番犬
「それでね、ナツが──」
「ハッハッハ、その後どうなったんだい?」
おじいちゃんの家で近況報告。
ここに来ると、なんだか心が和らいで……
まるで本当の実家にいる感覚がする。
いや、実家だよな?ん?あれ?
そういえば……普段は人がたくさんいるけど、今日は何故か人影が殆ど見えない。
「おじいちゃん、どうして今日は人がいないの?」
「ナッチ気が付いた? 今日から夏休みなんだよ」
「えっ? 極道にも夏休みってあるの!?」
「働き方改革ってやつよ。なんでもメリハリが大事だからね」
ブラックなのかホワイトなのか。
【やってる事は真っ黒だよね】
やめーや。
「それにしても……ナッチ、イイ顔になってきたね」
「そ、そうかな?」
「なにかキッカケがあったのかい?」
「キッカケっていうのかな……この前──」
◇ ◇ ◇ ◇
「そうか、思い出してしまったか……」
目を閉じると広がる記憶。
いつまでもこびりつく血の匂い。
声にならない叫び声。
自然と手足が震えてくる。
それを抑えるようにハナが優しく手を握ると……数滴涙が流れ、心が落ち着いてきた。
「……ナッチ、人ってのはね、どうやったって一人じゃ生きていけないものなんだ。いつしか限界がくる。ハナちゃん、ナッチと仲良くね」
「はーい♪」
軽く聞こえる返事だけど、誰よりも私の事を考えてくれている。
あれ……?なんだか違和感があるような……
「ハッハッハ、いいなぁ青春で。なぁ、フジ」
「……」
「フジ、どうした?」
「すみません、少々考え事をしていまして……」
フジさんはどこか上の空。
らしくないっていうか、いつもは獲物を狩る野獣みたいな雰囲気だけど……
「ナッチ、蒼一達の事も思い出したのかい?」
「蒼一?」
「そうか、まだか。いつか思い出すだろうが……ナッチの両親。父は蒼一、母は若葉。明日はお盆、二人の墓に行ってきたらどうかな? 勿論無理はして欲しくないが」
両親……二人の墓。
やっぱりこの世にはいないのか……
顔が歪むほど、胸が締め付けられる。
蒼一……若葉……
「フジ、二人を家まで送ってやってくれ。二人とも、明日フジが迎えに行くからね」
「うん分かった。おじいちゃん、暑いから体調管理しっかりしてね。また来るから」
「ナッチ……おじいちゃん感激」
涙を流して喜ぶおじいちゃん。
唯一の家族、少しは孝行出来てるかな?
「あははっ、大げさなんだから」
「ハッハッハ…………フジ、ネズミが四匹彷徨いてる。二度と近づかないようにしておけ。二人に何かあったら……分かってるな?」
「大丈夫です。三度目はありませんから」
「だろうな。頼むぞ」
何やら物騒な予感。
何事もなければいいんだけど……
◇ ◇ ◇ ◇
今時のヤクザはワンボックスカーが主流らしい。
窓から見える景色は歪んで見えるけど、これって防弾ガラス……?
明日のお墓参り……お線香とお花を買っていかないとな。
狭い路地に入ると、前方に車が横向きで道を塞ぐように止まっている。
「……お嬢様、車の中で待っていて下さい。ネズミ駆除をしてきます」
「フジさん、その……」
「大丈夫ですよ。お嬢様の笑顔は私が守りますから」
「わー……ナツ、まるで映画みたいだね」
肝が座っているのか、状況を楽しんでいるハナ。
後方からも車が来て、私たちの車は挟み撃ち。
二人ずつ乗っているみたいだから、合わせて四人。
四対一か…………どうすればいい?
下手に動けばフジさんも危険に……
「ハナ、万が一弾が飛んでくると危ないから頭を伏せてよう」
「フジさんを見てようよ」
「でも……」
「あの人、ナツの事好きだよ」
「えっ!?」
「ナツはそういうの鈍いもんね。私は分かるよ。私だってナツが好きなんだから」
「そ、そうなのかな……?」
何やら言い争っている。
耳をすませると、辛うじてフジさんの声が聞き取れた。
「貴様らァ!!! 何しとるか分かってんのかァ!!!」
車窓越しでも、その凄まじい威圧感が伝わってくる。
でも……みんな銃を持っているのに、フジさんは見たところ素手だ。
「こんな所で銃なんて撃ったら警察来ちゃうよね」
「……銃の先にサプレッサーっていう音を抑えるやつがついてるから、何発もやらなきゃ通報されないんじゃないかな」
「へぇ……ナツ物知り……あっ、フジさん危ない!!」
壁を背に四人に囲まれている。
瞬きをしてる間に、フジさんは一人を殴り倒し、引き金を引く前にしゃがみ込んだ。
そのまま低空で回し蹴りをかまし、二人目を倒す。
倒れ込んだ相手の頭を踏み潰し叫びながら残り二人もボコボコにしている。
怖ぇ…………
車内の私達と目が合った瞬間冷静な目つきに戻り、小走りで来て車のドアを開けた。
「お嬢様、ハナ様、お怪我はありませんか?」
「うん、バッチリ。守ってくれてありがと」
「いえ、その……仕事ですから」
いつもの仏頂面とは程遠い、人間味のある照れた表情のフジさん。
直ぐ様強面に戻り、首を横に振っている。
「…………いえ、仕事など関係なく、お守りします。二回、お嬢様は心を痛まれました。一回目はご学友。そして二回目は……御両親。私は死ぬ程後悔し……自害しようとした所を源龍様に何度も止められました。…………今度こそ──」
その時気絶していた男が後ろから発砲してきた。
振り向かずに頭を振り弾丸を避けるフジさん。
落ちていた銃で背を向けたまま撃ち抜く。
「お嬢様が取り戻した笑顔、今度こそお守りします。この命尽きるまで」
夕焼けを背に、少しはにかみながら笑うフジさん。
応えられはしないけれど、でも……そう思っていると、ハナも同じことを考えていたのか、微笑みながら頷いてくれた。
感謝を込めて、両手で握手。
「ありがとう、フジさん。カッコ良かったよ」
「お、お嬢様……」
鼻血を垂らして困惑している。
顔に似合わずうぶらしい。
「はいお終い。フジさん、ナツは私の恋人なんだからね?」
見せびらかすようにハナがキスをしてきて……
照れ笑いをすると、フジさんは私たちを見守るように優しく微笑んでいた。




