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第六話 手がかり

 俺たちは入口にいた門番の男に礼を言い、屋敷を出た。ゆっくりとした足取りで元来た道を歩いていく。


「やはり簡単に解決とはいかなかったな」


「ええ、そうね。でも、収穫はあったわ。あなたのおかげでね」


 アリエスは口元を緩め、からかうような眼差しを向けてくる。おそらく俺を褒めているような言葉だがその実はもちろんお前も分かっているよなという挑発のような物だろうと俺は考える。その安い挑発に乗るのは些か癪だったが張り合った方が今後もやる気が持続するだろう。


 俺も挑戦的な笑みを浮かべ、当然と言った様子で少女を見下ろす。


「俺がこの街に入るとき金を払って強引に入ることで俺たちの正体は知られていないはずだったが領主は明らかに俺たちの存在を知っていた。とゆうことはあの領主はこの事件の黒幕で俺たちを何故か誘い込んだと考えられる。まあ、まだ他の人間があの領主に罪を被せようとしている可能性もなくはないが今のところは前者の可能性が濃厚だろうな」


 俺が淀みなく答えると少女は少しつまらなさそうに口を尖らせる。どうやら俺の答えとアリエスの考えはほぼ同じものだったのだろう。


「そうね。でも、この判断を下すには情報が圧倒的に足りないわ」


「あの屋敷の人間の記憶は読まなかったのか?」


「もちろん読んだわよ。部屋から出るときに執事の人の記憶をね。でも、一瞬だったから断片的にしか読み取れなかった。それにこの事件に関連するようなものは見当たらなかったわ」


「完全に行き詰っている気がするがこれからどうする?」


 俺には一応腹案はあったが先ほど試された仕返しと言わんばかりにアリエスに何気ない顔で聞いた。アリエスは腕を組み、瞑目して難し気な顔をする。だが、すぐに思い出したように目を勢いよく開いた。


「レンリのところに行くわよ。もちろん、ただ会いに行くわけじゃないわ。あの人を紹介してもらうの」


 アリエスの言わんとしていることは俺も分かっていた。グランツ商会の会長をから情報を得るという手段を。俺が二番目に思い付いたこの街での唯一のつてであり、それはもしかしたらあっけなくこの事件を解決できるかもしれないほどの好カードだ。だが、だからこそわずかな懸念が頭をかすめる。これもまだ見ぬだれかの掌の上にいるのではないのかという憂いが。


「アリエスだがそれは……」


「分かってる。この街の二大商会の頭ともなれば私たちが情報を得る手段として彼を訪ねようとすることは予測されている可能性が高いことは分かってるわ。でも、正直正攻法で攻めるには相手が想定しうる行動をとるしかないわ。だけどそんなことは些細なことでしかないでしょ?」


 アリエスのその勝気な笑みは俺のわずかな不安を溶かすには十分だった。信頼という眩い光。人の心も記憶ものぞけるという力を持ち、人から疎まれようとも失われない確固たる信念。それは俺にとって持ちえない物であり羨んでやまないものであった。


 だが、その温かい光に照らされることで俺は自分の中にある昏い昏い影に気づき自嘲じみた感傷に浸る。過去から延びる赤く塗れた真っ黒な手をいまだに振り払えていないのだろうと自覚する。しかし、今は前を向かなければと俺は思考を打ち切りアリエスに笑い返す。その信頼に応えるために。


「そうだな。俺が神経質になりすぎていたようだ。例え何があっても俺たちが何とかできないことはないだろう」


 その答えに満足したのか俺の背中を思い切り叩く。アリエスの細腕では俺の屈強な肉体に大して衝撃は伝わらないが大事なものは伝わっていた。


「よし、それじゃあ急ぐわよ。さっさとこの仕事を終わらせて気持ちよく寝たいわ」


 アリエスはそう言って小走りで道を駆けていく。俺もその後に続き走り出した。

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