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第114話 すてられ

「ここですよ。今資料を表示します」

「ありがとう」


 同じような通路を歩き、集合データベースへとつく。ここに来るまでの途中までも何度か魔導機に襲われたけれど、そのたびにエスさんが対処してくれた。きっと私達だけじゃ何もできずにやられたと思われる敵ばかりだったけれど、何事もなく破壊していた。


 集合データベースと呼ばれていた部屋はすごく巨大な演算魔導機が置かれている部屋だった。それも私たちが使っているような物じゃなくて、未知の技術で組まれている。演算魔導機と分かったのだって、第二層とかで似たようなものを見たからで、もしそれを知らなければまったく何かわからなかった。


「でました」


 表示された資料はすべて古代文字で書かれて何も読めない。けれどこれぐらいは想定済み。翻訳機を持ってきた。単語ぐらいならこれでいけるはず。

 もちろんわからない部分もあるけれどなにもしないよりはましだと思う。できれば全部の情報を持って帰りたいけれど、そんな容量はどこにもない。


「これでいいのかな……?」

「もし心配でしたら、また来ていただければ歓迎しますよ」

「はは……そう簡単には来れないんだよね……」


 未開拓領域が危険なのもあるし、この古代施設の魔導兵器も十分強力。私達だけじゃどう頑張ってもここまでは来れなかったと思う。でももし……必要になれば無理をしてでも来ないいけないけど。


「そうなのですね。残念です」


 また、この感じ……声色自体はこれまでと変わらない。それなのに、どうしてこんなにも儚さや寂しさを感じてしまうのかな。


「そういえば……エスさんはどうしてここの魔導機を止めないの? 制御機構、みたいなこと言ってなかったっけ」


 思いついたようなメドリの言葉に確かにと思う。

 古代魔導機は襲ってくるものとばかり思っていたから気づかなかったけれど、ここの魔導機は全部ここの警備用のもののはず……それならここの制御をしていると言っていたエスさんは戦う必要なんてないはずなのに……


「すいませんメドリ。それはできません。私が作り上げた魔導兵器やこの施設のシステムなら私の管理下なのですが、他の魔導兵器は私の管轄ではありません。彼らは地下都市防衛機構の管理下ですので」


 ここにいるのはエスさんだけじゃないんだ……その防衛機構ってのも人工知能なのかな? エスさんはかなり特殊みたいだから、同じような感じかはわからないけれど


「彼にはもう戦争は終了し、攻撃の意思はないとは伝えたのですが、回線を閉じられてしまいました」

「えっと……その、この施設? 都市? を守るならそうしたほうがいいんじゃないの……一応、私達は侵入者といえばそうなんだし……」


 確かに……古代遺物やらなんやらをどんどん取っていってるわけだしね。ゲバニルからは異物よりもこの施設自体の探索を優先とは言われていたし特化魔力の情報のこともあったから、最近はあまり取ったりはしていないけれど。


「そうかも知れません。確かに、この都市に前にいた人達はあなた方とは違います。ですが彼らはもういません。ならば、もはやここは誰のものでもないでしょう」

「エスさんのものじゃないの?」

「私は人工知能であって人ではないですから。それに人がいてこそ、都市と言えると思います」


 そんなものなのかな。エスさんがそれでいいならいいけれど……やっぱり寂しそうに見えてしまう。私がそう思うのはメドリが隣にいるからかもしれない。メドリはさっきから時折エスさんを気にしているような……同情、とは違うけれど……心配といえば良いのかな。

 そう感じているのが伝わってくるから、私にもエスさんが儚く見えるのかもしれない。今にも消えてしまうような。あれだけ強いエスさんにそんな風に感じてしまう。 


 同じような感覚になっているのはメドリだけみたい。ナナちゃんは別の魔導機を介してエスさんと話しているけれど、そんな素振りはないし、後ろを歩くセルシアさんだって何かが引っかかっている様子はない。


 そんなことを考えてる間にも、無機質な通路を進んでいく。


 ここにくるまでの戦闘の跡が残る薄暗い通路をエスさんに先導されながら歩いていく。行きにあれだけ襲ってきた魔導兵器は、影も形もない。

 落ち着いている時に周囲を見ると、いろんな扉があったということに気づく。と言っても、その扉の窓から見える景色はだいたい同じで、上で見た赤色の光に染まってる部屋か何もなさそうな部屋のどちらかだった。


 たまに色々な魔導機の置いてある部屋とかもあったけれど、どんな風に使われるんかはわからない。多分こんな奥深くにあるってことは重要な施設なのかなとは思うけれど。


「ここが昇降機ですね」

「着いた! エスくんはこないの?」

「はい」


 ナナちゃんもエスさんと離れるのは寂しそう。楽しそうにずっと話していたし。たまにちらっと聞こえてくる話には、なんか古代技術の話とか、すごそうな話をたくさんしていた。

 

「じゃあ……仕方ないね! またね!」

「私もまた会えることを祈ってます」

「ありがとう。助かったわ」

「こちらこそ、話せて嬉しかったです」


 ナナちゃんは少し名残惜しそうに、セルシアさんはよくあることのように、エスさんとの別れを済ませていく。すごく助かったし、恩人、というか恩人工知能だけれど、多分ここで別れたらもう会うことはない。

 もし、会うとすれば今回手に入れた情報だけじゃ足りなくてまた来た場合だけれど、その時は多分ゲバニルの力なしで未開拓領域を超えなくちゃいけない。それは難しいし、挑んでもここまで来れるかはわからない。

 だから、もう会うことはないし、会うことはないほうがいい。


「エスさん……その……」


 でも、だからってここまでメドリが別れを渋るのが少し不思議だった。メドリのことを理解できてないのがすごく嫌だけれど、不思議だった。メドリが誰かとの関係が終わったり変わったりするのが苦手なのはわかってるけれど……

 そんなメドリを隣で見守る。何かしてあげたいけれど、私にできるのは手を握ることぐらい。


「どうしたのですか。メドリ」

「いや……うん。あの……えっと……うぅ……」

「焦らなくてもいいよ。大丈夫」


 言葉がのどに詰まってしまうメドリの背を撫でる。緊張しているのか少し息が荒くなっているメドリに落ち着いてほしくて。


「ありがと……あの、ね。外に出てみたら、どう……かな」

「メドリ。それは……」

「勝手なことを言ってるよね。ごめんなさい。で、でも! 寂しいってわかってて独りでいるのは……すごく、しんどい……かなって……外に行ったって、孤独がきえるかはわからない。もっと、強くなるかもしれない……ううん。きっと強くなる」


 そうエスさんへと語りかけるメドリの言葉はすごく実感がこもっていた。メドリ自身の経験からくるものなのかもしれない。

 そんなふうにメドリが誰かへと自分の気持ちを伝えられるのは良いこと……だと思う。メドリの中にその行動をとる勇気が、安心があったってことだから。


「でも……誰かいるかもしれない。ううん。人じゃなくても……何かあるかもしれない……私にこんなこと言う資格はないけれど……外にはここにないものがたくさんあるよ。私は怖くて踏み出せなかった……けど、踏み出してほしいの。エスさんにこのまま、寂しいままでいてほしくない……ごめんなさい。ただの私のわがままで……私はイニアがいてくれただけなのに……」


 良いこと……なのに、どうして。

 どうしてこんなに、私の中の魔力が暴れまわっているのかな。どうしてそれをこんなにも感じているのかな。


 いろいろな感覚が侵食されていく。全身が警報を発して、視界が揺れて、寒気が止まらない。この感覚は、忘れもしない。魔力多動症の……! どうして突然……呼吸が苦しい。まだ、でも弱い……弱い時と同じくらい……まだ立ってられる……我慢してられる……


「メドリ。ありがとう。そうですね……やはり私も」


 その時エスさんの言葉が途切れて、頭の中に鳴り響くような警報音のような大きな音がが流れ出す。この施設全体から。そんな音だけでも吐きそうなのを抑える。


「……すいません。現在、特殊戦闘用魔導兵器百三十五式が接近中です。この都市は廃棄されたようです。皆さんは早く逃げたほうがいいと思われます」


 今にも消えそうな意識で、エスさんの衝撃的な言葉が思考の中へと入ってきた。

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