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第四十一話 正体

俺はグランツ商会の塔へと走った。その速度は行よりもかなり落ちている。左肺を貫かれ、その傷口も塞がっていないため今もなお血が滲みだしているからだ。応急処置はしたが万全とは程遠い。流石は<蠍>に拠点任されていただけはある。満足げな顔で逝った男へ今更ながら称賛の言葉を送る。


 三十分ほどかけてやっと俺はスタート地点に戻ってきていた。正面の入口から中に入っていく。まだ、招待客たちとの話し合いは続いているのかエントランスは人っ子一人いない。俺は仕方なく上層階への階段へと足を運ぶ。穴が開いている左胸を抑えながら階段を上っていく。上る衝撃で激痛が走るが気にせず淡々と歩を進める。しばらく上ると見覚えのある階層に辿り着いた。会長室がある階だ。俺は長い廊下を渡り部屋の扉をこんこんとノックする。


 だが、返事はない。仕方なく俺は扉を開く。扉には鍵はかかっておらずすんなりと開いた。中に人はいなかったがこれ見よがしにテーブルの上に一枚の紙が置いてあるのが見える。ゆっくりとテーブルに近づきその紙を取り上げる。そこには『聖女は預かった。返してほしければ地下室までこい』そう書いてあり、その下には地下室への行き方が描かれていた。俺は傷ついた体に鞭を打ってまた一階までゆっくりと下りていく。


 エントランスまで降りると俺は指示通りにカウンターの中に入り、右奥の部屋へと向かう。厚い扉を開けるとそこは殺風景な部屋だった。物は一切なく床に四角い扉のような物だけがある。俺はそれの取っ手に手を掛け力いっぱい持ち上げる。力んだせいか胸の傷からじんわりと血が流れだすのを感じる。


 現れた階段を下りていく。肌に触れる空気は冷たく、周りはろくな明かりもなく薄暗い。こつこつと響く反響音が鼓膜を刺激する。三十秒ほど階段を下りるとそこにはそこそこ広い空間が広がっていた。薄暗いため周りがよく見えない。だが、それを察したように眩い光が辺りを照らし出した。あまりの光量に思わず目を細める。目が慣れると真正面に鎖でつながれたアリエスの姿と複数人の顔に包帯をのような布を巻いた人たち、それと一人の少年の姿が目に入る目に映る。


「ようこそ、ユウさん。いや、救世機関所属の<灰の勇者>、それともシン・アッシュクラウンって言った方がいいかな?」


「……本当にお前だったとはな。レンリ」


「本当?もしかしてグラゼルさんがそう言ったのかな。やっぱりあの人にはバレてたか。流石は<蠍>の中でもリーダー格の人ですね」


 グラゼルという名前には聞き覚えはないがおそらく俺が戦ったあの男のことを言っているのだろう。レンリは正体がバレていたと知ってもけらけらと笑っている。その無邪気に見える笑みが今は不気味だ。


「二つ確認したい」


「確認ですか?どうぞご自由に聞いてください。今は気分がいいですから何でも答えてあげますよ」


「一つ目の質問だ。アリエスは生きているのか?」


 本当は生きていることは分かっている。だが、レンリがアリエスを殺す気があるのかは確認せねばならない。


「もちろんです。彼女は殺すよりも利用価値がありますから」


「そうか。それは安心だ」


 俺は大きく息を吐き、胸を撫でおろす。彼はアリエスの価値というものをよく理解しているようだ。これで殺されることはまずないだろう。


「では、二つ目の質問だ。どこからがお前のシナリオだったんだ?こうなることはお前の狙いどうりなんだろ?」


「その通りですよ。すべて僕の思惑通りです。でも。少しあなたは勘違いをしていると思いますよ」


「勘違い?」


「ええ、だってどこまで狙い通りだって聞きましたよね?どこまでも何も最初から………あなたたちが街を訪れた時、いやあなたがあの村で亡者もどきを始末したところからすべてが僕の計画なんですから」


 

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