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第三十二話 アミューズ

 一晩が明け、護衛を任させたパーティが開催される日となった。俺たちにとっては疑いのある人物が一堂に会する貴重な機会でもある。俺は眩い朝日に照らされながら体を伸ばし、蒼い炎で体を清める。年季の入った廊下を歩き、ぎしぎしとなる階段を下りていく。今日はアリエスも起きているようでいつものテーブルに座っていた。


「おはよう、シン。いよいよね」


「そうだな」


 俺は彼女の対面の椅子に座り、食事が来るのを待つ。漂う匂いからもうすぐ来ることは分かっている。俺の中で期待が高まっていく。大男のアンガスが厨房から二枚の大皿を持って出てくる。


「ほら、朝飯だ。なんか大事な日なんだろ?気合い入れてけよ」


 白い皿に乗っていたのは瑞々しい野菜のわらだといつものサンドイッチだったが中に挟んでいるものが違う。おそらくこれが香ばしい匂いを放っていたものの正体だろう。


「聞いて驚け。このパンに挟んでいる肉は竜の肉だ」


 俺たちはその発言にアリエスは信じられないと目をぱちぱちさせ、俺はごくりと唾を呑みこむ。竜と言えば魔物の中でも最上位に位置する魔物だ。実質生態系の頂点と言っても過言ではない。そもそも竜の生息数はおそろしく少ない。つまり、この肉が本当に竜の肉ならば希少どころではない。


「……本当に竜の肉か?亜竜の間違いだろ」


 アンガスはにやりと笑い、俺の肩をポンと叩く。


「正解だ」


 アンガスは愉快そうに大声で笑いだす。アリエスはその言葉に安心したのか胸を撫でおろした。その気持ちも分からなくもない。本物の竜の肉なら俺たちが払った値段程度では本来食べられない。そんなものを出して来ればこの男の頭……もとい店の心配をしてもおかしくない。


 だが、結局亜竜の肉でもそれなりの値段はする。俺たちが過剰に支払った金額を無にするくらいには高い。本当にこの男は何なのだろうと胡乱な視線をアンガスに向ける。


「おいおい、そんな目で俺を見るなよ。俺だって馬鹿じゃねー。店潰すようなことはしねーよ。ただ今回は知り合いが融通してくれたもんでお得意様のお前さんらに振る舞っただけよ」


「……まあそういうことなら」


 俺は納得したことにして亜竜のサンドイッチにかぶりつく。暴力的な旨味が舌を刺激する。噛む度に溢れ出す肉汁が濃厚で次々と噛り付いてしまう。あっという間に食べ終わり、残りのサラダに口をつけ始める。このサラダにも工夫がしてあり肉の風味を損なわないような何らかの仕掛けが施されていたようだ。本当に何故こんな辺鄙なところで料理人をしているのか全く分からない。


「満足したよ。流石だな」


「そうかそうか」


 アンガスは嬉しそうに食べ終えた二枚の皿を運んでいく。向かいに座るアリエスも恍惚とした表情を浮かべ余韻に浸っているようだ。


「朝から凄いものを食べてしまったわね」


「そうだな」


「本当にこの宿にしてよかったわ」


 アリエスはぼろぼろの店内を見ながらそう言った。


「俺もそう思うよ」


 俺たちは食事を終え、グランツ商会の塔へと向かう。確かな覚悟を持って。

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