれたし、その間は質量兵器を放っていた。だから次も止まって金属を放つと思ったのに。


「ひゃっ」


 姿が搔き消えたとき、私は選択を間違えたことを知る。けれどもう遅い。私には声を上げることしかできなかった。それすら間に合っていたかわからない。

 張られた魔力障壁は一撃で破壊され、衝撃が私を襲う。思考が危険信号を伝え、冷静な思考力が一気に奪われる。痛みだけが私の中にあった。


「っぁ……! いっ、が、ぅう……!」


 呼吸ができない。痛い。痛い。何も考えれない。

 必死に暗闇から逃れるように目を開ける。

 うっすらとした視界の中にはゆったりと近づいてくる魔導兵器の姿があった。


 それを見たとき、いやきっとすでに私の心は折れていた。

 やっぱり無理だった。イニア。だめだったよ。ごめん。でも、私……私……イニアがいないとなにもできない。助けて、助けてよ……イニア……


 そこで私の思考は途切れた。

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