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第三十四話 確認と思索

 俺たちはヴィクトルの部屋を出た後、階段を下りパーティー会場まで向かっていた。ここで階層移動するときはあの神具を使っていたため階段を使うのは今回が初めてだ。構造は螺旋階段になっており階ごとに分断されていない。また、途中からは下の階層の様子が一望できるような造りになっている。手すりの部分も手触りの良い美しい白い鉱石のような物を使っているうえに埃一つない。


 色々と観察しながら一段一段を踏みしめ下りていく。一階、二階と降りヴィクトルが言っていたパーティーが行われる階についた。敷き詰められた赤い豪奢な絨毯の上を遠慮なく歩きながら周りを見渡す。数人の商会員がある部屋へと入っていくのが見受けられたため俺たちもそこへ足向けた。


 中では椅子やテーブルのセッティングや、振る舞われる料理の運び込み、会場の飾りつけが現在進行形で行われていた。だが、九割方準備はもう終わっており、最終調整をしている段階という所だった。俺たちは邪魔にならないように部屋の端の方を通りながら中に入っていく。商会の人たちはこちらをちらりと確認すると何事もなく、作業を続けている。おそらく好きにさせるような指示が出ているのだろう。


「それなりに広い会場ね」


「そうだな」


 俺たちの眼下には百を超えるテーブルと四百を超える椅子、そしてそれを軽々呑み込む空間が広がっていた。テーブル間の間隔は人二人分以上離れており、その大きさは四人分の料理が置かれても問題のないほどだ。


「これでは多人数が襲撃してくると全員守り切るのは厳しいな」


「やっぱり?」


「ああ。俺の炎は間違った人間を焼くことはないが範囲を広げるほど火力は落ちる。この会場全部を包むとすると絶命するまでに一分以上はかかってしまう」


「じゃあ、どうするの?」


「俺以外の人たちに頑張ってもらうしかないな。来客する人間やグランツ商会が元から有する戦力もこの場には配置させるだろうからな。とりあえず俺はヴィクトル、ハクヨウ、アリエスだけに注力するとするよ」


「余力があればちゃんと他の人も助けなさいよ」


「分かってるよ」


 俺はさも当然と言った様子で笑顔で頷く。実際のところはこの三人の安全が完全に確保できない限りは他の人間には意識を裂く気もないのだが。


「本当に分かってる?」


 アリエスは目を細め俺をにらむ。長い付き合いだ。心を読まれなくても俺がどんな思考をする人物かはばれている。


「いざとなったら私がやるからね」


「それで構わない。だが、やりすぎるなよ」


「分かってる」


 アリエスは腕を組み、不服気な表情を浮かべているが気にしないでおこう。


「まあ、結局流れで助けることになるかもしれない。そんなに心配するなよ」


「流れって?」


「おそらくだがヴィクトルはお前のことをゲストとして大大的に紹介するだろう。その方がグランツ商会としての格が上がるからな。さらに、そうなればここの警備は否が応でも俺たちが責任を持つことになる。死人を出せば本来ならグランツ商会の責任になるはずのところが俺たちの責任になるしな。彼としては一石二鳥だ」


「そんなことを考えていたの……」


 アリエスは苦い表情を浮かべている。それはヴィクトルという人間の人間性に対してか将又己の思慮の浅さに対してかはわからない。


「あまり気にするなよ。この方面は俺の仕事だ」


「違うわよ。どんな内容でも私たちの仕事よ。そうでしょ?」


 アリエスは美しく笑う。その春の陽光を思い起こさせる優しさに俺は思わず頬を緩める。


「そうだな。これは俺たちの仕事だ」


 俺は顔をそらしながらそう呟く。くすくすと笑うアリエスの笑い声が鼓膜に響いてくるのを感じる。


「さあ、どうするか考えましょう」


 俺たちは今後の方策についてパーティー開始まで話し合うのだった。

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