第116話 とだえる
「メドリ……!」
メドリとの間にその魔導兵器が現れたとき、あらゆる感覚を置いて行って、思考だけが先走っていた。メドリのところに行きたい。メドリを助けたい。その思いだけが私を動かそうとしていた。
身体強化魔法の出力をさらに上げる。今の残存魔力量では多分少ししか持たないけれど、そんなこと今の私には考える余裕はなかった。
身体が宙に浮き、景色を置き去りにして、メドリの元へ到着する。そう思った。今までの感覚ならそうなっていた。
「えっ……」
はずだったのに。私の身体はその場に立ち尽くしていた。
込めていたはずの力は抜け落ちて、その場にしゃがみ込む。
おかしい。なんで……!
息ができない……! 早く、立たないと……動かないと……!
「はぁっ……!」
力が入らない。思考がぼおっとして意識が保てない。
メドリのところに行かないといけないのに。
身体が動かない。こんなことしてる場合じゃないのに。
「イニア!」
メドリの声が聞こえて、自分の周囲に影が落ちていることに気づく。
この影が何かと考えるまでもない。
必死に顔を上げるとそこには魔導兵器が私をのぞき込むように見ていた。
唐突に表れた新たな魔導兵器は、細長い胴体を持っていて、周囲には二門の巨大な魔導砲のようなものを浮かして侍らせている。その魔導砲からはすごく強力な魔力を感じる。私なんかよりもずっと大きな魔力。一度打たれるだけで、あたり一帯は消し飛ぶかもしれない。
そんなものが私を狙っていた。確実にそれがわかった。
けれどかわせない。動けない。
必死に力を込めようとするけれど、私の身体は震えるばかりで動けない。
こんなところで死ぬわけにはいかないのに。
私とメドリをつなぐ杖からは、メドリの動揺がすごくつたわってきていた。そんな気持ちにさせてしまったことがすごく悲しいけれど、同時に私のことをそんなに心配してくれるのがすごくうれしい。そんなことを考えている場合じゃないってわかっているけれど、ついそんなことを思ってしまう。
メドリの電撃が目の前の魔導兵器を襲うけれど、魔導兵器にはほとんど効いていない。セルシアさんの魔法でも。唯一ナナちゃんの魔法なら魔導砲から放たれる攻撃を打ち消せるかもしれないけれど、魔導砲から私まではほんの一瞬しかない。
だから、私が躱すしかない。それなのに……!
魔導砲から感じる高まっていく魔力を感じながら、必死に身体を動かそうとしていた時、またしても地面が割れた。それと同時に、魔導砲から何かが放たれた。
けれど、それは私に当たることはなかった。私は何かに持ち上げられて、宙に浮いていた。
「えっ……?」
私は魔導兵器の上にいた。さっき対峙していた細長い魔導兵器ではなく、球体型の魔導兵器で、球体の一部からでる手を模した部位の上にいた。
困惑が思考を包むけれど、すぐに思い直す。私たちを助ける魔導兵器なんて、ありえる可能性は一つだけ。
「エスさんなの?」
「はい。間に合ってよかったです。セルシア、イニアを頼みます」
「え、えぇ……助かったわ」
エスさんの操る球体は地上付近で落下が止まり、私をおろしてくれる。私も少し力が戻ってきて何とか立って、空中に浮遊するエスさんの背を眺める。
「あの魔導兵器は何とか食い止めます……いえ、すいません。まずいことになりました」
「な、なに?」
またしても地面が揺れて、同じような細長い魔導兵器がさらにもう一機現れる。
「きゃっ!」
「ナナちゃん!」
そいつはメドリとナナちゃんを挟むように出現し、ナナちゃんを攻撃しようとする。あっというまの出来事で、声を上げる暇もなかったけど、そいつの前にも魔導兵器が立ちふさがった。
あれはさっき見たエスさんの魔導兵器……私たちを守ってくれたやつかな。本当に助かった……あのままじゃやられていた。いや……もし私が万全でも勝てていたかはわからない。それぐらい、今目の前にいる細長い魔導兵器から感じる魔力量は多い。
「すぐに片を付けます」
そんな魔導兵器を球体型の魔導兵器は互角に立ち回っている。
高速で多種多様な兵器が現れ、細長い魔導兵器へと着弾する。負けじと魔導砲が放たれる。けれど、魔導砲の一撃は丸い装甲にかすり傷しかつけれない。対して、球体型の攻撃は細い装甲をえぐる。
呆然と眺めているうちに、数回の応酬を経てすぐに破壊してしまった。
「す、すごい……」
「ナナを頼みます」
あっという間にナナちゃんの退路を作ってくれた。あとはメドリ……
「ありがとう!」
「メドリもすぐに」
メドリとナナちゃんを分断するように現れたもう一機の魔導兵器もエスさんが足止めしてくれている。けれど、あっちは球体型より強くないのかまだ倒せていない。といっても、あれを足止めできるだけでも十分強力だけれど……
でもそれは球体型がいないときの話。球体型の魔導兵器も参戦すればすぐにメドリも助かるはず……私が助けれないのが少し心苦しいけれど、メドリが助かるなら些細な事……
私には無理だけれど、エスさんにはできる。そう思った途端、上空から何かが飛来する。それは四足のよくある魔導兵器のように見えた。
「え、い、今……どこから……」
「第一層からです。百三十五式の第一波ですね……恐らく今の私の機体では勝てないでしょう」
「ぇ……え!?」
「メドリのことはなんとしてでも私が助けます。あなた方は先に逃げてください。第一波がきたということはもう猶予がありません」
エスさんのその提案は私には少しも飲めこめないものだった。メドリを危険な場所に置いていくなんて。
でもそれと同時にわかっていた。私がここにいても何もできないことは。
「で、でも……!」
「イニアちゃん! 今私たちがここにいてもできることはないわ!」
「そ、そう……ですけど……」
メドリが離れるのはいや。
私がいることで邪魔になって、エスさんが思うように動けないのはわかってるし、それによってメドリとナナちゃんを助けれないかもしれないのはわかる。でも、離れたくない。
「私は……」
ずっと一緒にいるって約束したのに。離れたくない。少しも。
もし魔法がいつものように使えたら……メドリを助けることぐらいはできたかもしれないのに。でも今の私にはなにもできない。
でも私は……私はだって……メドリを……
「イニア」
その声は小さく、あたりの喧騒にかき消されそうだった。
それでもなぜか私には鮮明に聞こえた。メドリの私を呼ぶ声が。
「先に行って。私もすぐに行くよ」
「メドリ……でも……!」
メドリがどんなことを言うのか私には想像がついた。けれど、私にはそれを言って欲しくなかった。言ったらきっと私は説得されてしまう
「まだ一緒にいたいよ……? それならまた絶対生きて会えるよ。必ず……死ぬときは一緒だからね。一緒じゃないと死にたくない……だからイニアは死んじゃだめだから」
「ぅ……ぁ……」
「また会えるよ。必ず……また会うから」
声が出ない。でも、メドリの声で、言葉で、私の心は決まった。
今は逃げなくちゃいけない。弱い私にはできることはない。
今の私にはエスさんを信じることしかできない。
「大丈夫ですよメドリ。私が必ずメドリを助けます」
「おね……がぃっ……!」
「これに乗ってください」
メドリに背を向ける。
こころが痛い。何かが張り裂けるよな感じがする。全身に幻痛が走る。すごく苦しい。さっきの比じゃない。今にも振り向いて、メドリの元へと走りたくなる。でも、そんなことをしたら、きっと私は死んでしまう。それじゃあメドリと一緒にいれない。
そのまま球体型から出された宙に浮いた魔導車に似た乗り物に乗る。
もうそこで私は限界だった。
病気のことに、欠乏寸前の魔力、そしてメドリが離れているという事実に私は耐えきれなかった。
「ありがとう! メドリお姉ちゃんのことお願いね!」
「はい。出発します」
乗り物が加速し、メドリとの間隔が離れていく。
杖の限界距離を超え、メドリの魔力が感じれなくなったとき、私の意識は途絶えた。




