エピローグ
これで完結となります。読んでくれた皆さま今までありがとうございました。
あれから一月の時が流れた。俺たちはいつも通りそれぞれに任務に勤しんでいる。俺は魔物や凶悪犯の討伐や捕縛、アリエスは送られてきた罪人の記憶の洗い出しを行っている。
俺はいつものように任務をこなし、報告書を提出する。日の光が差し込む廊下を抜け、長い螺旋階段を上って自室へと帰って来た。
すると、部屋の扉が若干空いてるのが目に入った。既視感を覚えながら扉を開けると自分の部屋であるかのように寛ぐ少女がいた。
「おかえりなさい、シン。紅茶を頂いているわ」
「……またか」
俺は頭を押さえてため息をつく。
「そんな反応しなくてもいいでしょ。最近忙しくて会えてなかったから会いに来てあげたのにその態度はないんじゃない」
「……本当にそれだけならな」
図星を突かれたのかアリエスはびくりと体を震わせた。
「流石ね。私の心を読んでいるかのような的確な指摘だわ」
「ただ慣れただけだ。このパターンもう何回目だと思ってる」
アリエスはわざとらしく考えているふりをしている。
「うーん、覚えてないわね」
その仕草に若干の苛立ちを覚えるがこれも慣れてしまったのか怒るような気力は湧いてこない。アリエスはパンと手を叩き話を無理やり進める。
「さて、前振りはこれくらいでいいでしょ。仕事の話をしましょう」
少女は開き直って輝かしい笑顔を浮かべている。
「……それで今回はどこに行くんだ?」
「聞いて驚きなさい。今回はかなりの遠出よ。隣国のガレオン帝国まで足を運ぶわ」
俺はその発言に思わず目を見開く。
「ちょっと待て。流石にそれは不味いだろ。お前が長期間ここを開けると罪人の検分が滞るぞ」
アリエスは待ってましたとばかりに嫌らしい笑みを浮かべた。
「心配する必要はないわ。今は代わりの人材がいるもの」
「……まさかレンリのことか?」
「そうよ。彼がいれば先に裁きを加えて生きていれば絶対服従の制約でしゃべらせればいいし、死んでもあとから確認出来るわ」
「それはいいのか?」
「いいわよ。木っ端な犯罪者たちに時間をかけるのも馬鹿らしいでしょ」
アリエスは美しい金色の髪を手で払い、靡かせる。
「まあ、そうなのだが」
俺は腹落ちしない微妙な感情を感じつつも、彼女の理性的な判断も十分理解していた。
「さあ、文句を言ってないで行くわよ。もう迎えは来ているの」
アリエスは俺の手を引いて外へと連れ出してく。またかと憂鬱な気分を味わいつつも俺はこの日常を楽しんでいるのかもしれない。
俺は負の感情を振り切り、顔を上げる。結局のところ俺は俺の役割を淡々とこなすしかないのだから。
アストレアの……いや、神の天秤が傾くままに。