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第110話 きろくの

「これって……」

「そうね。間違いないわ」


 探索を始めてから2ヶ月が経とうとしている頃、私達はそれを見つけた。それは毎日見ている……どころか毎日使っているもの。


「昇降機ね……」


 多分第三層へと続く昇降機だと思う。

 第二層と第一層を繋ぐ昇降機のある施設も大概大きかったけれど、ここの施設はそれ以上に大きい。昇降機自体はそこまで変わっていないけれど……なんというか武器っぽいものも置いてあるし、警備が厳しい場所だったのかもしれない。


 明かりはぼんやりとだけれど、確かについていて、この施設が生きていることを教えてくれる。この昇降機が動くのかはわからないけれど……


ね! お姉ちゃん!」


 辺りを見ているとナナちゃんが大きな声で私を呼ぶ。声が反響して、ほわんほわんと施設の中を流れる。

 声の方を見れば、ナナちゃんがなにかの板を指差している。


「ここに数字書いてある!」

「数字……?」


 メドリとその板の前に立つ。

 それはもう何度も見た古代の魔導機で、情報を記録するためのもの。貴重といえば貴重だけれど、この情報が何かによって価値が大きく変わってくる。

 イチちゃんとナナちゃんに関係することだったらいいなと思うけれど、多分あまり関係ない。魔導機を操作して、情報をたくさん提示させようとしてみるけれど、ずっと数字だけが記録されている。


「31130507、508……ここら辺は順番になってるね」

「ほんとだ……ずっとこう……ってわけじゃなさそうだね」


 途中で急に50ぐらい飛んだりしている。そしてまた、1ずつ上がっていって、また50飛んで……みたいなのがずっと続いているみたい。

 あ、今度はいきなり8000ぐらい増えた。法則性がありそうだけれど……何を意味しているのかな。ただ数字を記録しているだけ……? でもなんのために……


「うーん。何かわからないね……あ、ここで一気に上がってる」


 それまで5桁目までがころころと変わっていたけれど、突然全く違う数字が出てくる。


「5267……やっぱり意味なんてないのかな」

「これ……日付じゃないかしら」

「え? でも……」

「そうね。今の暦とは違うわ。けれど、ここは古代施設よ。昔の暦のように見えるわね」


 そういわれてみれば確かに……そんな気もする。

 でも、そうなると……前が年だとしたら、20年? 200年? 一気に時間が経過したことになるけれど……


「あの……じゃあ、ここが数字上がってるのって、2000年経ったってことですか?」


 メドリの言葉で認識が違ったことを知る。思ったより、桁が一つ大きかった。2000年……2000年なんて、私がいくら長生きしても足りない。どうしてそんなに長い間空いてしまったのかな……


「そうね。2000……まずいわ! ナナちゃん、こっちへ!」

「え、なになに?」

 

 何かに気づいたセルシアさんが少し遠くでいろんな物を眺めていたナナちゃんを呼び寄せる。


「ど、どうしたんですか?」

「誰かいるわ。私達以外に……」

「え……同じゲバニルの人じゃないんですか?」

「違う……はずよ。もしそうでも、この昇降機のことを報告しないような人であることは間違いないわ」


 ここに来たのは私達が初めてじゃないってこと……? いや、古代には確実に誰か来ていると思うけれど、最近に誰か来ているってことだよね?


「なんでわかるのー?」

「この数字、時間を示しているとしたら、何かの操作に応じて記録されるはずよ。もしそうなら、2000年経ってから誰か操作したってことになるわよね?」

「そう……ですね。それって……!」

「えぇ……2000年後が今なのよ。つまり、誰かがここまで来ているわ……」


 急に2000年も経ったのは、文明が滅んでしまったから……それなら確かに納得できる。でも、私達以外にこの場所に来ている人なんていないはずなのに。


 ここにくるために未開拓領域を抜けて、魔導機のたくさんいる第一層と第二層を突破しないといけない。第一層は私達でもなんとかなったけれど、第二層はゲバニルの討伐部隊がいなければ、無理だったと思う。そんな場所を通って、わざわざこんなところまで何をしに来たのかな。


「思い違いかもしれないし、友好的かもしれないわ。それなら1番良い。でも、もしそうじゃないなら……」

「警戒した方がいい……そういうことですよね」

「そうよ。とりあえずここを抜けて……」

「危ない!」


 ナナちゃんの叫び声とほぼ同時に、ナナちゃんの中の魔力が動いて、魔法が起動する。対象は通路の先から高速で飛翔してきた金属片。そこから魔力が抜けていって、通路に落下し、乾いた音を立てる。


「っ! 魔導機よ! こんな時に……」


 再度金属片が風切り音を立てながら飛来する。

 ナナちゃんの魔法とメドリの電撃で対象できているけれど、無限に対応できるわけじゃない。相手の残弾がわからないし、倒しに行くしかない。


「イニアちゃん待って。ここは逃げましょう……幸い向こうからでも外に出れるはずよ」

「っ……はい」


 それでも一応蠢く魔力を抑えつけて、いつでも魔法を起動できるようにしておく。いつ不測の事態になるかわからない。


 セルシアさんに先導されながら、通路を走る。未だに金属片は飛んできていているけれど、メドリがそのほとんどを打ち落としてくれている。


「メドリお姉ちゃん! 私も!」

「ナナちゃんの魔法のが強力だからね。まだとっておいて? これから何が起こるかわからないから」

「うー……うん! わかった!」

「ありがとう」


 私としてはメドリも自分の魔力を温存してほしい。ナナちゃんがたくさん魔法を使ったらまずいのはわかってるけれど、ナナちゃんじゃなくてもたくさん魔力を使ったら、魔力欠乏症になってしまうのに。

 メドリにはもっと自分を大切にしてほしい。自分を気遣って、自信を持ってほしい。メドリたくさんのことができて、優しくて、すごく素敵な人なんだから。

 でもメドリはそれが苦手だから……だからその分私がメドリを大切にしたい。私がメドリを守ってあげたい。


「何か変だわ……どうして追ってこないのかしら……まさかっ!」


 金属片による追撃が消えて、走るのをやめる。

 一安心かと思ったけれど、セルシアさんの顔は晴れず、怪訝そうに呟き、みるみるうちにその顔が驚愕へと染まっていく。

 

「どうしっひゃっ……!」

「ぇ?」

「メドリ!」


 地面が割れる。落ちる。その瞬間確信した。それと同時に、気づいたら魔法を全開で起動してメドリを抱きしめていた。知覚速度が上昇し、焦る心を抑え、周囲を観察する。


 この地割れは、この通路一帯に起きてる。周囲にまともな足場はない。小さな突起ぐらいならあるけれど、着地しても多分すぐ崩れてしまう。私だけならともかく、メドリもいるから落下を回避するのは難しい。


 セルシアさんはきっと自力でなんとかする。あの人は私が想像してるよりずっと多種多様な魔法を使うし、状況判断もすごく早いから、大丈夫……と思う。


 問題はナナちゃん。ナナちゃんは確実に着地する術がない。

 ナナちゃんへはセルシアさんの方が近い。けれど、セルシアさんがナナちゃんまで助けてくれるほど余裕があるかわからない。


 でも私もメドリに抱きついてるから、ナナちゃんからは離れてしまった。空中には足場がない。無理をすればナナちゃんの元にも行けるけれど、そうなれば着地時の衝撃を打ち消す手段はない。魔法のおかげで私は衝撃にも耐えれるけれど、衝撃が消えるわけじゃないからメドリを守らないといけない。

 でもナナちゃんを見捨てるなんて……


「ナナちゃんは私が!」

 

 迷ってる私にセルシアさんの声が聞こえる。それと同時にセルシアさんの魔力が動いて魔法が起動するのを感じる。その言葉を信じて、私はメドリを助けることに集中する。


 そのまま風の中を落ちていく。

 重力に逆らえず、メドリと抱き合いながら。

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