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奈落で出会うもの

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!くっそどこまで落ちるんだよこれぇぇぇぇぇ!!」


 パーティー追放の宣告と共に奈落に突き落とされたオレは、悲鳴を上げながらダンジョンの中を落下し続けていた。

 このダンジョン、「竜顎の旋穴(りゅうがく せんけつ)」は地上から地下深くまでを貫く大穴の周りを、巻きつくように広い螺旋階段が延々と続き、途中に踊場がある……そんな構造だ。

 現在、冒険者によって踏破されている階層は54層。推定では100層近くに及ぶのではないか、と噂されている。

 突き落とされてから、既に体感で1分ぐらい経過しているが、未だに底は見えて来ない。


(ヤバいヤバいヤバい!マジで死ぬマジで死ぬマジで死ぬぅっ!!)


 オレがまだこうして五体満足かつ意識を保っていられるのは、地属性魔法の応用である重力干渉魔法を、反射的に自身に掛けて重力加速を軽減しているからだ。

 けど、それにも限界がある。完全に重力を消し去れる程にオレの術の完成度は高くないし、注げる魔力を全開にしてようやくこの状態だ。

 もう後、数十秒もすれば効果は切れてしまう。

 そうなれば、あっという間に意識は吹き飛び体はバラバラ、肉塊となって地底に激突するだろう。


(なんとか壁面に寄れれば……けどっ!)


 最悪なことに、ガイが放った「ゲイルスマッシャー」によって吹き飛ばされたオレは、大穴の中央部分に打ち上げられてしまった。

 吹き飛ばされたのが壁面の近くであれば、多少無茶してでもへばりつくのだが……。

 大穴の中央空間、空中ど真ん中では、杖やアイテムを引っ掻けることも儘ならない。

 ましてや、重力干渉魔法と平行して別の魔法を行使する「多重展開」なんて芸当もオレには出来ない。


 ――絶対絶命。そんな言葉が頭の中を埋め尽くす。


(まだだ……まだなんも掴めてねぇんだよ!)


 物語で語られるような冒険に憧れて冒険者になった。ダンジョンという未知の世界に、自分だけのギフトを手に仲間と挑む……そんな冒険だ。

 なのに、ギフトは不明のままで、仲間に追いつけないどころか裏切られて、それで終わり。

 そんな結末など、受け入れられるわけがない!


「クソォッ!こんな……こんな所でオレはぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ヤケクソ気味に悔しさのまま叫んだ、その時。


 ――ムゥ……喧シイ声ダ。我二挑ム勇士ニシテハ、落チ着キガ足リナイノデハナイカ?


 聞き覚えのない、謎の声が頭の中に響いた。


「えっ!なんか頭ん中に聴こえた!?誰かっ、誰かいるのか!!……いや、いるってなんだよ!?落ちてんだぞ!ダンジョンの奈落だぞ!?幻聴とかじゃねぇよな!?」


 突如として脳内で響いた声に驚きながら、オレは周囲を見回して声の主を探す。


 ――ナンダ?自ラノ意思デ来タノデハナイノカ?


「自分から奈落に飛び込むわけねえっつーの!落とされたんだよ!!」


 ――ダガ、汝ハ契約者(コントラクター)ダ。我ト契リヲ交ワス二足ル資格ガアル。我ノ力ヲ望ムカ?


「はぁっ?コントラ??……とにかくっ、誰だか何だか知らねぇけどなんでも良い!助けてくれぇっ!!」


 こんな死の瀬戸際という緊迫した状況なのに、頭に響く厳かな声は、どこかゆったりとした口調だ。

 だが、助かるならなんでも良い。そう思って恥も外聞もなく叫んだ。


 ――ヨカロウ。汝ノ求メニ応ジヨウデハナイカ!!


 その声が脳内で響いた瞬間、自分が落ちゆく先である奈落の底から「グォォォォォォォォォォッ!!」と、ビリビリと空気を震わす猛々しい咆哮が響いた。

 思わず息が詰まる程の圧倒的存在感。とてつもないナニカが、急速に近づいて来るのを肌で感じる。


(!?!?……なんだよ、この圧迫感!ヤベェ!なんか、すげぇもんが来る……!!)


 そう背筋が震えた、次の刹那。オレの視界を真下から飛翔してきた巨大なナニカが通りぎた!

 真上に感じる存在感と、自身を覆う巨大な影。頭上を見上げた俺の瞳に映ったものは。


 視界を殆ど埋める、岩壁と見紛うばかりの大きすぎるゴツゴツとした、けれど美しい白銀の体躯。

 全体を見ようと眼を凝らせば、鋭く分厚い爪、その巨体に見合う雄々しく広げられた大翼、大樹もかくや言わんばかりの太い足、ギラリと生え揃った刃のごとき牙を鳴らす凶悪な顎、そして宝石にも勝る輝きで煌々と光る蒼氷色(アイスブルー)の瞳。

 まさしく、物語の中で謳われる姿の巨竜(ドラゴン)だ。


(これが、ドラゴン……!?デケェ!こんなすげぇドラゴン、見たことねぇぞ……!!)


 眼前に佇む巨大すぎるドラゴンは、中級以上のダンジョンに生息する翼竜(ワイバーン)属性竜(エレメント・ドラゴン)の様な一般的なドラゴンとは比べ物にならない、絶対的上位種……伝説上の存在とされていた古皇竜(レジェンド・ドラゴン)だった。




 数秒だが、現実とは思えない神秘的光景に自分の置かれた状況も忘れて見惚れていると、鋭い爪を備えた巨腕がこちらに向かって伸ばされる。

 すわ握りつぶされるか!?と思わず目をつむってしまったが、訪れた衝撃は予想に反して弱かった。

 チョン、という擬音が聴こえるような軽さで胴体を摘み上げられたかと思うと、次の瞬間にはフワリとその頭上に乗せられていた。


(……え?オレ、ドラゴンの頭に乗ってる……??マジで!?)


 続け様に起こる非現実的な体験に、頭は混乱しきりだ。

 すると、先程と同じ声が頭の中に響いた。


 ――ドウダ人間ヨ。我ノ乗リ心地ハ?


「えっ?あっ、はい、最高です?なんかもう色々凄ぇっつーか……」


 その厳かな口調からは想像出来ない軽すぎる問い掛けに、つい間の抜けた返答をしてしまう。


 ――人間ナド乗セタノハ千年近ク前ダッタガ……。フッ……当然デアルナ。


 ドヤァッと言わんばかりに喜色の込もった自慢げなその声に、毒気が抜かれてしまう。


(えぇー……??なんかめっちゃ嬉しそうなんですけど!?)


 千年近く前だとかなんとか言ってるし、もしかして寂しかったんだろうか?お喋り出来る相手に飢えていた??


(いやいや、寂しがり屋なドラゴンってなんだよ!?)


 あまりにもアレ過ぎる予想が頭に浮かび、とっさに否定する。


 ――ツイタゾ、人間ヨ。


 と、そうアレコレ考えている間に、地下に着いたらしい。

 こちらを気遣ったようにゆっくりと下げられた頭から、慎重に地面に降りる。

 そして周囲を見渡したオレの前に広がる光景は、今まで目にしたことが無い、幻想的な場所だった。


(ここが、ダンジョン最奥部!)


 奈落の底であるダンジョン最奥……そこは地下深くとは思えないほど広く、明るかった。

 今まさに降りてきた、地上から繋がる大穴のある天井は高く、見渡せる横の空間は広い。

 そして、大広間とでも呼ぶべきこの空間を照らしているのは、生い茂るように壁や天井から突き出している、淡い蒼光を放つ氷刃の如き結晶だ。


「これ……魔力結晶か!」


 魔力結晶は、文字通り高純度の魔力が結晶化したもので、魔力濃度が濃い上級ダンジョンのような場所に生まれる希少な鉱物。

 そして魔力濃度が濃い場所には、その原因となる強力な魔力を発するモンスターがいることが殆どだ。

 つまり、辺り一帯を照らす程に魔力結晶が生い茂っているこの場所には、それだけ強力なモンスターが住み着いているということ。当然それは――


「あんたが、このダンジョンの主……だよな?」


 ――然リ。我コソガコノ地ヲ統ベル主、古皇竜(レジェンド・ドラゴン)『ファイヴェルグ』デアル。


 振り返った先にいる巨大なドラゴンに問い掛ければ、返ってきたのはわかりきった答えと、雄々しい名乗り。

 まぁ当然だ。奈落の底から飛翔してきたレジェンドドラゴン。それがダンジョンボスでないわけがない。

 けれど、疑問はたくさんある。そして一番の疑問は。


「なんでオレを助けたんだ??」



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