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第三十六話 襲撃

 硬直する周りをよそに俺は謎の人物に向かって走り出す。この人物からは得体のしれない圧力を感じる。この感じはスラムの<蠍>の拠点で感じたプレッシャーに似ている。俺が手に蒼い炎を出し、放とうとした瞬間俺が近づいてきたことに困惑している領主を蹴り飛ばす。領主の体は壁にたたきつけられ鈍い音が響く。その音に会場の注目が集まり悲鳴が上がる。客たちは出入り口に殺到していく。


 だが、俺は一切の動揺なく炎の渦を発生させる。その男は素早い動きで炎を躱しステージ上まで跳んでいく。そして、黒い影のようなものがステージの床を覆う。すると、そこから謎の人物と同じ格好をしたやつらが湧きだす。その数はおよそ三十ほど、これを俺一人で処理するのはかなりきつい。


「お手伝いいたしますよ」


「いいのか?ハクヨウのそばに居なくて」


 声をかけてきたのはハクヨウの御付きの男、ヒイラギだった。


「ご心配なく。ハクヨウ様にはツバキがついています。それに会場の警備をしている人たちも動き出したようです。あなたはあの軍勢を呼び出した男をお願いします。……見分けがつけばですが」


 彼の言う通り見た目は全員が変わらない。このまま好き勝手動かれれば確実に見失うだろう。だが、判別する方法はある。


「大丈夫。見分ける方法はある。あいつらが顔に巻いてる包帯みたいな布に焦げ跡がついてるのがリーダーだ。さっきの攻防で偶然ついた」


 さっき改めてやつの顔を見たら右ほおの部分当たりの布が黒く変色しているのに気づいたのだ。


「流石ですね。ではやつはお願いしますね」


 だが、こちらの動きを待ってくれるほど相手も甘くなく呼び出した人間が一斉に散開していく。四方八方に散った奴らが無差別に会場の人間を狙っていく。だが、俺は散らばった奴らには目もくれずステージ上に残った首領格の人間に真っ直ぐに向かっていく。別にヒイラギの言を信頼しているわけではない。単純な戦力計算と人の配置を計算しただけだ。現状一般客は出入り口にいるためステージとは真逆の位置にいる。そして、そこには避難誘導している警護の人間もいるはずだ。加えてこの会場にいる全戦力は首領を覗けば勝っている。ならばそうそう死者は出ないだろうと思った、それだけだった。


 俺は敵との距離を詰めつつも右手に蒼い炎ためる。三人ほど散開した人間が俺を包囲し、飛び道具を放る。腰の剣を抜き、体を捻りながらそれを弾き飛ばしつつ細く伸ばした蒼い炎を剣のように振り回す。三人の頭を焼き切り首のない三つの死体が壊れた人形のように落ちてくる。


 首領らしき男は死んだ仲間に目もくれず俺に突っ込んでくる。右手にはナイフを持ち、物凄い速さで距離を詰めてくる。だが、それは俺にとっても好都合。前方の範囲に絞り蒼い炎を噴出する。ステージと俺の間にあったすべての物が跡形もなく燃えていく。仕留めたかと一瞬意識が弛緩したときを狙っていたのか背後にいきなりあの男が現れる。俺はその突然の出現に対応できず左肩をナイフで貫かれる。


 久しく感じていなかった焼けるような痛みが広がっていく。俺は歯を食いしばり右手で目の前の包帯男を殴りつける。鋭い反撃に対応できなかったのか男はごろごろと壁際まで転がっていく。だが、何事もなかったかのように立ち上がる。奴の足元が黒く染まり、そこから黒く鋭利な何かが真っ直ぐ俺に向かってくる。俺は右手に握った剣を振るうが切断できない。二本、三本とその黒い何かの数も増えていき徐々に裂傷を受け始める。


(やるしかないな)


 俺は覚悟を決め、もう一度大火力を目の前に放つ。普通なら不可避の炎を奔流。だが、奴は躱してくる。俺はそれに備え背後を振り向く。案の定奴の姿はそこにあった。相手も読まれているのを承知でここにいるはず。相打ち覚悟の攻撃が来るのは分かっている。だからこそ俺はその攻撃に突っ込み刺されて使い物にならない左腕でもう一度刺突を受けた。一瞬動揺したのか相手の動きが鈍る。俺はその瞬間を見逃さず右手の剣を一閃させる。切っ先が左わき腹を捉え赤い血が舞う。赤く塗れた剣先を見ながら俺は笑う。


 謎の人物は外套で隠れた部分から球状の何かを取り出した。警戒心を高め、その物体を眺めているとそれを真上に投げた。それは勢いよく弾け眩い閃光を周りにまき散らした。


(閃光弾か!)


 俺は蒼い炎でがっちりと周りを固め迎撃できるように備えていたが一向に向かってくる音は聞こえてこない。寧ろ足音が遠ざかっているのを感じる。


(逃げるつもりか……)


 光が晴れ、ほんの少し見えた光景は黒く染まった床に十人ほどの襲撃者たちが沈んでいく姿だった。

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