神様
「…………キャー!!? ナ、ナツ!! なんか出てき……キャーーー!!!?」
美味しいビーフシチューを食べたあとは、ハナお待ちかねのロードショーが始まった。
怖いものが余程苦手らしく、指の隙間から鑑賞している。
十年程前に話題になったB級ホラー映画。
楽しみにしていたとは思えない反応だけどな……
「もしこの街にゾンビが出たらどうしよう……」
「逃げて逃げて……駄目だったら一緒にゾンビになろっか」
「ゾンビじゃなくても、一緒にいてくれる?」
鼻と鼻が付きそうなくらいハナは近づいている。その青い瞳に吸い込まれてしまいそう。
「ハ、ハナ……?」
「いてくれる?」
「……うん、いるよ」
「ナツ……」
おでこ同士をくっつけて、怖いのかハナは目を瞑っている。
「映画見ないの?」
「うん……怖いもん」
「……一緒にいるから。見たかったんでしょ?」
小さく頷くと、そのまま横目でチラチラとテレビを見始めた。そんなハナが可愛くて、映画そっちのけで見入ってしまう。
無事映画が終わり、エンドロールが流れる。
この曲って……
「この曲が目当てで見たかったの。凄く大好きな曲なのに……さっきナツが弾いてくれた方が好き」
もう一度ミュージシャンにチャレンジしてみようかな。
遅すぎる事はない、今が一番若いのだから。
……今は若すぎるか。
◇ ◇ ◇ ◇
「ナツ、怖いからくっついて寝よ?」
「う、うん……」
論理的に……どうなのだろうか……
神様、俺はどうすれば……
【そなたは今JC。何も臆する事は無い】
神様!!
でも、俺の中身は……
【手を繋ぎ、風呂に入って抱きしめて。今更何を言うか!!】
五・七・五で無駄に語感がいい。流石は神様……
【今はただ目の前の少女に集中しなさい】
神様……
【えちちな展開、頼むよ】
ろくでもない神だな。
「ナツ? 大丈夫?」
「う、うん。ごめん……」
さっきの声はなんだったのだろう……心の声にしては独立し過ぎていたし……
ハナと向き合ってゼロ距離になる。
柔らかい感触と共に、ハナの匂いで満たされる。
「ふふっ、ナツの匂いがいっぱいする」
自分の事なのか何なのか、わけが分からなくなってくる。一体どうしてこんな事になったのか……少し落ち着いて考えよう。
そういえば……クラスの皆が余所余所しかった。あれは明らかに夏ちゃんに対するものだ。
夏ちゃんの家の事も気になる。
夏ちゃん以外の人がいた形跡はなかったけど、平屋のあの家に一人で暮らしていたのかな?
いや……この歳で一人で暮らすか?
もっと調べなきゃいけない事が多い──
「考え事?」
「……うん、私の事をもっと調べないとなって思って」
「……調べなきゃ駄目?」
「えっ?」
「そのままでも……今のナツがいなくなっちゃうのは私イヤ」
「ハナ……」
「なんて、ワガママだよね。早く記憶が戻るといいね、ナツ」
俺は………
駄目だ、俺には……
【何を悩んどる】
神様……俺はどうすれば?
【分かっておるのだろう? ならばワシの言う事はお主の考えと同じだ】
……
【後悔するなら、やってから後悔しなさい。今でも後悔している事があるだろう?】
でも……
【二回目の人生、今度はやり切るのだ。結果は後からついてくる】
神様、ありがとう。
俺、やってみるよ。
【うむ。ではえちちな展開、いってみようか】
コイツ最低だな。
「……このままでいいのかな。私もハナと離れたくないから」
「ナツ……」
「友達っていいね。こんな気持ち初めてだよ。ありがとう、ハナ」
「……」
ハナは何も言わずにおでこ同士を重ね合わせてきた。
目と目が合う。
その瞳に湧いてはいけない感情が湧いてしまいそうだったので目を閉じた。
その行為に勘違いさせてしまったのか、それは定かではないが……
唇に柔らかな何かが触れた。
驚いて目を開けると……暗い部屋でも分かる程、顔を赤らめたハナがいた。