表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻月編集前  作者: 中沢文人
1/8

序楽曲

序奏曲


地獄を現実に再現しろと言われたら、まさしくこれだろう。周囲は業火に包まれ、噎せ返るような匂いが辺りを充満している。そこらに転がっているのは、麒麟の-、玄武の-、青龍の-、忍者一族最強の存在-の亡骸…そして、原形をとどめていない死体死体死体死体死体-


全てが極光に蹂躙され崩壊していく世界の中で、唯一俺だけが立っていた。地獄のような世界で、俺は最後の能力を使う。



チリリリリリという目覚まし時計の音を消すと共に布団を剥ぐ。もはや習慣づいた行動だ。


「おにいちゃーん!朝だよー」

「はいよー」


呼ばれた瑠璃也はベッドから降り、制服に着替えてから階段を降りる。ダイニングには作ったばかりであろう朝食を食べ終える妹の姿があった。


「おにいちゃん、今日は入学式だよ?遅刻したらだめだからね」

「あぁ、分かってるさ緋音」


一見すると小学生にしか見えないこの少女は黒藤緋音(くろふじあかね)。瑠璃也の双子の妹(瑠璃也は4月2日の出産予定日より早く産まれ、緋音は遅く産まれた。)で、今日で中学3年生だ。しっとりとした艶のある黒髪を綺麗に束ねている髪、スラッとした眉、すこしだけ低い鼻に艶やかな唇と妹ながら自慢の美少女だと思っているのだが、本人は未発達な体型なのを気にしている。そして緋音は、身長や才能を瑠璃也に全部もっていかれたと言うほどだ。


「私は今日、入学式で生徒会の仕事あるから、早めに家を出ないといけないの。先にいってるね」

「あぁ、気をつけてな」


今日は4/8日、入学式の日だ。瑠璃也達は中高一貫校に通っているので中等部の入学式に参加するだけだが、緋音は中等部の生徒会長なので仕事がある。緋音は人望ともに信頼も厚く、瑠璃也は会員ではないがファンクラブまであるほどだ。


「あ、翠沙お姉ちゃん。おはよー」

「緋音ちゃん、おはよう」


玄関口で緋音が瑠璃也の迎えと会った。


「おにいちゃんならもうすぐ出てくるから、家に入ってて~それじゃ、いってきます」

「おう、いってらっしゃい」


緋音は走って通学路を走っていく。その背中を見送ると、隣の少女が話かけてきた。


「あ、るーくんおはよ」

「おはよう、翠沙」


るーくんと言っているのは瑠璃也の幼なじみで彼女の白江翠沙(しろえみさ)だ。サラサラで緋音と同じように艶のある、白金プラチナのように白く光沢のある色のスーパーロングの髪は生糸のようで、束ねずに後ろに垂らしている。整った眉、潤った瞳は宝石のようで、唇も色がいい。それに中学2年の頃よりも大きくなったな、と分かるほどに大きい胸、対象的に華奢でしなやかな肢体はどこからどうみても美少女だ。白江家と黒藤家の関係は、白江家が黒藤財閥の社員という仕事仲間だ。白江家は黒藤財閥内でもトップに近い立場(NO.2)で、しかも家が隣で親同士もよく交流があるので子供も、ましてや同年代の瑠璃也達も交流がない訳がない。


「まだ朝飯を食っている途中なんだ。とりあえず中に入ってくれ」

「あ、うん。お邪魔しまーす」


瑠璃也と翠沙は家が隣同士ということもあって、翠沙はよく瑠璃也の家へ、瑠璃也はよく翠沙の家に行っている。


『朝のニュースです。近年から世界中で一般的に認知されてきた超能力の研究が進められています。世界各国の研究機関は超能力者たちに協力を求め、超能力者の共通点と相違点を統計したり、能力の強弱や違いを調べています。各国合同で建てられた研究所は、各国の技術と研究結果をまとめるとともに不正な行いをしないよう、お互いがお互いを監視している状況にある、と発表されました。次のニュースです。1000年前までは一般的だった純黒髪の染料が開発されました。以前までは純黒の染料は髪に悪影響を及ぼすとして…』


世界中の人々の髪の色や目の色を黒や金以外…赤や緑も生来の特徴として持っている。瑠璃也と緋音も例外ではなく、髪色は黒だが瑠璃也の瞳は紫がかった青…瑠璃色で、緋音の瞳は緋色だ。翠沙の瞳は翡翠色で、瑠璃也達の名前の通りだ。これは偶然ではなく、瑠璃也達が生まれた頃に遡る。生まれた赤子の特徴を真っ先に記録する必要があるのは体重、髪色、目の色である。理由は遺伝子にある。髪色、目の色共に黒ならば、現代の環境で遺伝子にどんな影響を及ぼすのかがわからないからだ。


「さて、朝飯も食い終わったから、そろそろ出るか」

「うん、そうだね。持ち物は無しでいいんだよね」

「あぁ。今日は入学式だけだからな」


瑠璃也は翠沙と一緒に家を出て、鍵を掛け、並んで歩きながらとりとめのない話をして通学路を進んだ。



「おーっす瑠璃也!それに翠沙ちゃんも」

「おう、重三。高1になってもお前は相も変わらずだな」

「おはよう、久和君」


瑠璃也に話しかけたのは久和重三(くわじゅうぞう)、瑠璃也の親友だ。成績は平均よりすこし上、運動神経は抜群。金髪をオールバックにした、すこし切れ長な目をしていて少しヤンさんみたいで、根もすごくいい奴だ。瑠璃也とは小学生からの付き合いで、たびたび馬鹿なことを一緒にしている。夏休みにママチャリで日本1週や、その後徹夜で宿題を終わらせる、無人島で1週間暮らしたり等。中学生でも日本1周なんて出来たのは黒藤家、久和家がそれなりに由緒のある家だからだ。


「はっ、当然だろ?顔ぶれももはやお馴染みだぜ」

「まぁ、そうだな」

「おはようございます。お二人共」

「おう、遠士郎。高校生になったばかりの今日も相変わらず影薄いなぁ」

「む、失礼な。好きで影を薄くしているわけではないです」


今話しかけたのは桐谷遠士郎(きりやとおしろう)、瑠璃也とは中学生からの付き合いだ。見た目は平凡で、平凡すぎて空気になっているレベル。成績も平均、運動神経も平均的だ。影が薄すぎて初めの頃は一瞬でも気を抜くと目の前にいても気づかないくらいだった。特徴がないのが特徴を体現したと言える。


「お、あと少しで9時だな。体育館にいかねぇと」

「ならそろそろ委員長から号令が出るな」

「みんな、体育館にいくわよ」

「ほれきた」


クラス委員長の中村瑞希(なかむらみずき)。これまた委員長の特徴を体現したような容姿で、セミロングの髪の毛を三つ編みにし、メガネを掛け、泣きボクロがあり、すこし切れ長の目だ。しかしメガネを外し、髪型も三つ編みじゃなくすればまぁまぁ可愛いというか綺麗なお姉さんキャラになる、というのは水泳の授業で発覚したことだ。


「そういえば瑠璃也お前、妹が壇上出て挨拶するんだったよな」

「あぁ。そうだな」

「高等部の生徒会長に引けをとらない人気だよなぁお前の妹は」

「えぇ、ファンクラブの人数もいまや500人を突破。神聖なる天使妹キャラと呼ばれていて、高等部でも人気があるそうです。ファンクラブの中でも創始者とよばれる人がいて、会員No.1を持つその創始者はもはや白霧の伝説とも言われているそうです。加えてシングルナンバー、要は会員ナンバーが一桁の人たちの発言力は絶大であると共に、緋音ちゃんに不正な輩を近付かせないために親衛隊も組織したほど緋音ちゃんを守ろうという心を持った方たちです」


うっわ、変な奴に襲われなきゃいんだけどな。


「熱狂的なファンもいたもんだな。お前らも、いざとなったら頼むぞ?」

「あぁ、わかっているさ」

「右に同じですよ」


瑠璃也は久和に、もしも緋音に何かあったら守るように伝えている。桐谷には情報収集を頼んでいて、こうしてたびたび情報をもらっている。情報収集というと、桐谷は情報収集が上手い。その収集手段は決して明かしてくれないが、瑠璃也と久和は桐谷が本気になれば重要人物の首を掴めるというのは知っている。ということにしている。




瑠璃也達は体育館につき、それぞれの決まった席に腰を掛けて新入生を待つ。体育館は今年の新入生に加えて元高校3年の卒業生がいても余裕でスペースがある大きさだ。全校生徒は1200人。1クラス40人×5クラス×3学年×2だ。それがスッポリとはいって、しかもまだあまりがあるのだから体育館の大きさも相当なものだろう。保護者席に教師席と来賓席だってあるのだから。


「新入生の入場です。皆様、大きな拍手でお迎えください」


さてと、始まったか。



おっと、寝ていた。なぜだろう、入学式が始まり、新入生が入場して点呼、起立したあと校歌を歌い終わって祝辞やらなんやらが始まったところから記憶がないぞ。


「新入生が退場します。盛大な拍手をお願いします」


うおっ!?もう終わりか!


『パチパチパチパチパチパチ』


瑠璃也はとりあえず何事も無かったような顔で拍手をしてやり過ごすことにした。


『パチパチパチパチパチパチ』


拍手を終え、教室に戻ろうと席を立つと、久和と桐谷が瑠璃也に話しかけた。


「おい瑠璃也。お前寝てたろ」

「い、いや?そんなことないし?」

「なにキョドってるんですか。相変わらず嘘がお下手で」

「うっせぇ。つまんねぇ話して眠気誘う方が悪いんだ」


暴論だが、ほとんどは同意見だろう。


「まぁ、僕も眠かったですけども」

「あぁ、俺も寝てたしな」

「お前も寝てたのかよ」


ははは、と笑いながら瑠璃也は久和と桐谷とで教室に向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ